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セシリア王国編
38話 主人公、異世界の歴史を学ぶー4
しおりを挟む「実は、セシリア王国の初代の王は、世界を統一しようと思ってはいなかった、と伝えられています。」
「えっ?どういうこと?」
最初に質問した男の子が驚く。
「初代の王が、紋章システムを開発した理由はただ一つ。グールに取り憑かれる者を無くしたかったからだ、と後に語っています。どうしたら、グールに取り憑かれる者を無くせるのか?それは、人として必要なものを、全ての人に平等に提供することだ、と考えたのです。人として必要なものって何か、わかるかな?」
近くの男の子に聞く。
「紋章システムって、何でも出してくれるんだよね?欲しいもの全部ってこと?うーん、わからないよ。」
「人として必要なもの、それは、君達がファミリアで学んでいることだよ。つまり、衣食住だ。毎日ご飯が食べられて、住む家、着る物があって初めて、人はこれからのことを考えることができる。初代の王は、そう考えました。」
そういえば、日本にも似たような故事ことわざがあったな。"衣食足りて礼節を知る"ってヤツだ。人は生活の基本が満たされていることで、初めて礼儀や節度をわきまえられるようになるって意味だったはず。
それに、前にエルが言っていたな。セシルは飢えで亡くなる子供を無くしたかったと。
「だから、初代の王は、全ての人に衣食住を保障する紋章システムを開発しました。衣食住が満ち足りていれば、グールに取り憑かれる者がいなくなり、怪異が発生しなくなるだろうと考えたからです。王は紋章システムを開発後、積極的に難民の受け入れをしました。その時代は、戦争も多く、親を亡くした子供、子供を亡くした親、様々な人達が、行き場を無くしていました。だから、その人々に紋章を授けたのです。
紋章システムは便利なものですが、使用する人が賢くなくては使えません。初代の王は、まず使用者の教育をはじめました。そして、セシリア王国と呼ばれる前のここ、浮遊島セシリアでしか使えないものであることを、強固に約束させました。つまり、この島を出て行くならば、紋章システムは剥奪されると。」
ちょっと待って!いま浮遊島セシリアって言った?天空の国って言われてるのは、王宮が浮いてるからだと思ってたけど、そうじゃないんだ!この陸地そのものが浮いてるんだ!僕、思い切り勘違いしてたよ!
「難民の中には、種族単位で避難してきている者達もいました。その種族は、戦争に巻き込まれ、住んでいた土地から逃げざるを得ない者達でした。だから、何年かして、戦争がおさまると、国に帰って行く者が出ました。紋章システムという便利なものよりも、昔からの暮らしを大切にしたいと言って。ところが、また何年かすると、今度はその種族の中の母親達が避難してきたのです。今までの暮らしを捨てて、戻ってきた。それは、子供達に飢えの無い、満たされた生活をして欲しいという思いがあったからです。
こうして、浮遊島セシリアはどんどん人口が増え、初代を王とする王国になっていったのです。」
「確かに、一度紋章システムを使ったら、紋章システムの無い生活なんて考えられないよなぁ。」
男が言う。
「そんなにいいものなの?」
近くの子供が興味津々で聞く。
「そりゃ、そうだろ?お前も早く成人しろよ。まだ精霊も誕生してないのか?楽しみだな!」
「うん!早く大きくなりたいよ!」
ここの子供達は、大人になるのが楽しみなんだな。日本じゃ、大人になっても大変なことばかりで、できたらずっと子供が良かったなと思ってる大人は多いはずだ。
この世界が羨ましいな。便利な道具もいっぱいあるし。
「もうこれで、わかりましたね。初代王がどうやって世界を統一したのか?」
「紋章システムっていうスゴイ発明をしたから、だよね。」
最初に質問した男の子が、そう答える。
「はい。画期的な発明だということもありますが、一番素晴らしかったのは、全ての人が平等に使用できる発明だったという点です。結局、世界統一に必要だったのは、武力でも経済力でも、強固な思想でも無かったのです。」
でもここで、僕は疑問に思う。平等にって一番難しいことだよね。ひとつのおにぎりで満足できる人もいるだろうし、そうじゃない人もいる。そのあたりは、どうなんだろう?
