229 / 247
ガンガルシア王国編
211話 主人公、恐怖を知るー4
しおりを挟む身体に穴があく。
何かが身体の中を這いまわる。
気持ち悪い…。痛い…。
暗闇の中を悶えながら這いずりまわるイメージが、永遠に続く。
僕、死ぬのかな…。これが死の恐怖…?
誰かが僕を呼ぶ声がする。
『タクミ!タクミ!』
(ミライ?僕の理解者。いつも一緒にいてくれる存在。)
『タクミ!目を覚まして!』
(ミライが呼んでる…。僕が居なくなったら、ミライはどうなる…?)
『タクミ!タクミ!』
(そうだ…。僕がミライを守らなくちゃ!)
ミライのことをハッキリと意識した僕は覚醒する。目をあけると、そこにミライがいた。そして、ガルシアの顔が見える。
「よぉ、タクミ。目が覚めたか?」
「ガルシア様…。ハッ!ワイバーンは?」
僕はガバッと起きあがる。人型になっていて、どこにもキズは無い。
「あれっ?身体に穴がいっぱいあいて…。」
「ガハハッ!最初に来たのが俺で良かったな!」
「じゃあ、ガルシア様が治療を?」
ありがとうございます!さすが王様!
感謝の言葉を言おうとした僕は目が点になる。
「いや、俺は何もしてない。服を出しただけだ!裸のままだと恥ずかしいだろ?」
はぁ?どういうことだ?
「タクミ!タクミはドラゴンだよ。魂が傷付かない限り、死なないから!穴があいても、再生可能だよ!はじめての戦闘だし、身体に穴があいたショックで気を失ってただけ!気を失ってすぐにガルシア様たちが来てくれて、ガルシア様の目の前でヒトの姿に戻ったんだよ。」
「来てくれた?ガルシア様たち?」
「ほら、あそこ」と、ミライが視線を向けた先では、大勢の討伐者がワイバーンと闘っていた。
「おぅ!久しぶりの特A級討伐だから、サーシャ達が張り切って、討伐隊を編成したぞ!来るまでに時間がかかってすまなかったな。タクミが時間を稼いでくれてたんだろ?」
よかったぁ…。
安心で身体からチカラが抜ける。
「治癒の術が得意なヤツラもつれてきたから、アリシアとシグルトも大丈夫だぜ。」
「あっ、ありがとうございます…。じゃ、タムは?」
「今はあっちだ。」
ガルシアがワイバーンの方を指し示す。
「穴だらけのドラゴンを見たタムがぶちギレてな。ワイバーンに一撃いれてやるって、走っていったよ。」
「タムが…。」
「安心しろ!ドラゴンの姿は他のヤツラには見られてないから。ミライの話じゃ、ドラゴンの姿で倒れてすぐに俺とタムが来て、その後ヒトに戻ったってことらしい。」
「あい!タクミの本質はヒトなの。ヒトの姿が本当の自分だと思ってるから、気を失った時にヒトに戻るんだよ。」
そうか…。ヒトの魂が残ってるって、ソラは言ってたな。
「しっかし、よく特A級に一人で挑んだな!一人で挑んだタクミは有名人になってるぞ!ガハハッ!」
「それは…。仲間を助けるためですから。ホントはすごく逃げ出したかったですよ。あのワイバーンの雰囲気は尋常じゃないし。」
「確かにな。あのワイバーンの強さは異常だ。初めてあの特A級が出現した時は、町ひとつと、大勢の犠牲が出た。でも今は討伐隊を編成して討伐することになってるから、大丈夫だ。じきに討伐されるだろう。シグルトもサーシャに連れて行かれたぞ。あの辺りで闘ってる。」
「シグルトが…。」
「おぅ!タクミが怖さを教えてやったんだろ?慎重に闘うようになったみたいだ。これから、いろんなものを克服していく必要もあるが、成長できたと思うぞ。」
シグルトが成長できたのなら良かった。でも、アリシアは…。
「アリシアはどうしてますか?」
「それが…。目が覚めないらしくてな…。会いに行くか?」
アリシアはここから少し離れた作戦本部で治療を受けているらしい。キズはふさがったのだが、意識が戻らないのだという。僕は急いでアリシアの所に向かう。
アリシアを診てくれていたのは、朔夜だった。
「久しぶりやな。タクミ。」
「朔夜が治療を?アリシアの意識が戻らないって聞いたけど…?」
「あぁ。キズはすっかり治癒完了や。傷付いていた内臓も再生完了。何も問題ないはずなんやけど、目が覚めない。パートナー精霊も出てこないところをみると、精神的な衝撃が原因かもしれん。」
精神的なもの?パートナーのラトニーも出てきてない?
