「こんばんは、死神です」そう言って俺の元にやって来たのはリクルートスーツを着た小柄な女の子でした

阿藤Q助

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第6章 【あの子はどこの子?】

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 一関市役所前の洋菓子店を後にした俺たちは、丸森町へ向かうべく一先ひとまず高速道路に乗る為に東北自動車道 一関インターチェンジに差し掛かった。
 ETCゲートを通過すると、先ほどと変わらない抑揚を押さえた無機質な女性の音声が車内に流れる。

「ETCゲートを通過しました」

 相変わらずラジオでは2人のパーソナリティーがリスナーから届いたメールや手紙を読み上げ、それに対してあぁでも無い、こうでもないといった話を繰り広げている。
 車を運転する時、特に今回の様に遠出をする時などは何かしら音が流れていた方が安心するし、何よりリズムを保つことが出来、音があるのと無いのとでは疲労感もだいぶ違うような気がする。
 ただ正直な所、AMラジオのおしゃべりなどは俺にとってはどうでもよくて、合間合間に流れる音楽、……流行りの歌謡曲であったり、時には洋楽、変わったところではクラシックなど……、曲が重要なのだ。
 出来れば終始FMラジオを流していたいのだが、仙台市内や近郊ならともかく、地方ではFMの電波が入らないのが惜しい所だ。

 そんな事を考えながら俺はステアリングを握り、高速道路を南に向けて走っている。
助手席のみちるの様子を伺うと、車窓からの流れる景色を眺めてボーっとしているようだ。こりゃ、また寝るな。

 高速道路に入り30分程度が経ったと思われる頃、ふとルームミラーに赤い光が映りこんだ。
 光は急速に近づいてきて、俺がそれをパトカーの赤色灯である事に気付いた時には後方からパトカーのサイレンがけたたましく聞こえてきた。

「あ、パトカー」

 みちるが後ろを振り返り、そうつぶやく。

 俺か? いや、周囲にいる車が目的なのかもしれない。法定速度はキチンと守っているはずだし。
 ……でも、もしかしたら……。
 俺の脳裏には今までやって来た振り込め詐欺の様々な場面が高速で再生された。
 後方で赤色灯を点灯させ、サイレンを鳴らしながら走って来た白黒ツートーンカラーのクラウンは追い越し車線に移ると俺たちの車を追い抜き、そしてすぐさま走行車線に戻ると、俺たちの車の真ん前に付いた。
 追い越される時にチラリと見た限りでは、パトカーのボンネットには透明なアクリル板で出来た虫よけ、通称『バグガード』が付いていないし
 それに乗っている警官も、白いヘルメットを被り青い制服を着た高速道路警察隊の隊員ではなく、街中でよく見かける普通の警察官の格好をしていた。

 高速道路警察隊のパトカーではないという事は……、やはり振り込め詐欺の件か……。ちくしょう! ツイてない。あと数日で死ぬってのに、これから女の子の幽霊を探そうって時に……。

 パトカーの後部ウィンドウ内部では、何やら黒い板のようなモノがせりあがってきて、次の瞬間に赤いLEDの文字が表示された。どうやら電光掲示板のようだ。

『パトカーに続け』
『速度落とせ』

 その2つのフレーズが交互に表示されている。
 落ち着け、勇樹。まだ、振り込め詐欺の一件で警察がやって来たとは決まっちゃいない。何か別件……、いや、人違いかも知れない。
 ステアリングを握る手から、じっとりと汗が滲み出てくるのを感じる。
 助手席のみちるも、不安を隠せない様子だ。

 そんな風に、やきもきしながらパトカーの後ろを走る事、約10分。
 俺たちはパトカーに続いて長者原ちょうじゃはらサービスエリアに入った。

 停止したパトカーの運転席と助手席、それぞれから男女2人の警察官が降りてこちらに向かってくる。
 俺は意を決して、運転席のウィンドウを開けた。パワーウィンドウのスイッチを操作する手が震えている。首筋を一筋の冷たい汗が流れ落ちる。

