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マルクトール王国編

122話 主人公、事情を聞く

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「このザンザーラが出来たのは1500年前だと伝わっています。その後、何度か激しい戦争や暗黒の時代がありましたが、街の者達は協力して、この神殿を守ってきました。
 この街に住んでいたのは、神殿に知識を求めて集まった者達の末裔でした。元々この神殿には知識の書がたくさん保管されていて、ここはそれを学ぶための学問都市だったのです。」

 この神殿は図書館みたいな役割をしてたってことかな?
 大昔、書物は限られた人しか見ることができない特別なものだったらしいからね。それを求めて、人が集まるのは分かる。

「ですが、500年前。紋章システムができて、知識は誰でも手に入れることができるようになりました。そして、学問の試験というものが無くなったため、参拝する者もいなくなりました。
 さらに、ファミリアとホームが出来たため、この街から"家"というものが無くなっていきました。
 こうして、ここに住む者がいなくなったのです。」

 そうか、この街は世襲で成り立っていたんだ。後継ぎになる子供がいなくなったから、この状態になってしまったんだね。

「誰も住まなくなった場所は、無に還すのが紋章システムのルールですが、この歴史あるザンザーラを無くすことは、ヤスナにはできません。どうかお願いです。このザンザーラをなんとかしてほしい。そのための知恵を貸してほしい。よろしくお願いします。」

 チカゲがまた頭を下げる。

 ヤスナは1人になってもこの街を守ろうとしてたんだな。
 人がいないのに街が綺麗なのは、ヤスナが手入れをしていたからだろう。

「どうしてヤスナ1人になったのですか?」
 生真面目そうなアランが聞く。

「それは…。」
 チカゲは言いにくそうにしている。
 が、意を決したように話し出す。

「このザンザーラには少し特殊な決まり事があるため、定住してくれる人があまりいなくて。」

「特殊な決まり事?」

「はい。ここに住む者は、毎日、何らかの街の役目を果たすというのが、昔からの決まりなのです。」

「どういう決まりがあるの?」

「例えば、お社担当、清掃担当、祭り担当、その他いろいろ。全部で30種類ほどありまして、ここに住む人全員は、何かしらの担当をすることになっています。」

 なっなに?その担当制度?

「これは、この街ができた時から決まりなので…。」

 あぁ、そういうこと!
 これは自治会とか町内会だな!
 僕が住んでいた地域にもあったな。
 そこに住む者同士で助け合うための制度だから、時代と共に内容も変化するのが普通だ。必要がないものは無くなるはずなんだけど、この街はそれがずっと続いているんだ。

「なぜそんな決まりがあるの?」
 いつも愛想が良いフロムが、不思議そうな顔で聞く。

「なぜと聞かれても、昔からそうだからと答えるしかありません。」

「そんな時代遅れの決まりをずっと守ってるの?紋章システムがあるんだから、そんな担当とか必要ないでしょ?」
 少し厳しい口調で言うのは、シェラだ。

「だから、人がいなくなっちゃったんじゃないのぉ?」
 のんびりと話すのはタツコ。

 タツコの言うことには一理ある。
 あまりにも厳しい決まりがある町には、住みたくないよな。

「昔からの決まりは守るものだ!これだから、今時の若者は!」

 今まで黙っていたヤスナが急に大きな声を出す。

 しかも、今時の若者って…。
 この言葉をエレメンテで聞くことになるとは。
 僕が住んでた日本でもこんな事を言う人は、もういないと思うよ。

 ヤスナは、ひと昔前の日本にいた頑固ジジイというヤツなのだろうか…。
 これは大変だぞ。こういう人は、かなりの確率で人の言う事を聞かない。自分が一番正しいと思っているから。
 話し合いで解決するのは難しいだろうな。

「では、貴方はここをどのようにしたいと言うのですか?」
 アドラがヤスナに聞く。

 あのカルミナベアの出来事で、僕や双子には話してくれるようになったエレーナだが、他の人にはまだ抵抗があるようだ。相変わらずアドラが話をしている。

 核心を突いたアドラの質問に、ヤスナが黙り込む。

「貴方の希望が分からないことには、解決もできないのです。」

「ワシはここが昔のようになればいいと思っておるだけだ!ワシはもう疲れた。後は任せたぞ、チカゲ。」

 それだけ言うと、ヤスナは社の中に入っていった。

 何なんだ?急に怒ったり、話を投げ出したり。無責任だな!

「すみません。ヤスナは苦悩してるのです。この街を昔のように人がいっぱいの活気ある街にしたい。そのためには、不要な決まりは無くした方が良いとは分かっている。でも昔ながらの決まりを自分の代で無くしても良いものか、と。」

「自分の代ってことは、ヤスナは神官の家系の血を引いてるの?」
 僕は疑問に思った事を聞いてみる。

「そうです。ヤスナの前の神官は、ヤスナの母親でした。」

「お母さんとかお父さんの情報って、教えてもらえるものなの?」
 僕はこっそりミライに聞く。
「あい!知りたい人には、パートナー精霊が教えてくれるよ。」

「ヤスナの母親は、ヤスナがファミリアにいる間は指導者として、何度かヤスナに会っていました。このザーラ神殿のことを教えて、興味を持ってくれるなら、自分の跡を継いでほしいと思っていたからです。そして成人後、ヤスナは母親の思いどおりにこの神殿で神官になりました。」

「でも神官って仕事じゃないよね?」

「はい。ヤスナの仕事は、都市構築研究家です。この仕事を選んだことで、ヤスナは神官になろうと決意したのです。」

 どういうこと?

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