僕はドラゴンの瞳を発動する。
たしかにアリシアの周りの精霊が不安定になっているようだ。僕はラトニーに話しかける。
「ラトニー、ラトニー、もう大丈夫だ!出てきてほしい。」
僕は周りの精霊のチカラを借りながら、ラトニーに呼びかける。すると、アリシアの左手が光った。
「タクミ!助かったのである。具現化できなくて困っていたのである!」
「ラトニー、アリシアが目覚めないんだ。ラトニーが呼んだら目覚めるかも。僕もミライの声で目が覚めたから。」
パートナー精霊と使用者には、強い絆がある。ラトニーの声ならアリシアに届くはずだ。
「アリシア!アリシア!起きるのである!もうワイバーンはいない。大丈夫なのである!」
ラトニーは必死にアリシアを呼ぶ。
「うっ、うん…。ラトニー?」
アリシアの目が覚めたようだ。
「あっ!ラトニー!無事なの?」
アリシアの第一声はラトニーを心配するものだった。アリシアはメタリックボディの流動体を抱きしめて、泣いている。
「ラトニー…。ラトニーが助けてくれた。ありがとう…。そして、ごめんなさい。」
「アリシア!目が覚めて良かった!どこか痛いところはない?大丈夫?」
「タクミ…。私は大丈夫。ラトニーが助けてくれたから。」
「ラトニーが助けた?」
「うん。ディルに襲われて防御結界が破られた瞬間、あのディルは私の心臓を狙っていた。それをラトニーが身体を張って、遮ってくれたの。そのディルがお腹に食いついたんだけど、ラトニーがいなかったら心臓に穴があいていたわ。王宮にも連絡していなかったから、心臓に穴があいていたら、死んでた。それに、助けてくれたラトニーは、私の目の前で消えてしまって…。」
「そういうことか!ラトニーはその衝撃で具現化できずにいたんやな!アリシアはラトニーが消えたと思って、精神的にショックを受けたんや!」
「だから、目が覚めなかった?」
「私、ラトニーがいなくなっちゃうと思ったの。私はラトニーの言うことを聞かなかったのに、ラトニーは私のことをかばってくれた…。そんなラトニーが居なくなるなんて耐えられない。」
「大丈夫なのである。我輩はアリシアとずっと一緒なのである。」
「ごめんなさい。私、自分勝手だったわ。あまりにも上手くいってたから、調子に乗ってた…。自分の思い通りにならないものなんて、いっぱいあるはずなのに。そんなもの無いって思ってた。」
アリシアの心にも変化があったようだ。後はラトニーが彼女を良い方向に導くだろう。
ワイバーンを無事討伐できたら、アリシアとシグルトにはキチンと事情を説明しよう。ラトニーとデュラハンとは守秘の約束をしているが、アリシアとシグルトにも話すべきだろう。今の二人ならきっと理解してくれる。言葉では理解できないものってある。体験したからこそ分かるものが、この国にはあった。
カシムが、ガンガルシアに来てほしいと言っていたのは、コレを体験させるためだったのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~
渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。
彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。
剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。
アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。
転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった!
剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる