「こんばんは、死神です」そう言って俺の元にやって来たのはリクルートスーツを着た小柄な女の子でした

阿藤Q助

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第5章 【一難去って、また一難】

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 さて、吉田のオッサンと約束をしたのはいいが……、一体どうしたものか?
 女の子の幽霊を探し出して、その上その子の親……、と言ってもその親ですらどこに居るのか皆目見当がつかない。
 そもそも、その子の親だって生きているのか死んでいるのか……、そして名前、いや苗字すら分からない。

 俺は探偵でも何でもない。チンケな振り込め詐欺犯だ。しかもあと5日の命ときてる。
 そんな事を考えながらステアリングを握り、明確な目的地も無く車を走らせる。

「なあ、みちる。死神ってさ、幽霊の……、なんて言うか『匂い』みたいなものを嗅ぎ取って、居場所を探すっていう事とか出来ねーの?」

 俺にそう言われた、みちるがムッとした表情をする。

「ちょっと、小野寺さん! 死神を何だと思ってるんですか! 死神は犬じゃありませんよ! そんな芸当ができるワケないでしょ」

 みちるはそう言って、プイっと顔を背けて黙って窓の外を見ている。
 あぁ、またみちるを怒らせてしまった。そりゃそうだよなぁ……。犬じゃないんだから、そんな事できるワケないよなぁ。

 AMラジオからは、番組のパーソナリティ2人がリスナーからのメールを読んで、それについて盛り上がっているのが聞こえている。
 全くいい気なもんだぜ、こちとら雲を掴むような、全く取っ掛かりの無い難問を抱え込んでいるっていうのに。
 あれこれ考えを巡らせているうちにラジオからは、いつしかMr.Childrenの『未完』が流れていた。

 そうだ! 振り込め詐欺の時の部下に声を掛けて人手を集めよう。

 ……いや、ダメだ。一体何と言って声を掛ける?

 俺はあと5日で死ぬんだけど、俺と死神と一緒に小さい女の子の幽霊を探すのを手伝ってくれ。……そんな事を言ったら、気が狂ったのかとバカにされてそれでお終いだ。
 そもそも、何の手がかりも無いのに人手ばかりあったってしょうがないじゃないか。

 オッサンから快く依頼を引き受けたものの八方塞がりな状況に、ついイラついてしまう。
 俺はステアリングを一際強く握りしめた。

 何か……、何か、打開策は無いものか? せめて女の子か、もしくは親の苗字か名前だけでも分かれば……。

 ラジオでは曲が終わり、次にニュースが流れている。

「TBC東北放送ラジオ 11時のニュースをお伝えします。
 昨年8月に発生した台風11号に伴う豪雨災害で、災害後まもなく1年を迎えるのを機に宮城県丸森まるもり町で犠牲者を弔う合同慰霊祭が町営体育館で開かれました。
 当時5歳の幼い娘 美咲みさきちゃんと、妻の友梨絵ゆりえさん当時30歳を亡くした町内の米農家、永広ながひろ 雄一ゆういちさん32歳は「妻はパート先から車で娘の美咲を迎えに行き、家に帰ってくる途中で車ごと流されてしまいました。
 妻の遺体は見つかりましたが、娘は今でも見つかっていません。
 今もどこかで生きていてくれればと思っていますが、毎日やりきれない思いでいっぱいです。
 私たち遺族にとっては、まだ災害は終わっていないのです」
 そう話し、会場を後にしました。

 ――さて、続いては仙台市からの話題です。制限時間内に名物のずんだ餅をどれだけ沢山食べられるかを競う大会が、仙台市青葉あおば区中央のJR仙台駅西口ペデストリアンデッキで開催され、大食い女子タレントの――」

「おい! みちる! 今の聞いてたか?」

 俺が大きな声でみちるにそう呼びかけると、彼女はビクっとして俺の方に振り返る。

「え? 何ですか? 小野寺さん、ずんだ餅の大食い大会に参加したいんですか?」

「ち、ちげーよ。その前の、去年の台風での水害の合同慰霊祭のニュースだよ! 小さい女の子と母親が車ごと流されたってやってたろ? な、名前言ってたよな? みちる聞いてたか?」

