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グランエアド王国編
87話 主人公、ライブに行くー2
しおりを挟む「はぁ、良かったね。無事におさまって。」
僕はシオンにそう話しかける。
「あんな揉め事は、この世界では当人同士で解決するのが普通だよ。彼らの精霊の対応を見ただろ?揉め事の原因になった映像は、精霊が記録しているからね。それを見れば、大体は解決する。でも普通は、そこまで怒る前に精霊が対応するはずなんだけど。」
「そうなんだ!だから、放っておけばって言ってたんだね。」
「たぶん、エアリーのライブに行けるって、精霊も興奮してたのかも。精霊は、パートナーと繋がっているからね。」
「たしかにこの雰囲気は独特だよね。興奮するのも分かるよ。それにしても、すごい女性だったね。怒鳴り声がすごくて、僕なんか、声をかけるのもできなかったのに。」
「うん。でもあの眼鏡の女の人。どこかで見たことがあるんだよなぁ。」
シオンがつぶやくと、ウサ吉が現れる。
「シオン。あの女性の情報をご所望ですか?」
「うーん、自分で思い出したいけど。まぁ、いいや。教えて。」
「彼女は、批評家のホンファです。批評をはじめて数年ですが、ホンファに批評された人は、さらに輝くようになったため、彼女はとても有名になりました。」
「あっ!思い出した!ブランカが店を持つキッカケになった人物だ!たしか……。」
「シオン。ホンファは、『ブランカは素晴らしいセンスをしているのに、何故か控えめなデザインばかり公開している。それでも、ブランカの服を普段着として着こなせる人は少ないだろう。なぜなら、ブランカの服が輝くのは舞台の上だからだ』と批評しています。」
ウサ吉が、公開されたホンファの批評を抜粋してくれる。
「そう、それ!それを見たブランカは、お店限定で舞台衣装を作り始めたんだ。公開されている服は、誰でも紋章システムで出すことができる。だからブランカは、自分の理想より控えめなデザインを公開してたんだよ。だけどお店なら、そんなこと考えなくていいからね。自分の思うままの服を作って、この店に置いたんだ。すると、その衣装を見た舞台関係者が、次から次へとブランカに依頼するようになった。今では、舞台関係者の間で熱狂的なファンがいるほどだ。」
「そうか!ブランカの舞台衣装は、お店でしか手に入れることはできない。公開されてるデザインは誰でも出せる。ということは、公開されてないものの価値がものすごく高くなるってことか!」
「そうだよ。例えて言うなら、公開されている服は紋章システムでどれだけでも出せるから量産品。公開されていない服は特注品だ。」
「特注品!ブランカのお店の服が羨望の的って言ってたのは、そういうことか!それにしても、ホンファの言っていることは、正しかったんだ。批評家ってすごい仕事だね。」
「批評家は仕事じゃないよ。ただの趣味。だけど、この世界では人を批評する場合は必ず実名で顔も公表しなければならないってルールがあるからね。批評家をやってる人は稀だよ。」
「ずいぶん厳しいルールだね。」
「人を批評するって、そういうことだよ。批評する側にも覚悟がないと、批評なんかしてはいけないんだ。」
「えっ?でも、ブランカの服をいいねっていう人もいるでしょ?そういう人は批評しちゃいけないの?」
「良い悪いを言うだけなら、それは感想。感想を言うだけの人は、批評家じゃないよ。ホンファのすごいところは、事実として公開されたものだけを批評しているところだ。ホンファはね。『創作は批評してはいけない。創作は自由なものだからだ』って主張しているんだよ。」
「しっかり自分の考えがある人なんだね。」
「セシルさまも、同じこと言ってたよ。この世界では、情報や仕事を公開する時、事実のものは実名で顔も公開する、創作のものはペンネームでも大丈夫っていうルールがある。セシルさまは言ってた。『事実として公開するなら、それに責任を持たなくてはいけない。創作として公開するなら、限りなく自由でなくてはならない』ってね。」
「なるほどね。」
「まぁ、実際のところ、事実か創作の区別は曖昧なんだけどね。公開する人とその精霊が決めることだから。」
「パートナー精霊が決めるの?」
「精霊にはチェック機能があるからね。あまりにも事実とかけ離れたことを、事実として公開しようとしても精霊が許可してくれないんだ。『本当に公開するんですか?』って聞いてくるよ。」
「そんなことまで?」
「この世界で情報や仕事を公開するってことは、全世界の人がそれを知るってことなんだよ。変なものを公開したら、批判もされるだろう。そこまで考えて公開しようとしてますかって、精霊が常に警告してくれるんだ。」
「たしかに、日本でも変な投稿して問題になってる人いたなぁ。僕はそういうのやってなかったから、よく分からないけど。」
「だから、タクミとミライも公開する時は気をつけるんだよ。今はまだ機能制限してあるから、公開はできないけどね。」
「分かったよ。気をつける。」
今まで黙って僕達の話を聞いていたミライも、「あい!」と返事をする。
と、そんな話をしていた僕に、後ろからドンっとぶつかってくる人物がいた。
イタタっ!誰だよ!
振り向くと、「「タクミ!会いたかったよ!」」とサクラとモミジが、それぞれ腕に抱きついてくる。2人とも、とても嬉しそうな顔をしている。
うーん。懐かれたなぁ。
親戚の子供がじゃれてくる感覚しかない僕を見ていたミライが、呆れた顔で言う。
「タクミって、鈍感なんだね!」
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