異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

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アース編

21話 セシル、精霊について語る

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「紋章システムの精霊って、朔夜が見せてくれた黒猫のことですか?」

 タクミの疑問を聞いたセシルは、少し考えると、こう言った。

「見た方が理解できるじゃろう。チヨ、ノア。お前達の精霊を見せてやってくれ。」

 セシルの呼びかけに、セシル達の話をジッと聞いていた千代とノアが快諾する。二人の左手が輝き出し、何かが出現した。
「これが、チヨとノアの精霊じゃ。」

「セシルさま。ちぃーっす。こんな夜遅くまで、起きてたら大きくなれないぜ!」
 千代の左手から出現したのは、二足歩行の小型犬。どこかで見たようなラッパースタイル。これはまるで、フリースタイルxxxxx!

「セシルさま。本日は戦場でノアが暴走してしまい、誠に申し訳ありません。かくなる上は、わたくしめが切腹してお詫びを!」
 ノアの左手からは、羽織袴の小鬼。この格好、この口調!まさに、ザ!時代劇!

「うわー、どっちもキャラが濃いですねー。」
「田中よ。ドン引くのは止めよ。この紋章システムの精霊はな、その者達の本性に近い姿形や性質となるように、設定してあるのじゃ。」

「いや、でも…。二人ともそんなキャラじゃないですよ。」

「普段の二人とは違うじゃろう?この精霊達は二人の一面でもあるのじゃ。」

「千代さんの中にも、チャラい感じの部分があって、ノア君の中にも堅い武士みたいな一面があるってことですか?」

「そうじゃ。だから、精霊を見れば、その者の性質が大体は分かるハズなのじゃが…。
 この二人は、少し極端な例だったな。リオン、シオン!お主達の精霊も見せてやってくれ。」
 セシルがそう言うと、双子は全力で拒否する。
「「絶対ヤダ!!!」」

「マスターの命令ですよ!」
 双子の背後から、気配もなくエルが現れる。

「ここの結界強化は終わったか?」
「はい、マスター。時間がかかってしまい、申し訳ありません。」
「良い。それだけシルフの力が強いということじゃ。」
「あの2人がモイラの血縁ですか。」
 エルが陽子と月子をジッと見つめる。
「そうじゃよ。変現へんげんした姿はまさにモイラじゃったよ。」

「あっ、あの。モイラさんというのは、もしかして。」
 陽子には、心当たりがあるようだ。
「タクミさんが見た映像の中で、銀髪のとても綺麗な女性がいました。その人がモイラさんですか?」

「そうじゃ。トールの国、マルクトールに仕えておった。」
「そう言えば、あの映像の中で、モイラさんは顔色の悪そうな男の人を、トール様って呼んでたんですけど。」
 タクミが気になっていた疑問を口にする。

「ふふっ。それは、僕の前の前の王様ですよ。」
 トールが即答する。
「エレメンテの国の王は代々、名前を継ぐことになっているのです。」

「では、セシルさまも?」
 セシルの前の姿は、ドワーフのおじいさんだと言っていた。なのに、セシルって…。今のセシルみたいな可愛い女の子なら似合うけど。
「田中の考えておることは、手に取るように分かるのぅ。」
 セシルが呆れ顔で、タクミを見ている。
「ふふっ、タクミさん。エレメンテでは、そういう決まりなのですよ。」
 トールが笑って、そう言った。

 タクミの疑問からのやり取りに盛り上がっていると、再び陽子がモイラのことを口にする。
「あの、モイラさんっていうのは、私のひいおばあちゃんだと思います。父も母も、おばあちゃんは早くに亡くなってあまり覚えてないけど、とても綺麗な人だったって。昔、写真を見せてもらった事があります。」

 ???

 タクミは理解ができず、陽子に聞く。
「陽子ちゃん、どういうこと?」

「えっと、お父さんとお母さんはいとこ同士なんです。」

 陽子の発言に、セシルは納得する。
 それでか!
 シルフの因子を持った者同士の子供!純血のシルフにも劣らない、あの能力はそのせいなのじゃな。それでも、ここアースでシルフの血が目覚めたことは奇跡じゃ。
 モイラよ。お主が奇跡の子と呼んだ子供達の子孫が、シルフとして我の前に現れたぞ。お主は、こうなる事がわかっておったのか?

 セシルがモイラの奇跡に感動している横では、エルと双子の攻防が繰り広げられていた。

「では、リオンとシオン。精霊を出してください。」
「「イヤだよ!!」」
「マスターの命令ですよ!」
「「恥ずかしいから、イヤだ!!」」

 そんなやり取りをしていると、リオンとシオンの左手が光った。

「「初めまして。皆様。リオンとシオンがお世話になっております。」」
 現れたのは、執事服とメイド服を着たウサギのぬいぐるみだった。

「ウサギのぬいぐるみ⁈」

「「あぁっ!だから、イヤだったんだよ!勝手に出てくるし!」」

 陽子と月子が、可愛い!と大喜びだ。

「リオン。髪が乱れておりますぞ。」
「シオン。何かお茶を用意しましょうか?」

 ウサギのぬいぐるみが、2人を甲斐甲斐しく世話を焼く姿を見たタクミは、ポカンとしている。

「田中。口が空いていますよ!」
 エルに指摘され、ハッと我にかえる。

「精霊っていうのは、色々なんですねぇ。」

「ちなみに、リオンの世話をしているのはシオンの精霊で、シオンの世話をしているのはリオンの精霊じゃ。」

「なんで、ウサギのぬいぐるみなんです?」

「双子が昔、可愛がっていたぬいぐるみの姿なんだそうじゃ。紋章システムは使用者の強い想いに反応するからのぅ。」

「それで、これを見せたかったのですか?」
 タクミが呆れ顔で見ている光景は、まさしくカオスだった。

 千代の精霊は、ラップ調に喋りながら千代の周りで踊っている。
 ノアの精霊は、本当に切腹しようと刃物を取り出し、ノアに止められている。
 シオンの精霊は、リオンの髪をとかし、身だしなみを整えていてるし。
 リオンの精霊は、シオンにお茶やお菓子を出し、ティーパーティみたいになってる。 

「まぁ、少し極端な精霊が多いのは仕方ない。」
 セシルがフォローしようとするが、
「「だから言ったじゃん!セシルさまの王宮には変な子しかいないよ!って」」
 と、双子から的確な指摘があったのだった。

「でも、何だか楽しそうです。」
「うん!いいなぁ。あんなに仲のいい友達がずっと一緒にいてくれるなんて!」
 陽子と月子が、素直な感想を口にする。

「あっ!そういう事ですか!この子達、紋章システムの精霊は、使用する人の精神安定剤なんだ!」

「田中にしては、よく分かりましたね。」
 エルが辛辣な言葉を返す。

「人が集団で生活している限り、精神的苦痛を感じることは必ずある。精神的苦痛を感じないよう、あれはダメ、これはダメ、と禁止するのは無理じゃ。限りがないからのぅ。」

「確かに。悪口で精神的苦痛を感じてる子がいたとして、相手の子にそういう言い方は止めなさいって言っても、次から次へと同じような悪口を言う子が現れたら、キリがないですよね。」

「では、どうするか?我は、精神的苦痛を感じた後のフォローが大切だ、と考えたのじゃ。もちろん、そんな悪口を言ってはいけないぞ、という道徳的教育も重要じゃがな。精神的苦痛を感じている者、先程の話で言うところの、許容量がいっぱいになってる者の心を軽くすることこそが、一番重要。では心を軽くするにはどうしたらいいか?」

 セシルは、この部屋にいる精霊達を感慨深そうに眺めて、続ける。

「例えば、いまここに、死んでしまいたい!と思い悩んでる者がいたとする。田中なら、どう声をかける?」

 唐突なセシルの問いに、タクミは戸惑いながらも答える。

「えっと。"死んではダメだよ。君が死んだら悲しむ人がいっぱいいるよ。"
 こんな感じですかね?」

「"悲しむ人はいるかもしれないけど、私の死にたくなるような気持ちをどうにかしてくれる人はいないでしょ!"
 と返されたら、どうする?」

「"悩みがあるなら、僕が聞くよ。君は1人じゃないよ"」

「"私の悩みを聞いても解決できる訳がない。それに、あなたは私とずっと一緒にいる訳ではないでしょ"」

「"確かに、ずっと一緒にいることはできないけど、何かあったら、駆けつけるから"」

「"あなたには、あなたの人生があるでしょ。常に私と一緒にいることは不可能よ。私のことは構わないで。心が弱い私が悪いのだから"」

「…。
 もう、何を言っていいのか分かりません…。僕にも覚えがあるから。」

『グールに取り憑かれていたときは、まさにこんな感じだった。もう死んでしまいたい!居なくなってしまいたい!としか考えなれなくなっていた。そんな人に、なんて声をかけたらいいのだろう?有効な言葉なんてあるのか?実際、あの時の僕には、どんな言葉も響かなかった。』