 みちるは頭を傾けて考えるような仕草をしている。

「うーん、聞き流していたので名前とかはちょっと憶えていませんねー」

「あぁ、チクショウ! せっかくの有力な手がかりだって言うのに聞き逃しちまった……。 一体どうすりゃいいんだよ……」

 後悔の念が浮かんだ俺の表情を見たみちるが、澄ました顔でポツリと呟いた。

「なーんだ、そんなことですか」

 俺は驚いてみちるの方を向いた。

「な!? みちる! もしかして死神の能力で時間を巻き戻したりでもするのか!」

 みちるは右手を顔の前で振って、俺の方を見ている。

「だーかーらー! 小野寺さんは死神をなんだと思っているんですかー? そんな事できるワケないでしょー。
 そんなのスマホアプリのRadikoラジコでさっきのニュースを聞いたらいいじゃないですかー。  ポッドキャストですよ、ポッドキャスト!」

 なるほど、その手があったか! 俺はみちるの手柄を褒めてやった。

「すげーな! みちる! お前頭いいよ! さすが死神界のホープだな!」

 みちるは何やらむず痒そうな顔をしている。

「そ、そんな……。まぁ、父が優秀な死神ですから……。その血を引いた私も、やっぱり優秀なんですかねー。えへへ」

 これは、暗中模索、……いや五里霧中の状態から一気に物事がいい方向に進みそうだ。俺はそんな気がして、アクセルを踏み込んだ。

「……あの、小野寺さん」

 何故だか、みちるが不安そうな声で呟く。

「ん? どうした、みちる」

「……いや、あの、……考えがあるのならいいのですけど……」

「大丈夫だって! さっきのみちるのアドバイスで一気に道が開けたぞ! 心配は要らねーよ」

 みちるの問いかけに俺は自信満々に答える。
彼女の方をチラリと見ると何故だか、喉の奥にモノが詰まったような……、そんな表情をしている。

「……あ、いや、その話とは違くて……。このまま東北自動車道の下り線を進んで行ったら、青森県まで行ってしまいますよ?」

 彼女の指摘に俺はハッとした。女の子の幽霊の身元が分かったかもしれない、その一点に意識が行ってしまい。車の行き先にはまったく注意を払っていなかった。

「おい! なんでもっと早くそれを言わねーんだよ! あ! もう岩手県に入っちまってんじゃねーか」

 カーナビの画面を見ると、現在地は岩手県一関いちのせきインターチェンジを過ぎた辺りを表示している。

「ちょ、ちょっと! それ、私のせいにしないでくださいよ! 小野寺さんがボケっとしてるからいけないんでしょー!」

 みちるの的を射たツッコミに、一瞬で恥ずかしさやら、自責の念やら、イロイロな感情が俺に押し寄せ、ついカッとなってしまう。

「ボケってなんだよ? ボケって! 大体な、お前は助手席に座ってるんだから、それこそボケっとしてないで、助手らしく的確にサポートしろよ!」

 みちるの方を見ると、彼女もまた顔を紅潮させ俺を睨みつける。

「ちょ……、逆ギレとかサイテー!! それにあたし『お前』って名前じゃないし。別に助手でも無いんだから! もう、勝手にすればいいじゃない! このまま青森でも北海道でもどこでも行っちゃえば?」

 彼女はそう言うとプイっと顔を背け、窓の外を向いてしまった。

 あ……、ヤベーな俺ってヤツは……。今のは完全に俺が悪いだろ……。
 どうしてこうも空気読めない行動をしちまうんだ?
 今更、散々自己嫌悪に陥ったところで、時すでに遅し。みちるに謝らなきゃな……。
 頭では分かっていても、何故だか行動に移せない。そんな自分に追い打ちを掛けるように、更に自己嫌悪の波が押し寄せてくる。
 次のインターチェンジまでは、まだ距離がある。俺は重苦しい空気の車内で黙ってステアリングを握り、前を見つめていた。

