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序章
5話 主人公、異世界の原理を知る
しおりを挟むナビ太、と朔夜さんは呼んでいる、羽が付いた小さな黒猫。
これが精霊?
不思議そうにナビ太を見つめる僕にセシルが声をかける。
「田中よ。田中はこちらの世界、エレメンテに来てから、身体が軽く感じてはいないかのぅ?」
「はい、なんだか息苦しさが無いというか、身体が元気になったというか。不思議な感覚です。」
「あちらの世界、アースには、空気というのがあるな?ヒトは空気がないと死んでしまう。空気が少ないところに行くと息苦しくなって、身体もうまく動かなくなる。そうじゃな?」
標高が高い山に登ると、酸欠状態になって、様々な症状が出る。それは、空気、つまり酸素が少ないために起こる。
「いわゆる高山病のことですね。」
「そうじゃ。アースのヒトが酸素を必要としているように、エレメンテの人々は生きていくのに、精霊が必要なのじゃ。精霊は普段は目には見えない。だが、確実に存在している。そこにいるナビ太は、その精霊を具現化したものじゃ。」
僕はまたまたナビ太をジッと見てしまう。
うーん。羽が付いてるけど、ただの小さい猫にしか見えない。
あっ、でも、喋ってた!
「エレメンテでは、何をするにも精霊が必要じゃ。いま田中が普通に会話できておるのも、精霊の協力があるからじゃ。この中で、日本語を話しておるのは、田中だけじゃと気づいておったか?」
!!!
そうだよ、僕は日本語しか話せない。なのに、ちゃんと会話できている。こちらに来たときに出会った男たちの会話も理解できていた。
「僕、日本語しか話せないです。でも、最初に出会った男たちの言葉もガルシア様の言葉も理解できていました。」
「おぅ、タクミ。最初に会ったとき、お前はドラゴンだったな。そのときに思ったことを心で伝えるって教えたな。お前はいま無意識に、それを実践してんだよ。」
「念話、と言うのじゃが。田中にはテレパシーと言った方がわかりやすいかのぅ。」
「テレパシーということは、思ってることが全部伝わってしまうってこと?」
「いや、精霊はあくまでも、手助けをするだけじゃ。口に出して伝えようとしている言葉だけを、相手に伝えてくれる。心で思ったこともそうじゃ。相手に伝えようと強く思わなければ、伝わらない。」
「でも、朔夜さんは関西弁ですよ。それってどうなってるんですか?」
「朔夜は関西弁で伝わるように、と意識して話しておるからじゃろう。我にも関西弁で話しているように聞こえておる。それは、我が関西弁というのを理解しておるからじゃ。」
「はぁ、何だか便利な仕組みですね。」
「エレメンテには、かつて様々な種族が住んでいました。それぞれが別々に暮らしていた頃は、それぞれ別の言葉を話していたのです。でも、念話という、この世界特有の仕組みがあったので、不自由なく交流できていました。この仕組みを担っていたのが、精霊という存在なのです。」
トールくんが解説してくれるが、僕には何となくしか、理解できない。
「まぁ、とにかく、エレメンテでは何をするにも精霊が媒介しておる。理解する必要はない。そういうものだと思っておけばいいのじゃ。」
「それと、そのナビ太くんはどう関係があるのですか?」
僕は素朴な疑問を聞いてみる。
「朔夜、甘いものを食べたので、何か飲み物が欲しいのぅ。」
僕の質問には答えず、セシルが朔夜に声をかける。
「ナビ太、セシルさまが飲み物をほしがっとるで。」
朔夜がナビ太に声をかけると、朔夜の左手の甲が淡く光りだす。
「セシルさまは、熱いテリル茶がお好きだったにゃ?」
ナビ太がそう言うと、空中に、湯気の立つお茶が入ったティーカップが出現した。朔夜が空中で掴んで、セシルの前に置く。
「熱いから、気をつけて飲むんやで。前と違って、猫舌やろ?」
「さすが、朔夜じゃ。猫舌のことは言ってなかったのにのぅ。」
「あの、セシルさま。今のは魔法というヤツですか?ガルシア様の左手の甲も光ったと思ったら、服が出てきてましたよね?」
「朔夜、左手の甲を田中に見せてやってくれるかのぅ。」
朔夜さんが、僕に左手を見せてくれる。朔夜さんの左手の甲には、何やら紋章がうっすら見えている。
「これはな。ガンガルシアの紋章や。」
「そう、俺の国の国民である、っていう証だよ。凄いだろ。」
ガルシアがドヤ顔で言う。
「各国の国民の左手の甲には、それぞれの国の紋章が刻んであるのじゃ。その紋章は、その国の国民であるという証。その紋章を持つ者は、その国から衣食住を確約される。
紋章に願えば、大抵のものは出してくるのじゃ。だが、使い方が少し特殊でのぅ。その使い方を手助けしてくれるのが、ナビ太のような存在じゃ。
使用者のみならず、使用者の近しい者の好みまで覚えてくれていたり、と、仕事の出来る秘書!いや、執事!みたいな感じかのぅ。」
いやいや、僕は秘書も執事も居たこと無いから、わかりませんよ。セシルさまの例えは、よくわからないなぁ。
「深く考えんなや。自分はな。やりたい事をいろいろ手助けしてくれて、時には、こうした方がいいにゃ、と指示してくれるから、ナビ太って呼んでるんや。」
あぁ、ナビゲーションのナビね。なんて安易なネーミング。だから、ナビ太は嫌がってたのか。
「ナビ太、もう戻ってええで。」
「はいは~い。また何かあったら、呼ぶにゃ。」
朔夜がそう言うと、ナビ太はフワッと光の粒になって消えた。
「その紋章に願えば、大抵のものは出してくれるんですよね?まさか、この美味しい料理も、その紋章から?」
「ちゃうわ!」
朔夜から、激しい抗議を受ける。
「ちゃんと作ってるわ!自分の仕事は、料理すること、やからな!」
「いや、最近は王宮のオカンが仕事になってるけどな!ガハハ!」
ガルシアが茶化す。
「ガルシアさまが、ドラ○エって言ってたのは、ゲームに出てくるアイテムボックスと紋章の仕組みが似てるってことですね。」
「おっ、よく気付いたな!
日本に行って、初めてゲームをやったときにな、これだって思ったんだよ。
アイテムボックスは中にアイテム入れておけば、どこでも出せるだろ?しかも、食べ物も腐らない。薬草とか、最後の方は貯まるばかりで使わないけど、アイテムボックスの中で腐って使えなくなりました、なんて事にはならないだろ?無限に物が収納できて、食べ物も腐らない。そして、場所も必要ない。普通は収納場所が必要だろ?巨大倉庫みたいな。
もし、現実世界にあったら、すごい技術だと思わないか?
エレメンテでは、今から500年くらい前にこの紋章システムを考えだしたヤツが居たんだよ。」
「その紋章システムが出来てから、世界は大きく変化しました。アースで言うと、パソコンの出現でしょうか。今ではアースの人々、ほとんどが持っていますよね。」
確かに、家でも会社でもパソコンを使用していた。通勤してるときだって、スマホを持ち歩いて、ずっと使っていた。
そう考えると、パソコンを開発した人ってすごいよな。全世界の人が、1人1台は持つようになる物を開発したってことだよね。特許だけでも、凄いお金になるはず。
「こんな凄いシステムを考えた人なら、大金持ちになったんだろうなぁ。」
あっ、口に出してた。
「ガハハ!大金持ちだとよ!なぁ、セシル。」
ガルシアが何故かセシルに目配せする。セシルは我関せずといった感じで、ナビ太が出したお茶をフーフーしている。
いや、もう冷めてるよね?
猫舌過ぎるって!
心の中で、ツッコンでると、エルから冷ややかな視線が…。
「田中!その紋章システムを開発したのはマスターです。大金持ち、とかいう、下世話な話は止めなさい!」
!!!
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。500年前に開発されたんですよね⁉︎セシルさまは10歳だって、自分で言ってましたよ!」
「田中よ、我はのぅ。この世界で唯一の転生者なのじゃ。」
転生者?どういうこと?
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