「今のはな。我が紋章システムを開発する前に出会った、裕福な家の娘の話じゃ。」

「では、本当に実在した人?」

「あぁ、エレメンテでな。誰から見ても不満など無さそうな家庭環境だった。でも、その娘は本人が言うように心が少し弱かった。その娘の恋人が不慮の事故で死んでしまったのじゃよ。」

「恋人が死んでしまったなんて。とてもツライですよね。死んでしまいたくなる気持ちもわかります。」

「しかし、同じような体験をした者達の多くは、実際にはそのまま生きることを選ぶのじゃ。死んでしまいたいと思ってもな。」

『お父様には私の気持ちはわからないわ!生きていくのが、こんなにツライなんて!生きていたら、良いこともあるですって?でもそれ以上にツライことも多いわ。こんな風にしか考えられない私が悪いのよ。もう私のことは放っておいて!お父様にはやる事があるでしょ?』

「娘は本当に死を選ぼうとしていた。そんな時じゃ、モイラと出会ったのは。モイラは精霊の声を聞くことが上手かった。その子の周りに、その子に寄り添う精霊がいることに気づいたのじゃ。
 モイラは言った。
 "この娘の周りにいる精霊達はこの娘をとても心配してる。この声がこの娘にも聞こえたなら、死んでしまいたいなんて思わなくなるのにね"と。
 そこで我は、新しい術を開発することにした。その娘の心に常に寄り添う存在として精霊を具現化する術、をな。」

「人では駄目だったのですか?家族とか。」

「その娘が言ったように、家族には家族の人生がある。その娘に一生寄り添うことはできないじゃろう?その家族が、娘より先に死んだら?」

「そうですね。一生、一緒にいるなんて不可能ですね。でもそれが、人ってものなんじゃないですか?」

「だから、いまだにアース人は悩み、苦しんでおるのじゃよ。田中は、便利なものが開発された時に、"不便なのが普通なので使いません。そんなものに頼らなくても生きていけます!"とかいうタイプなのかのぅ?」

 セシルの独り言のような問いに、双子が答える。

「「あれだよ!アレ!ガラケーにこだわってて、スマホには絶対にしないぞ!とか言ってたのに、結局スマホにして、こんな便利なの、もっと早く使えば良かったーとか言ってる中年と一緒だね。」」

『長いコメントを噛まずにハモれる双子ってスゴイ!』
 じゃなくて。
「そんな感じなんですか?」

「あったり前じゃん!便利なものは使った方がいいでしょ?」
「そうだよ!そりゃ、ウサ吉がウザイときもいっぱいあるけど、やっぱり構ってくれるのは嬉しいし。」
「僕だって、ウサ子が淹れてくれるお茶が一番好きだし。」

「ウサ吉?ウサ子?そんな名前でいいんだ…。」
 タクミが、呆れたような顔で呟く。

「シオンが呼んでくれるなら、どんな呼び方でもいいのです!」
 ウサ子が喜んでいる。
「リオンにそう呼ばれるだけで、わたくしめは嬉しさのあまり、倒れそうになるのです!」
 ウサ吉も嬉しそうだ。

「この精霊は生まれたときから、側にいる。そして、その者が死ぬと同時に見えなくなる。元々、目に見えぬ精霊を具現化しておるだけじゃからな。」

「精霊ってのは、生まれたときから死ぬまで、ずっと一緒なんですね。確かにそんな存在がいたら、心強いですよね。」
 感心したように呟くタクミに、トールが話しかける。
「タクミさん、アースにも似たような話がありますよね。」
 が、タクミはピンとこないようだ。代わりに陽子が答える。
「もしかして、守護霊のことですか?」

「その通りです。陽子さん。」

「お父さんとお母さんが、よく言ってたんです。守護霊がお前達を守ってくれてるからね、って。おばあちゃんの口癖だったのよって。いま思うと、それは精霊達のことかなって。」

「エレメンテとアースは、昔から良く繋がっておったからのぅ。エレメンテからアースへ来た者。アースからエレメンテに来た者。多くおったのじゃよ。だから、同じような伝承や考え方が残っておる。
 昔は頻繁に穴が空いてのぅ。飲み込まれて、行方不明になることも多かった。田中の祖先の中にエレメンテの竜種がいたのは、そのせいじゃ。穴に落ちた間抜けな竜種のご先祖様がいたのじゃな。
 まぁ今は、異世界への扉は我が管理しておるがのぅ。」

