230 / 247
ガンガルシア王国編
212話 主人公、熟考するー1
しおりを挟むその後。
ワイバーンは討伐隊によって、討伐された。
しかし、討伐完了まではかなりの時間が必要だった。このワイバーンは、少しでも残っていると再生するらしい。だから、欠片も残さず焼却するのに時間がかかったのだ。
倒すのにも時間がかかって、消滅させるのにも時間がかかるって…。さすが特A級。
そんなに強いワイバーンを相手にしてたんだ。
ホント死ぬかと思ったよ。
僕達はあれから、アリシアとシグルトに事情を説明した。「だましてごめんね」と謝る僕に、二人は自分達のためにしてくれてありがとうと言った。自分のパートナーと、いろいろ話し合ったようだ。
アリシアはその後、討伐者をやめてマルクトールに戻ることを選んだ。防御結界強化の研究をしたいから、という理由だ。
人を傷付ける術より、守る術を研究したいなんて…。防御結界が破壊されるという経験は、アリシアにとって余程ショックな出来事だったんだな…。自分の心が変化してしまうほどの、体験。それが良いことだったのか、悪いことだったのか、それは分からない。それを決めるのは、その後の人生だ。その後の人生が幸せなら、それは必要な経験だったと思えるのだろう。
シグルトは特A級の討伐に参加したことで、ランキングに名前がのることになった。これなら、サイゾウの出した条件を達成したことになる。アリシアとのチームを解消して、しばらくはサーシャのチームで修行すると言っていた。
サーシャは、「今のシグルトなら受け入れてやる」と言って、強制的に修行することになったらしい。『死にたがりとはチームを組めない』というのが、サーシャの考えのようだ。サーシャにはシグルトの本質が分かってたんだな。だから稽古をつけたけど、そのままにしてたんだ。生きて帰れば次がある。戦闘好きなサーシャは、それを信条としているのだ。
恐怖を知ったシグルトは、きっと闘い方も変化するに違いない。シグルトには、討伐者を続けてほしい。そして、生き残ってほしい。生きて帰る闘い方をデュラハンも望んでいる。後はデュラハンが、シグルトをうまくサポートするだろう。
僕達はこうして、アリシアとシグルトと別れたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
「タムの様子はどうかな?」
ここは王宮の一室。僕とタムは現在、王宮に滞在している。部屋の中には朔夜がいた。
「タクミ。いま落ち着いて寝たところや。発作が定期的におきとる。原因は分からん。原因が分からんもんは、治癒の術も効かんから、なんともならん…。」
深刻そうな顔で話す朔夜。
タムの容態はかなり悪いのかもしれない…。
アリシアとシグルトと別れて、次はどうしようかとタムと相談している時にそれはおこった。
何の前触れもなく、タムが意識を失ったのだ。
タムの左手が光り、碧が出現する。
「タクミ、大変~。何かの病気が再発したの~。どこか休めるところはないかな~?」
いつもはノンビリな碧の声も、焦っているように聞こえる。
「ガンガルシアの知り合いはガルシア様だけだ。ミライ!ガルシア様に連絡!」
「あい!もうしたよ!」
さすがミライ!仕事が早い!
ガルシアはすぐに現れ、王宮へとつれていってくれた。王宮では朔夜が診てくれるが、原因は分からない。タムは言っていた。次から次へと病になるのだと。
まさか、もう再発?そんな…。
治ったばかりなのに…。
王宮の一室で眠るタム。
これからどうしよう。またスカラに行くことがいいのだろうか…。
眠るタムの顔を見ながら考えていると、タムの目が開く。思ったより時間が経っていたようだ。
「タクミ…。心配かけて悪かっただ。」
上半身を起こしながら、タムが謝る。
「もう起き上がっても大丈夫?」
「こんなことは、いつものことだべ。もう少しもつと思っただども…。」
「朔夜は原因が分からないって言ってた。スカラに行った方がいいんじゃ?」
「それは、後でいいだよ。タイジュからの問題を解決するまでは、スカラに行く気はないべよ。」
初代王タイジュから、答えを出せと言われた問題。この世界の未来を決めるもの。
「タクミ。少し話をしたいだよ。」
タムの真剣な表情に、僕は黙って頷く。
「タクミはこの世界の全ての国を体験しただな?感想を聞いてもいいだか?」
僕はこの世界で見たり聞いたり、体験したことを思い出しながら、言葉にする。
「この世界で出会った人達は、みんなとても良い顔をしていた。不幸な顔をしている人はいなかった。良い世界だと素直に思ったよ。そして、このガンガルシアを見て確信した。この幸せには、パートナー精霊の存在が絶対必要だと。」
「んだな…。ガンガルシアは特にそうだべ。この国の人達は、カッとなりやすいし、すぐに自分を優先しようとするだよ。誰か止めてくれる存在が絶対必要だべ。」
「アースにもカッとなりやすい人はいる。そういう人達が度を越えたことをしないように、法律や社会のルールがあるけど、完全な抑止力にはならない。」
「法律や社会のルールでは、目の前の暴力は防げないべ。それに、常に冷静沈着でいられる人なんていないだ。目の前で大切な人が傷付けられたら、カッとなるだよ。」
「うん。人が全員、理性的で非暴力的な人なら法律も社会的ルールも必要ないと思うけど、それは無理だよ。怒りは人が持ってる正常な感情なんだから…。」
「んだ。だから初代王タイジュは、紋章システムを開発しただよ。実際に止めてくれる存在であるパートナー精霊。そして、何があっても人を守る防御結界。だからこの世界には、絶対的な強者も絶対的な弱者もいない。パートナー精霊と防御結界が無くなったら、安心して暮らせないべよ。」
紋章システムはこの世界に必要なもの。
それが僕の考えた結論だ。
0
あなたにおすすめの小説
最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~
渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。
彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。
剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。
アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。
転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった!
剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる