異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

文字の大きさ
41 / 247
セシリア王国編

38話 主人公、異世界の歴史を学ぶー4

しおりを挟む
 
「実は、セシリア王国の初代の王は、世界を統一しようと思ってはいなかった、と伝えられています。」

「えっ?どういうこと?」
 最初に質問した男の子が驚く。

「初代の王が、紋章システムを開発した理由はただ一つ。グールに取り憑かれる者を無くしたかったからだ、と後に語っています。どうしたら、グールに取り憑かれる者を無くせるのか?それは、人として必要なものを、全ての人に平等に提供することだ、と考えたのです。人として必要なものって何か、わかるかな?」

 近くの男の子に聞く。

「紋章システムって、何でも出してくれるんだよね?欲しいもの全部ってこと?うーん、わからないよ。」

「人として必要なもの、それは、君達がファミリアで学んでいることだよ。つまり、衣食住だ。毎日ご飯が食べられて、住む家、着る物があって初めて、人はこれからのことを考えることができる。初代の王は、そう考えました。」

 そういえば、日本にも似たような故事ことわざがあったな。"衣食足りて礼節を知る"ってヤツだ。人は生活の基本が満たされていることで、初めて礼儀や節度をわきまえられるようになるって意味だったはず。
 それに、前にエルが言っていたな。セシルは飢えで亡くなる子供を無くしたかったと。

「だから、初代の王は、全ての人に衣食住を保障する紋章システムを開発しました。衣食住が満ち足りていれば、グールに取り憑かれる者がいなくなり、怪異が発生しなくなるだろうと考えたからです。王は紋章システムを開発後、積極的に難民の受け入れをしました。その時代は、戦争も多く、親を亡くした子供、子供を亡くした親、様々な人達が、行き場を無くしていました。だから、その人々に紋章を授けたのです。

 紋章システムは便利なものですが、使用する人が賢くなくては使えません。初代の王は、まず使用者の教育をはじめました。そして、セシリア王国と呼ばれる前のここ、浮遊島セシリアでしか使えないものであることを、強固に約束させました。つまり、この島を出て行くならば、紋章システムは剥奪されると。」

 ちょっと待って!いま浮遊島セシリアって言った?天空の国って言われてるのは、王宮が浮いてるからだと思ってたけど、そうじゃないんだ!この陸地そのものが浮いてるんだ!僕、思い切り勘違いしてたよ!

「難民の中には、種族単位で避難してきている者達もいました。その種族は、戦争に巻き込まれ、住んでいた土地から逃げざるを得ない者達でした。だから、何年かして、戦争がおさまると、国に帰って行く者が出ました。紋章システムという便利なものよりも、昔からの暮らしを大切にしたいと言って。ところが、また何年かすると、今度はその種族の中の母親達が避難してきたのです。今までの暮らしを捨てて、戻ってきた。それは、子供達に飢えの無い、満たされた生活をして欲しいという思いがあったからです。
 こうして、浮遊島セシリアはどんどん人口が増え、初代を王とする王国になっていったのです。」

「確かに、一度紋章システムを使ったら、紋章システムの無い生活なんて考えられないよなぁ。」
 男が言う。

「そんなにいいものなの?」
 近くの子供が興味津々で聞く。

「そりゃ、そうだろ?お前も早く成人しろよ。まだ精霊も誕生してないのか?楽しみだな!」

「うん!早く大きくなりたいよ!」

 ここの子供達は、大人になるのが楽しみなんだな。日本じゃ、大人になっても大変なことばかりで、できたらずっと子供が良かったなと思ってる大人は多いはずだ。
 この世界が羨ましいな。便利な道具もいっぱいあるし。

「もうこれで、わかりましたね。初代王がどうやって世界を統一したのか?」

「紋章システムっていうスゴイ発明をしたから、だよね。」
 最初に質問した男の子が、そう答える。

「はい。画期的な発明だということもありますが、一番素晴らしかったのは、全ての人が平等に使用できる発明だったという点です。結局、世界統一に必要だったのは、武力でも経済力でも、強固な思想でも無かったのです。」

