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フラルアルド王国編
セシルさまのお悩み相談室 【本日のお題 仕事】
しおりを挟むタクミ
今日のお題は『仕事』です。
僕はこの世界に来る前、日本でうまく働くことができませんでした。だから、仕事って結局なんなのか、分からなくて。
セシル
タクミがうまく働けなかったのは、自分に合った仕事を選ばなかったからじゃよ。お主は、どちらかと言うと指示された事は良く出来るが、一人でやってみろと言われた事は、あまり上手く出来ない。そうじゃろう?
タクミ
たしかに、そういうところがあるかもしれません。でも、それは日本の教育も悪いと思いますよ!宿題とかって、指示されたことをやるだけですよね?そういう意味では、僕はとても良い子でした。宿題は必ずやるし。
セシル
我は、仕事には2種類あると思っておる。
『人にやらされる仕事』と『自分が進んでやる仕事』だ。
いまのアースの仕事の多くが、『人にやらされる仕事』だ。どこかの会社に入ると、こういう仕事があるので、このようにやって下さいと言われる。だから、指示されたことをキッチリ出来る者が重宝される。
日本の教育がそうなっているのは、日本社会がそれを望んでいるからじゃ。指示されたことを確実に出来る者が一番良い、とな。
タクミ
でも僕は、指示されたことは確実にやろうと、そればかりに気を取られて、他の事に気を配ろうとしなかった。営業職としては、それはダメだったんだと思います。もっと空気が読める人にならないといけなかったんだろうなぁって。
セシル
まぁ、それは一理あるな。
空気が読める者は、周りと上手くやれるだろう。でも、それが一番いいという訳ではない。
出来ないなら、それが必要ない仕事を選べばいいのじゃ。例えば、一人でやる仕事、何かの職人とかな。
出来ないものを出来るようにする努力は必要だが、努力しても出来ないなら、別の道を考えればいいのじゃよ。
そして、可能な限り、『やらされる仕事』ではなくて、『自分が進んでやる仕事』を選んだ方がいいのぅ。
タクミ
具体的にどういう事です?
セシル
例えば、会社に雇われる事が嫌な人は、自分で会社を作るとか、職人になるとか。
雇われるのは嫌だけど、お金のためなら我慢できるという人は、給料がいい会社に入ればいいし。
逆に給料が少なくても、この仕事がしたいと思って、キツイ仕事をする人もいる。
タクミ
どういう条件だったら、『自分が進んで仕事をするか?』を考えろってことですね。
セシル
今のアースでは、働かないとお金がもらえないからな。どうせ働くなら、毎日楽しく仕事できる所がいいじゃろう?
タクミ
でも、働く側の立場は弱いですからね。条件なんか考えられないですよ。条件なんか無かった僕でも、再就職で何社も落ちましたから。
セシル
ふむ。今の日本は不景気だからのぅ。でも、仕事を作るのは国の仕事じゃよ。
タクミ
国の仕事?
セシル
働かない人が増えると困るのは国だ。治安は悪くなるしな。だから、国民に仕事を与えるのは国の仕事なんじゃよ。
時代はどんどん新しい事を取り入れていく。それについていけない、ついていかない国は滅んでいくだろうな。
だから、常に新しい働き方を考えることが、国の役目じゃ。
タクミ
今の時代に合った働き方を、国が推し進めるってことですか?
セシル
そうじゃ。
価値観の多様化で、仕事に対する考え方は人それぞれだ。日本はもっと、いろいろな働き方が出来るように改革しないと、働かない人がどんどん増えるじゃろうな。
昔から日本という国は、新しいものを取り入れるのが上手かった。だから、生き残ってきた。自ら変革出来ないものは、滅びるしかないからのぅ。
これからは、昔みたいな終身雇用は無くなるだろう。そうなった時に、今のように正規と非正規の格差があるのは、マズイじゃろうな。
タクミ
一度、会社を辞めた人は、安い賃金でしか働けなくなるってヤツですね。僕もそうでした。でも、仕方ないと思ってましたよ。
セシル
国を守るためにも、早く何とかした方がいいのぅ。
タクミ
その点、この世界はいいですよね。お金って仕組みはないですし、それこそ、就職で困る事もない。
セシル
うむ。我は、紋章システムは究極の終身雇用だと考えておる。
タクミ
紋章システムっていう現物支給で、全国民を雇っているってことですか?