「「それで、精霊の具現化はどうなったの?」」
 双子が話の続きを急かす。精霊の具現化の術に、興味があるようだ。

「話が逸れておったな。モイラの協力で、その娘の周りの精霊を具現化することに成功し、その精霊のおかげで、その娘は老衰で亡くなるまで精神的に安定した生活を送った。以上じゃよ。」

「「具現化の術を詳しく聞きたかったのに~!!」」
 双子が、激しくゴネている。
「リオン、淑女は落ち着きというものが、重要なのですよ。」
「シオン、心が落ち着くハーブティーだよ。」
 2人の精霊が、またもや世話を焼いている。

「でも、精霊って、ただそこにあるものって言ってましたよね?」

「確かに精霊は人のようには思考しない。具現化した精霊に擬似人格を与えて、人らしく振る舞うように手を加えておる。でも、本来はそこに存在するだけでいいものなのじゃ。アニマルセラピーというのを聞いたことはないか?我が開発したのは、そのたぐいじゃよ。
 事実、紋章システムの精霊は、使用者が心地良いと思う姿形をしたものが多い。詳しい仕組みはまた今度の機会にするがのぅ。」

「「だから!その辺りを詳しく教えてよ~!!」」
 双子が悶えていた。


『お父様にはね。やらなくてはいけない事がいっぱいあるのよ。だから家にはほとんどいないの。でもあなたはずっと私の側にいてくれた。こんな私のことを大好きだって言ってくれる。ありのままの私でいいって言ってくれる。お父様がね。私に協力してほしいって言うのよ。私とあなたで。世界中の人達が、私みたいに幸せな気持ちになったら何て素晴らしいんでしょう。だから、私、もう死ぬなんて言わないわ。未来の人達のために、何かを残してから死ぬわ。お父様みたいにね。』


「田中、陽子。お主達は共にグールに取り憑かれたが、グールに喰われずに済んだ。
 田中はドラゴンの血が発現し、ドラゴンの高い精神耐性で、心の安定を得たため、グールが吹き飛んだ。
 陽子はシルフの能力が発現し、精霊の声を聞くことができるようになり、心の安定を得たため、グールを制御できるようになった。
 お主達はエレメンテでも特殊なケースじゃ。
 通常のエレメンテの者は、紋章システムの精霊で心の安定を得ておる。
 では、ただのアース人であるサヤカには、どうしたら良いか。もう分かるじゃろう?」

「ここアースには紋章システムの精霊はいない。精霊がいないなら、サヤカの心に寄り添える"人"や"何か"が必要ってことですね。セシルさま。」

「そうじゃ。サヤカがエレメンテの者であったなら、紋章システムによる精霊で、心の安定をはかり、グールを引き剥がすのじゃがのぅ。」

「でも、サヤカにはそんな人物いますか?本当のお父さんは離婚して、出て行ったんですよね。母親はサヤカのトラウマの元凶ですし、今の父親は自分の跡取りの大輝にしか興味がない。
 あと残ったのは、家族だと大輝?学校の友達?それともペットとか?」

「北条さんには、心から信頼できる友達はいないわ。北条さんにとって同じ年の子達は、みんなライバルなの。」

「そうか、サヤカは母親からクラス一番の成績を強要されてるから。」

「ペットも無理じゃな。動物によるセラピー効果はあると思うが、時間がかかるし、その動物との相性もある。今回の作戦には不向きじゃ。一瞬でもいいから、サヤカが心から気持ちが楽になった、安心した、と思えるような人物がいればのぅ。」

 誰かいるかな、と陽子とタクミが思案していると、月子が言った。
「大輝くんがいるよ!」
 その言葉に、タクミは不思議がる。
「サヤカの記憶では、サヤカは大輝を嫌っていたよ。あまり、仲の良い姉弟には見えなかったけど。」

「前ね。私がお姉ちゃんの話をした時に、大輝くんと少しだけお話ししたことあるの。僕のお姉ちゃんも凄いんだぞ、いつもクラス一番になるために、頑張って勉強してるって。でも、お姉ちゃんとは、お父さんが違うから、あまり仲良くしてくれないって。たぶん、大輝くんはお姉ちゃんと仲良くしたいんだよ。お姉ちゃんに勉強教えてもらったり、もっとお話したいって。」

