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グランエアド王国編
88話 主人公、ライブに行くー3
しおりを挟むサクラに右手、モミジに左手を占領された僕は、身体にあたるモフモフの感触を楽しんでいた。
うーん。やっぱり、この尻尾の感触っていいよなぁ。
すると、キノカ、アクネ、テッショウが揃って現れる。
「おや、3人は仲良しですな。」
「あら、相変わらずタクミのことが好きなのね。」
「タクミ!うらやましいッス!」
それぞれタクミの状況への感想を述べる。
が、サクラとモミジの気持ちに全然気付かない僕は3人の感想には触れず、自分の気になったことを口にする。
「あれ?マサチカとジョセフィーヌは?一緒じゃないの?」
「マサチカは来ないッス!」
テッショウが即座に答える。
「えっ?なんで?あんなにエアリーのチケットを欲しがってたのに。」
「あっ、分かったぞ!あいつ、エアリーのチケットをゲームの賞品にしたんだな!」
シオンの指摘に、テッショウが「そうッス!」と返事をする。
「ゲーム仲間と作ってた新作ゲームの大会をやるって言ってから、それの賞品にしたに違いない。いろいろな人に参加してほしいんだよねってつぶやいてたから。」
「そうなんだ!あんなに欲しがってたから、てっきり自分が行きたいのかと思ってたよ。」
「あいつはゲーム馬鹿だからね。ゲームのためなら、何でもするよ。」
「趣味のために、そこまですんるだね。」
「ゲーマーは趣味だけど、ゲーム製作は仕事だよ。チームを組んで作ってる奴等が大勢いる。きっと、仲間のために大会を盛り上げようとしたんだよ。エアリーのライブチケットが景品なら、参加者はすごく増えるからね。」
「へぇ、大会もあるんだね。この世界のゲームかぁ。一度やってみたいな。」
「おっ、興味が出た?教えてあげようか?」
そんな話をしていると、待ち合わせ場所にリオンとジョセフィーヌが一緒に現れる。
「あれ?リオンはジョセフィーヌと一緒だったの?」
「ハティに頼まれた遺作をジョセフィーヌのアトリエに渡しに行ったの。昔、ハティが言ったんだよ。リオンがいいと思った人がいたら、作品を渡してほしいって。自分の作品が、次世代の造り手の参考になればいいなって言ってたからね。」
「リオンからハティの遺作の話を聞いた私は、ぜひ譲り受けたいと申し出ました。ハティの繊細な彫刻の実物は本当に素晴らしいですわ。見ているだけで、刺激を受けます。惜しい人を亡くしました。もっと、たくさんの作品が見たかったですわ。」
「ハティは、『芸術と呼ばれる作品は、映像では無く、実物を見てほしい。実際に見て感じてほしい。実物を見て、何か感じるものがあったなら、それは本物の芸術だ』って言ってた。」
「その通りですわ!作品は実際に見て感じて評価するものです!では、最高だと言われるエアリーの舞台を観ましょうか!楽しませていただきましょう!」
ジョセフィーヌは、ホーッホッホッと高笑いしながら、会場の入り口へと歩いていく。
相変わらず濃いなぁと思いながら、僕達もジョセフィーヌの後を追ったのだった。
エアリーのライブは、一言でいうなら、『すごかった!』だった。
ライブ終了後、興奮した僕達は45階の空いてる部屋に集まり、夜遅くまでエアリーの素晴らしさを語り合った。
空いている2つの部屋をつなげて、大きなリビングのような部屋にする。そこに、それぞれお気に入りのソファを出して、くつろぎながら、今日の感想を話す。
新たに公開されたエアリーのライブ映像を見て、キノカとアクネがここの現象はあの技術を利用してるに違いない、と推測する一方で、ジョセフィーヌは、舞台に飾ってある美術品は有名なあの人の作品に違いない、と力説していた。
それぞれ楽しみ方はあるけど、全員が満足したライブだった。
誰もが楽しめるものを提供しているエア様ってすごいな。
確かに舞台も効果技術も素晴らしかったけど、一番はエア様の歌声だ、と僕は思う。高音から低音まで響く音は、男性とも女性とも違う不思議な歌声だった。
僕には芸術なんて分からないけど、とにかくすごく楽しかった!それだけは言える。もう一度エア様に会えたなら、絶対にそれだけは伝えようと思う。
まぁ、エア様って毎日動き回ってて、なかなか会えないって言ってたから、そんな機会はないと思うけど。
結局その日は全員、その部屋で一夜を過ごしたのだった。
次の日の朝、みんなはそれぞれ帰って行った。
ジョセフィーヌは、朝早くに慌ただしく出て行った。エアリーのライブに刺激を受けて、作品のアイディアが浮かんだようで、このまま自分のアトリエに行くと言っていた。
キノカとアクネとテッショウも、すぐに帰るという。次の仕事が決まっているようだ。
サクラとモミジだけは、しばらくここに滞在したいと言ったので、この階の空いてる部屋の滞在許可をジークにもらう。2人でスイーツ屋さん巡りをしたいらしい。
朝、いったん自分の部屋に戻った僕だが、何だか寂しくなったのでリビング部屋に戻る。
もしかしたら、リオンとシオンがいるかもしれないしね。
ところが、リビング部屋には思わぬ人物がいた。
「やぁ、タクミ。久しぶりだね。元気にやってたかい?」
セシリア王国にいるはずのライルが、ソファに座ってくつろいでいたのだ。
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