 それからトンネルを2つ通過し、少し経った頃、前方に『平泉前沢ひらいずみまえさわICインターチェンジ 1km先』の案内板が見えてきた。
 よし、次で高速道路を下りて宮城県に戻ろう……。それにしても……、早めにみちるに謝らなければ。……ステアリングを握る手にじっとりと汗をかくのを感じる。

『平泉前沢IC 500m先』の案内板を確認し、程なくして左にウインカーレバーを倒しランプウェイに進入していく。
 緩やかに弧を描くランプウェイのカーブに遠心力を感じつつ、やがて俺は料金所のETCレーンを通過した。

「ETCレーンを通過しました。 料金は2,220円です」

 平坦なイントネーションで、まるで温もりを感じさせない機械的な女性の音声が車内に鳴り響く。
みちるは変わらず窓の外を見たままだ。
 俺は料金所を出てすぐ、左手にある駐車場に入ると車を停め、シフトレバーをパーキングに入れた。

「なぁ……、みちる。……さっきはその……。ついカッとなっちまって。あの、や、やつ当たりしちまって……、ゴメン」

 俺はそう言って、みちるに向かって頭を下げた。

 ……1秒、2秒、3秒、4秒……、顔を上げても彼女は窓の外を見たまま黙っている。
 沈黙が痛い。まるで針でチクチクと体を刺されているような……、そんな錯覚すら覚える。

 みちるが窓の外を見たまま不意に呟く。

「お菓子」

「へ?」

 一体何の事なのか分からず、気の抜けた声で返事をしてしまった。

「……だから。……お菓子買ってくれたら……、ゆ、許してあげる……」

 まったくこいつは……。なんだかとても、みちるが可愛いと思えた。

 俺はシフトレバーをドライブに入れ、アクセルを緩やかに踏み込むと駐車場を出て、とりあえず平泉ひらいずみ町の市街へ向けて国道4号線に入り車を走らせた。

AMラジオからは一十三十一ひとみといの『悲しいくらいダイヤモンド』が流れている。

 みちるは許してくれると言ったが……。正確には、お菓子を買ってくれたら許すと言ったのだが、さて何を買えばいいのやら。
 先ほどパーキングエリアで牛串を食べたせいもあってか、それほど腹は空いていない。

 国道沿いのコンビニが目に入る。

 ……コンビニで売っているような、ありきたりなお菓子では芸がない。ここはひとつ、みちるが思わず怒っていたことも忘れるようなお菓子……。うーん、そんな都合よく、美味しくて女の子が喜ぶようなお菓子が見つかるわけもないか……。
 漠然と考えながら、ステアリングを握り車を走らせる。前方の赤信号で車を停止させた時、AMラジオからは女性中継リポーターがキンキンした声で何やらはしゃいでいるのが聞こえてきた。

「街角リポーターのアッコでーす! 今日は一関いちのせき市の市役所向かいにあります老舗の洋菓子屋さんからのリポートです。
 ウフフ……。スタジオのお二方! 聞こえてますかね? 今私はこちらの洋菓子屋さんの名物でもあります『エトレーヌ』というお菓子を頂いています!
 スライスしたアーモンドとキャラメルヌガーを載せたクッキーをですね、更にチョコレートでコーティングした一品で、とーっても美味しいんですよー。」

 思わずゴクリとツバを飲み込む。これは美味しそうだ。
 前方の信号が青になる。俺は車を発進させると、程なくしてハザードランプを点滅させて車を路肩に停めた。
カーナビの画面で縮尺を大きく設定する。

 一関市役所は……、っと。
 画面をタッチして一関市の中心部を表示させると、縮尺を小さく設定した。
 あ、あった。現在地から10km程度か、割と近くだな。

 助手席のみちるは、俺が一体何をやっているのかと、チラリとこちらの様子を伺うと、また窓の外に向き直った。
 俺は目的の洋菓子屋の場所を確認すると、後ろを振り返り、後続車の切れ間に合わせて車を発進させた。

 国道4号線を南下して、平泉町の市街を通り抜ける。相変わらずみちるは窓の外を眺めたままでいて、俺は俺で黙ってステアリングを握っている。これでラジオでもかかっていなければ、車内は重苦しい沈黙が支配したままだ。
 いつもは聞き流しているラジオだが、今日は何だかとても頼もしい援軍の様に思えた。
 おかげで赤信号で停車するたびにイライラしなくても済む。俺としては別にラジオパーソナリティのお喋りも、番組リスナーからのメールも、さほど興味は引かれないのだが、番組の随所でかかる曲はドライブのリズムを保つのに助かるし、自分ではまず聞かないであろう曲がかかったり
 昔よく聞いていたアーティストの、意外と知らなった曲などがかかったりするので新しい発見をする機会をもらったりもする。
 パーソナリティのお喋りの後、早速リスナーからのリクエスト曲であるヨルシカの『ヒッチコック』が流れてきた。
 ノリのいい曲は、自然と左手の人差し指で曲に合わせてリズムを刻んでしまう。

 そうこうしているうちに、車は一関市の市街地へと入っていった。
 えーっと……、自動車ディーラーと一関警察署のある交差点を左折……。
 キョロキョロしながらウィンカーレバーを左に倒し、ステアリングを左に切る。
 道なりに進んで目印の一関市役所に差し掛かると、道路を挟んだ向かい側にお目当ての洋菓子屋を見つけた。黄色い壁に赤い屋根瓦がどこか地中海沿岸の建物を思わせる。
 中央線寄りに車を停止させウィンカーレバーを右に倒すと、先ほどと同じく、みちるが俺の様子を伺う様にチラリとこちらを一瞥した。
 店舗の前に車を停めると、俺はシートベルトを外した。

「みちる、ちょっと待っててな」

 彼女は窓の外を見つめたまま、小さくコクリと頷いた。
 店内は平日の昼間にも関わらず意外と客が多く居た。老舗の洋菓子店だからか、それともこの店の洋菓子が美味しいからなのか。ショーケースに並べられた色とりどりのケーキ、それに店内に陳列された焼き菓子などを見て、思わず期待に胸が弾む。
 貧乏だった俺はこういう店には縁が無かったので、年甲斐もなく心がウキウキしてしまうのかもしれない。
 よく女の子が「甘いものは別腹」としれっと言ってのける心境が少し分ったような気がした。

 おっと、いかんいかん。みちるを車内に待たせたままだった。

 どのお菓子も美味しそうで、アレもコレも食べてみたいというのが正直な気持ちだが、それではいくら別腹があったって足りはしない。
 俺は、はやる気持ちを押さえつつ当初の目的である『エトレーヌ』を2人分買い、店の外の自動販売機でレモンティーのペットボトルを2つ買って車に戻った。

 車内に戻ると、みちるがスマホと睨めっこをしながら、何やら画面をタッチしている。

「みちる。ほら、お菓子買ってきたぞ」

 俺の呼びかけに彼女は一瞬笑顔になりかけたものの、まだ俺を許してはいないということに気付いたのか、務めて平静を装った……、とでも言いたげな表情に変わると一言「どうも」と言ってコクリと頷き、スマホをショルダーバッグに仕舞った。
 みちるに2人分の『エトレーヌ』が入った紙袋を渡す。続けざまにセンターコンソールに備え付けてあるドリンクホルダーに自販機で買ったレモンティーのペットボトルを置く。