僕は思い切って、ライルに質問してみる。
「平等って、どういう意味の平等なんですか?」
「いい質問ですね。実はそのために精霊がいるのです。あなた達が成人するまでの約16年間で、精霊はあなたの好みや思考を全て記憶し、どのような事で心が満足するかを把握しているのです。だから、例えば、食べることが好きな人には、精霊が常に新しい料理を調べてオススメしたり、古代の歴史に興味がある人には、新しい遺跡が発見されたら真っ先に教えてくれます。あっ、これは僕の場合です。ふふふっ。」
ライルの言葉に、参加者が笑う。
「なるほど、そのための精霊なんですか。」
「心が満たされてる人は、無茶な要求はしません。初代が紋章システムを提供し始めの頃は、お母さんを生き返らせてと願う子供もいましたし、黄金を山程出せと怒鳴る大人もいました。初代は、そういう人に、根気強く紋章システムの使い方を教えました。そして、教育の大切さに気づき、このファミリアを作ったのです。」
なるほどなぁ。紋章システムは、とても便利な道具だけど、使用者の倫理観や道徳観がしっかりしてないとダメだよな。
「まぁ、無茶な要求をしても、精霊が許可を出してくれませんけどね。ふふふっ。
と、ここまでの話で精霊に興味が出た方は、また別の指導者のラートルに参加してくださいね。僕は精霊の専門家ではないので。」
しっかり、他の人の宣伝もしてる。さすが人気があるって言われてるだけあるな。
「紋章システムが開発されることになった歴史は、理解できたかな?これに興味が出て、もっと詳しく知りたいと思ってくれた子は、リブラにリブロスがあるから、それを見てね。大人の人は、僕のメモリアにそれぞれ分けてあるので、好きなものから見てください。」
リブラ?リブロス?
メモリア?
聞きなれない言葉ばかりだ。何のことだろう?後でライル本人か、シオンに聞いてみよう。
「では、最後に大いなる呪いについて、少し話そうと思います。」
ライルは、そこで少し哀しそうな顔をする。
「紋章システムが開発さてれから、大いなる呪いについても研究されるようになりました。怪異は昔から存在するので認識されていたけど、原因がグールだというのは、紋章システムが開発されてから、明らかになったんだ。そして、もうひとつ。王の存在だ。
紋章システムが開発されて、全ての人が紋章を授かることになった時に、明らかになりました。この世界には、紋章システムが使えない、つまり、精霊の加護が得られない人がいると。」
僕は、以前セシルやトール、ガルシアが言っていたことを思い出した。
王という呪われし者を見つけるために、紋章システムを開発したって言ってたけど。
「精霊の加護が得られない人は、多くありません。エレメンテの大いなる呪いにかかっているため、精霊の加護が得られないのだと、今では分かっています。その人達は、呪われた存在、呪われし者と呼ばれた事もありましたが、すぐにその呼び名はかわりました。その人達には、大変特殊な能力が備わっていたからです。その人達は、必ず何かの飛び抜けた才能がありました。
セシリア王国の初代王も、実はその呪われた存在でした。しかし、王は開発という才能を持っていた。そして、次から次へと、素晴らしい発明をしました。
そこから、この精霊の加護を得られない人達は、王となりました。同時に存在するのは、必ず7人です。だから、その人達の数だけの国ができることになったのです。
ということで、もし王という存在が近くにいた場合は、必ず助けてあげてください。彼らには、精霊がいないのですから。
ということで、僕の話は以上です。何か質問がある人は、後で話しかけてくださいね。では、参加ありがとうございました。」
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