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グランエアド王国編
83話 主人公、王宮?に行く
しおりを挟むジルの勧めで、グランエアド王国に行くことになった僕達は、エア様にあいさつしようと、王宮に来ていた。
ここまでは、王宮にある転移扉を通ってきた。各王国への扉は各王宮の地下にあるのだ。地下から地上に出た僕は、王宮だという建物の前でフリーズする。
「ここが王宮?」
「タクミ、口開いてるよ。びっくりした?僕達も最初に見た時は、嘘だろって思ったよ。」
「だよね!だって、ただのビルにしか見えないからね!」
シオンとリオンの言葉に、僕とミライは大きくうなずく。
目の前にあるグランエアドの王宮は、地上50階の超高層マンションのような建物だった。
「40階より上が王宮で、それより下の階は、普通に人が住んでるんだよ。」
「えっ?王宮に一般の人が住めるの?」
「住みたいって人がいればね。全然問題ないよ。王宮部分には結界が張ってあるから、何か起こっても大丈夫だし。」
そういう問題なのか?
「「じゃあ、エア様に会いに行こうか?」」
そう言う双子に連れられて、最上階へと向かう。一階には各階への転移扉があり、そこから直接行けるという。
王宮直通の扉を開けると、すごい景色が広がっていた。
最上階は、全面ガラス張りの空間で、360度見渡せる。天気がいいからか、遠くの景色が綺麗に見えている。
「タクミ!すごい綺麗だよ!」
ミライが喜んでいる。
綺麗っていう感想が出るなんて!
ミライは日々成長しているなぁ。
「気に入っていただけましたか?」
扉の死角から生真面目そうな男が現れた。
あっ!ジルがエアリーのチケットを頼んだ男の人だ!
「ひさしぶりだね。ジーク。元気だった?」と、リオンが話しかける。
「ご無沙汰しております。リオン、シオン。セシル様はお元気ですか?」
「相変わらずゴロゴロしてるよ。」
「さすが《怠惰》のセシル様。お変わりないようで、安心しました。で、こちらが噂のドラゴンですか?初めまして、こちらの王宮に仕えております。ジークです。」
執事のような雰囲気の男性が丁寧にあいさつしてくれる。
「はっ、初めまして。タクミです。よろしくお願いします。こっちは、僕のパートナーのミライです。」と、挨拶を返す。
「ほぅ。これがジルの開発した人工精霊ですね。なんと自然な。さすがはジルですな。」
ジークがミライを観察するような目でみている。
そんなジークに、「あい!ミライだよ!よろしくね!」と軽く挨拶するミライ。
初めて会う人なんだから、もうちょっと丁寧にしようよ!
「タクミ、ダメだった?」
僕の心を読んで、心配そうに聞いてくる。
そうだった!ミライは、僕の考えてることが分かってしまうんだった!
僕はにっこり笑って、「大丈夫だよ。」と返す。
ミライはまだ成長途中だとジルが言っていた。育て方に気を付けないとな。
「ところで、ジルから王宮に泊めてほしいと聞いていますが、それでよろしいですか?」
「あっ、うん。部屋空いてる?」と、シオンが軽い感じで聞いている。
「はい。タクミは紋章が授かれなかったと聞いております。結界が強固な王宮部分に滞在していただいた方が良いかと。」
「ありがと。じゃあ、部屋は後で案内してもらうとして。先にエア様に挨拶をしようか?ジーク、エア様はどこ?」
「はぁ、それが。」
「まさか?居ないの?今から行くって連絡したよね?」
「エア様の衣装担当のブランカから、今度の舞台衣装が出来上がったと連絡がありまして。つい先程、そちらに……。」
「なんで、ちょっと待てないかな?」
「これだから、エア様は。自分のこと優先なんだから!」
リオンとシオンが呆れている。
「仕方ない。先に部屋に案内してもらおう。ジーク、どこが空いてるの?」
「はい。いまは45階が空いていますので、お好きな部屋をどうぞ。」
「わかった。じゃあ、先に部屋を作るか。エア様が戻ってきたら、連絡して。」
ジークにそう言葉をかけて、45階に向かった。
「そういえば、45階ってハティ専用階じゃなかった?」と不思議がるシオンに、リオンが答える。
「ハティは先日亡くなったよ。最期まで作品を作り続けてた。幸せだったとパートナー精霊のミアから最後の連絡があったよ。」
「そうか。リオンのところには連絡があったんだ?」
「作品を引き取ってあげるから、遺したい物があったら連絡してって前に約束したの。」
「へぇ。そんな約束をいつの間にしたのさ?知らなかった!」
「女同士の秘密だよ。だから、この階は元の個室に戻っているはず。タクミはどこがいい?」
「えっ?人が亡くなった部屋なの?」
僕の言葉に2人は、「だから?」って顔をする。
「この世界では普通のことだよ。最期まで仕事をしたい人は、安らぎの大樹には行かない。ハティは彫刻家だったからね。自分の作品に囲まれて最期を迎えたかったんだよ。」
「1人で亡くなったってこと?それって孤独死ってヤツじゃ?」
「パートナー精霊がいるからね。孤独じゃないよ。この世界の人は、亡くなるとパートナー精霊がすべてをゼロにしてくれるんだ。」
「ゼロ?」
「ハティの場合だと、このフロアぶち抜きでアトリエにしていたのを元に戻して、作品は生前の要望通りに分配。それ以外は紋章システムが全部回収する。それこそ、本人もね。そして、すべてをやり終えたパートナー精霊は、本人と共に消えるんだ。」
「本人も?ハティって人も紋章システムで回収されたってこと?」
「紋章システムで、安らぎの大樹に送るんだよ。この世界で亡くなった人は、そこで大地に還る。」
「えっ?紋章システムって人も転送できるの?それって、瞬間移動できるってことだよね?」
「理論上は可能だよ。でも、生きている人の使用は禁止されているんだ。セシルさまは言ってた。どんなものでも道具である限り、間違いが起こらないとは言い切れない。転送の過程で、何か不具合が発生したら怖いだろ?」
「そっ、それは困るな。」
どうなるかを想像した僕は怖くなる。
「だから、生きてる人が移動する時は転移扉なんだよ。あれは空間を繋げる扉で、開けたらもう着いてるからね。不具合がある場合は、扉が開かないから安全なんだよ。」
「セシルさまは、そんなことまで考えて、この世界の便利な道具を開発したんだね!」
僕は改めて、セシルさまのスゴさを理解したのだった。
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