「レモンティーでよかったか? ここに置いとくぞ」

 彼女はまた「どうも」と抑揚を押さえた声色で返事をすると、コクリと頷いた。

「さ、出発する前にお菓子、食おうぜ」

 みちるが紙袋を開いて中を覗き込む。同時に彼女の顔に笑みが広がる。
 彼女は自分の分の『エトレーヌ』を取り出すと、袋を俺の方に手渡してきた。

「いただきまーす……」

 俺は自分の分を袋から取り出すのも忘れ固唾を飲んで、みちるの一挙手一投足に注目した。

「……美味しーい」

 つい先ほどとは打って変わって1オクターブ高い声で彼女はそう言った。左手に『エトレーヌ』を持ち、もう片方の手を頬に当て、とても満足そうな表情をしている。

「……なぁ、さっきはゴメンな。 ……その、……許してくれるか?」

「……ゆ、許してあげる。でも、今度あたしに八つ当たりしたら許してあげないんだから」

 そう話す彼女の顔は気のせいか、少し赤みを帯びているように見えた。

「うん……、気を付ける」

 素直に他人に謝るというのは、……何と言うか、照れ臭いような、なんだかそんな感じがする。
 何のことは無い。非はこちらにあるのだから、己の行いを反省して一言、……ただ一言詫びればよいのだ。
 頭では分かっているつもりの、その単純な行動が出来ない。そのため事態はドンドン悪い方向に流れていく。
 振り返ると、いつもそんな事の繰り返しだったような気がする。
 また一つ、この小柄な死神の女の子に教えられた。

「小野寺さん、食べないんですか?」

 みちるにそう言われて、ハッと我に返る。どうやら彼女の顔を眺めたまま考え込んでいたようだ。

「みちるが美味しそうにお菓子を食べる姿が可愛くて、思わず見とれてた」

「ば、バカ!! あ、あたし、そうやってふざける男の人って嫌いッ」

 みちるはそう言うと、頬を赤らめて下を向いてしまった。
 彼女をからかうつもりで言ったのだが、その反応があまりにもテンプレート通りだったので、なんだかこちらまで照れ臭くなってしまい、俺は窓の外に視線を移し自分の分のエトレーヌを頬張る。
 キャラメルヌガーのビターな風味とスライスアーモンドの香ばしい香気が口に広がった。

「あ、あの!」

 不意を突いて、みちるが裏返った声で俺に呼びかけてきた。

「どうした?」

「さ、さっきのラジオのニュース。スマホのアプリでダウンロードしておきましたよ」

 いつの間にか『エトレーヌ』平らげた彼女がそう言って、マリークワントの小ぶりなショルダーバッグからスマホを取り出した。

 マリークワントのブランドロゴでもある、デイジーの花を模した大きなロゴ。振り込め詐欺の受け子に雇った若い女の子がいつも持っていたっけな。
 そんな目立つロゴが付いたバッグなんて持つんじゃねぇ! 目印になって、捕まえてくださいって言ってるようなモンじゃねーか!
 そう言って、その受け子を叱りつけた事を思い出す。
 ……なんだか嫌な事を思い出しちまった。

「小野寺さん? ボーっとしちゃって、どうしたんですか?」

 みちるが心配そうに俺の顔を覗き込む。

「ん? あぁ、いや、何でもないんだ。 それより早く、ニュースを聞こうぜ」

 みちるにニュースを再生するように促した。

 彼女がスマホの画面をタップすると、先ほど聞いたニュースがスマホのスピーカーから流れてきた。
 
「TBC東北放送ラジオ 11時のニュースをお伝えします。
 昨年8月に発生した台風11号に伴う豪雨災害で、災害後まもなく1年を迎えるのを機に宮城県丸森まるもり町で犠牲者を弔う合同慰霊祭が町営体育館で開かれました。
 当時5歳の幼い娘 美咲みさきちゃんと、妻の友梨絵ゆりえさん当時30歳を亡くした町内の米農家、永広ながひろ 雄一ゆういちさん32歳は――」

「丸森町か……、宮城県の最南端。福島県との県境の町だな」

「遠いんですか?」

「あぁ、仙台からだと俺たちが今居る一関と仙台くらいの距離を走らなきゃいけない。つまり、現在地からだと150kmくらいあるんじゃないかな……、白石しろいし市まで高速道路に乗って、そこから一般道に降りるから……、2時間くらいはかかるだろうな」

「じゃ、早く出発しましょ!」

 みちるは嫌そうな顔をするだろうな……。そう思った俺の予想に反して、彼女はいつもの笑顔になると明るい声で俺にそう言った。

「おう! じゃ、出発だな」

 俺はギアをリバースに入れ、後ろを振り返りながらハンドルを切り方向転換をすると、Rからドライブにチェンジをして洋菓子屋の駐車場から丸森町に向けてアクセルを踏み込んだ。
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