 でもここで、僕は疑問に思う。平等にって一番難しいことだよね。ひとつのおにぎりで満足できる人もいるだろうし、そうじゃない人もいる。そのあたりは、どうなんだろう?
 僕は思い切って、ライルに質問してみる。

「平等って、どういう意味の平等なんですか?」

「いい質問ですね。実はそのために精霊がいるのです。あなた達が成人するまでの約16年間で、精霊はあなたの好みや思考を全て記憶し、どのような事で心が満足するかを把握しているのです。だから、例えば、食べることが好きな人には、精霊が常に新しい料理を調べてオススメしたり、古代の歴史に興味がある人には、新しい遺跡が発見されたら真っ先に教えてくれます。あっ、これは僕の場合です。ふふふっ。」

 ライルの言葉に、参加者が笑う。

「なるほど、そのための精霊なんですか。」

「心が満たされてる人は、無茶な要求はしません。初代が紋章システムを提供し始めの頃は、お母さんを生き返らせてと願う子供もいましたし、黄金を山程出せと怒鳴る大人もいました。初代は、そういう人に、根気強く紋章システムの使い方を教えました。そして、教育の大切さに気づき、このファミリアを作ったのです。」

 なるほどなぁ。紋章システムは、とても便利な道具だけど、使用者の倫理観や道徳観がしっかりしてないとダメだよな。

「まぁ、無茶な要求をしても、精霊が許可を出してくれませんけどね。ふふふっ。
 と、ここまでの話で精霊に興味が出た方は、また別の指導者のラートルに参加してくださいね。僕は精霊の専門家ではないので。」

 しっかり、他の人の宣伝もしてる。さすが人気があるって言われてるだけあるな。

「紋章システムが開発されることになった歴史は、理解できたかな?これに興味が出て、もっと詳しく知りたいと思ってくれた子は、リブラにリブロスがあるから、それを見てね。大人の人は、僕のメモリアにそれぞれ分けてあるので、好きなものから見てください。」

 リブラ?リブロス?
 メモリア?
 聞きなれない言葉ばかりだ。何のことだろう?後でライル本人か、シオンに聞いてみよう。

「では、最後に大いなる呪いについて、少し話そうと思います。」

 ライルは、そこで少し哀しそうな顔をする。

「紋章システムが開発さてれから、大いなる呪いについても研究されるようになりました。怪異は昔から存在するので認識されていたけど、原因がグールだというのは、紋章システムが開発されてから、明らかになったんだ。そして、もうひとつ。王の存在だ。
 紋章システムが開発されて、全ての人が紋章を授かることになった時に、明らかになりました。この世界には、紋章システムが使えない、つまり、精霊の加護が得られない人がいると。」

 僕は、以前セシルやトール、ガルシアが言っていたことを思い出した。
 王という呪われし者を見つけるために、紋章システムを開発したって言ってたけど。

「精霊の加護が得られない人は、多くありません。エレメンテの大いなる呪いにかかっているため、精霊の加護が得られないのだと、今では分かっています。その人達は、呪われた存在、呪われし者と呼ばれた事もありましたが、すぐにその呼び名はかわりました。その人達には、大変特殊な能力が備わっていたからです。その人達は、必ず何かの飛び抜けた才能がありました。
 セシリア王国の初代王も、実はその呪われた存在でした。しかし、王は開発という才能を持っていた。そして、次から次へと、素晴らしい発明をしました。
 そこから、この精霊の加護を得られない人達は、王となりました。同時に存在するのは、必ず7人です。だから、その人達の数だけの国ができることになったのです。
 ということで、もし王という存在が近くにいた場合は、必ず助けてあげてください。彼らには、精霊がいないのですから。

 ということで、僕の話は以上です。何か質問がある人は、後で話しかけてくださいね。では、参加ありがとうございました。」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

処理中です...