「確かに、家の中に味方ができるのは良いことじゃな。サヤカは学校では、常に気が張っておるしのぅ。」

「大輝くんと大輝くんのお姉ちゃんが仲良くなればいいんでしょ?私とお姉ちゃんみたいに!」
 月子が無邪気に言う。

「でも、そう簡単にはできないよ。あまり仲良くない者同士が、急に仲良くなるなんて。何かキッカケでもあれば…。って、まさか?」

 タクミは自分の発言で、何かに気付いたようだ。セシルを見て、その視線を陽子と月子に移す。

「陽子ちゃんと月子ちゃんの記憶操作!」

「本来は、簡単に使用してはいけない術じゃが、今は非常事態じゃ。それに大輝が本当にサヤカと仲良くなりたいと思っておるなら、好都合じゃ。キッカケを少し作ってやるだけで、良いじゃろう。」

「それより、記憶操作で母親との関係を修復した方がいいんじゃ?」

「田中よ。それは無理じゃ。記憶と感情の操作は、相手が大人じゃと、効きづらい。大人になるにつれて、自分の信じる考えを捨てられず、新しい考えを受け入れなくなるからのぅ。」

「「頑固ジジイのことだね!!前のセシルさまと一緒!!」」
「誰が頑固ジジイじゃい!」
 双子の揶揄からかいに、セシルが素早くツッコミを入れた。

「サヤカの母親は、サヤカがクラスで一番の成績を取ることに固執しておる。そういう強固な思い込みを変えることは、無理じゃ。変えれたとしても、それこそ人が変わってしまった、くらいの変化が起こるぞ。」

「ではやはり、大輝くんが、サヤカの精神安定剤となれるように、キッカケを作る、ということがベストですかね?」

「紋章システムの精霊みたいな完全な効果は無くても、サヤカの心が少しでも軽くなれば、成功じゃよ。」

 しかし、どうしたものかのぅ。そこが思案のしどころじゃ。

 悩むセシルに月子が明るく言う。
「そんなの簡単だよ!お姉ちゃんのことが大好きだよって伝えればいいんだよ!私がしてるみたいにね!」
「ふふっ!そうだね、月子!」
 月子と陽子はお互いの顔を見ながら、笑っている。

 そうじゃな。我は深く考え過ぎだったかもしれないな。

「では、その案でいこう。具体的なシナリオは我が考えるとしよう。サヤカの心に動きがあったところで、陽子がグールを引き剥がす。引き剥がしたグールは…。
 ノア!まだ暴れ足りないじゃろう?切り刻め!さらに、念のため、煉獄滅却術式、ヴォルケーノスフィアで焼却してやれ!リオン、シオン、術式展開できるな?」

「「できるよ!!」」
 双子が張りきっている。

「それでは、作戦は一週間後に決行じゃ。少し調べたい事もあるからのぅ。」

「時間をあけて、大丈夫ですか?」
 タクミが心配そうに聞く。
「今日の出来事で、北条さんの心の一部をみんなで共有したから、少しは心が軽くなっていると思うわ。本人は無意識だけどね。」
 だから、まだ大丈夫!と陽子が断言する。

「陽子、月子。しばらくは、このままの生活が続くが大丈夫か?」

「大丈夫だよ!精霊さん達もいるし、セシルちゃんも学校来るでしょ?」
 月子の無邪気な問い掛けに、セシルは目をそらしながら、消極的な返事をする。
「できるだけ、行く…。」と。

「私も大丈夫です。セシルさまに、クラスのみんなには、それぞれの考えがあって行動してるって気付かせてもらったから。もしかしたら、私の事を頼りにしてくれてる人もいるから、係を任されたのかもって思えるようになったし。
 もし、そうじゃなくても、私の頑張りは精霊達が見てくれているから。私、頑張れます!」
 陽子が明るく言う。

 誰かが常に見ていてくれる、励ましてくれるというのは、本当に心の安定に繋がるのじゃなぁ。以前の陽子とは、表情が別人じゃ。前は張り詰めたような緊張感が顔に出ておった。月子や母親を守ろうと、気を張っておったのじゃろう。

「母親のことは、我が調べておこう。もし、本当に恋人がいるなら、お前達も安心してエレメンテに移住できるしのぅ。」

「「はい。よろしくお願いします。」」
 陽子と月子は、満面の笑みで返事をしたのだった。

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