セシル
我は商人だったからな。紋章システムを開発した時も、商人の思考から離れられなくて、"何かの対価に何かを得る"ことが普通だと思っておったのじゃよ。
タクミ
国は、国民に仕事をしてもらう対価として現物を支給する。
国民は、仕事をする対価として紋章システムを利用できる。
そういうことですか?
でも、どうして現物支給にしたのです?
セシル
そもそもな。お金というのは不確かなものだ。物の値段なんてものは、あるようで無いのじゃよ。
タクミ
どういうことです?
セシル
ジルが生み出したミライの価値はいくらだと思う?
タクミ
えっ?ミライですか?
考えたことも無かったな。値段が付けられないですよ。
セシル
ミライに値をつけるとしたら、1億、いや、それ以上かのぅ。
タクミ
えっ?そんなに高額?支払えないですよ!
セシル
あのジルの一点物で、世界で初めての人工精霊、しかもドラゴン専用仕様。マニアじゃなくても欲しくなる一品じゃよ。
タクミ
ミライは物じゃないです!欲しいって人がいても、売るなんてできませんよ!
セシル
そうじゃろうな。
でも物の値段は、需要と供給で決まるのじゃよ。ひとつしかないものを欲しいという人が多くいたら、値段はどんどん高くなる。逆にたくさんあるものは、どんどん値段が下がっていく。だから、物を売る時はそれも考えて生産しなくてはいけないのじゃよ。
タクミ
たくさん作りすぎると、価値がなくなってしまうってこと?
セシル
そうじゃよ。だから、どんなに便利な道具でも全国民に与えたら、価値はゼロじゃ。買ってくれる人がいなくなるのじゃから。まぁ、使用料で稼ぐという手があるがな。アースにある携帯やスマホがこの例じゃな。
タクミ
たしかに!それなりの使用料を払ってましたよ。
セシル
便利な道具である限り使い続けてくれるからな。使用料を値上げしても使ってくれるじゃろう?ウハウハじゃな!
タクミ
(ウハウハって……。セシルさまって、たまに変な言葉を使うよな…。)
だから、お金という仕組みを無くしたってことですか?
セシル
お金がたくさんあっても食べられるわけではないからのぅ。我が飢えで死んだ時には、目の前に山のような黄金があったんじゃがな。
タクミ
以前言っていた、何度目かの転生でのことですね?
セシル
その時、我はある神様を祀る少数種族として生まれた。その神様を祀る神殿には、黄金が山のように置いてあった。ちょうどその頃、大飢饉と近隣諸国の戦争の激化でな。食糧が枯渇して、飢えで死んだのじゃよ。
タクミ
黄金がいっぱいあったのですよね?それで食糧を買えば良かったのでは?
セシル
黄金は神様のもの、という特殊な宗教観でな。人のためには使ってはいけなかったのじゃ。
タクミ
なっ!人命より神様が優先されるなんて!そんな神様はおかしいですよ!
セシル
それが宗教というものじゃよ。お主には分からぬだろうがな。
タクミ
僕は無宗教ですからね。理解できません!
セシル
そんな経験もあったからな。カネという不確かな仕組みを無くしたのじゃよ。
タクミ
なるほど。でも成功してますよね!この世界の人は、みんな幸せそうですよ。
セシル
そうじゃな。それでも、これで良かったのだろうかと思う時はある。個々を管理しているようなものじゃからな。
タクミ
僕はいいと思いますよ。アースにあるネット検索だって、監視されてますからね。どんなワードで検索したかを分析して各企業の宣伝が自動的に表示されるようになってるって聞いたことありますよ。それでも、みんな使い続けてますよね。便利だから。
それと一緒ですよ。紋章システムが最高に便利な道具である限り、みんな、使い続けると思いますよ。
セシル
そうじゃな。システムを維持できなくなるでは、頑張るかのぅ。
タクミ
(システムを維持できなくなる可能性があるってこと?それは困るよ!)
僕もようやく使えるようになったので、よろしくお願いしますね!
では、本日の話はここまでです。
ありがとうございました!
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