 40代半ばといった風貌の男性警察官が、爽やかな笑顔で俺に話しかけてきた。

「こんにちは。運転免許証を拝見できますか?」

「あーっ!! お父さーん!!」

 みちるが警官を指さして、大きな声を出した。
 もう一人の警官が助手席の窓をコンコンと軽く叩く。みちるは急いで助手席のウィンドウを開けた。

「みちるー。元気にしてたー?」

「お、お母さんまで!! ちょっとー、何なのもうー。メチャクチャ恥ずかしいんだけどー」

 俺は全く事態が飲み込めずに、ただ茫然ぼうぜんとしている事しかできなかった。

「やぁ、みちる。しっかりやってるかい? クライアントにはご迷惑をおかけしていないかな?」

 運転席の傍らに立っている男性警官は変わらぬ笑顔のまま、みちるにそう語りかけた。
 彼女は顔を赤らめながら運転席と助手席双方の外に立つ男女の警官を見ると両手で顔を覆い、足をバタバタさせながら呟いた。

「もぉー……、わざわざ娘の仕事の様子を見に来ないでよぉー」

 唖然としている俺に男性警官が話しかけてきた。

「小野寺……、勇樹くんだね? 驚かせてすまなかったね。私はみちるの父親の月夜 真二郎しんじろうだ。そして、あれがみちるの母親で私の妻の月夜 美紀みきだよ」

 男性警官はそう言うと、右手で助手席の外に立つ女性警官を指し、俺に向かって「娘がお世話になっております」そう言って頭を下げた。
 助手席側に立っている女性警官も同じく「娘がお世話になっております」といってお辞儀をした。

「え? ……あぁ……はい」

 未だ事態が飲み込めていない俺は、曖昧に返事をして2人の警官に軽く頭を下げた。

「ちょっと、お父さん! あのパトカーも、2人が今着てる警察官の制服も、閻魔庁の備品でしょ? 娘の様子を見るために公私混同で一体何やってくれてるの!」

 両手を顔から離したみちるが抗議するように男性警官に言い放った。
 男性警官は悪びれる風でもなく穏やかな笑顔をみちるに向けている。

「公私混同だなんて心外だな。私は死神大学校の教官として、教え子の様子を見に現世にやって来たまでだよ。まあ、お母さんはついでに一緒について来ただけだしな」

 そう言われたみちるは頬を赤らめながらふくれっ面をしている。
一体この親バカ茶番劇は何なのだ? 死神とは言え人の子……。いや、死神の子は死神だが、そりゃ子が居れば当然親も居るだろう。
 けれども、その死神の愛情たっぷりの親バカを見せつけられた俺としては、いや……、人間としては非常にリアクションに困ってしまう。
 なんというか、死神っていうのは……、もっと威厳に満ちた孤高の存在なのではないのか?
 いや、勝手に『理想の死神像』をぶつけたところで、死神の側としては困惑してしまうのかもしれないが……。

「どうかしたかね、小野寺くん?」

考え込んでいた俺に、みちるの父親の真二郎さんが、そう話しかけてきた。

「あ、いえ。 ……その、……死神って意外と人間みたいなんだなって思いまして」

俺にそう指摘された真二郎さんは「ハハハ」と笑った。

「そりゃ、私たち死神も君たち人間と同じで仕事をして生活の糧を得ているし、恋愛をして、やがて結ばれて、子供を育てる。
 亡者からよく、現世に広まっている偏った死神像を聞かされるから、その度に同じ話をするんだがね。……もう何十万回と同じ話をしたことか。
 ただ、君たち人間と私たち死神……、いや、霊界の住人が違うのは住んでいる世界と寿命だな。君たち人間はせいぜい百年程度しか生きられないが
 私たち死神は何千年と生きるんだ。
 まぁ、違いといってもその程度かな。変に構える必要はないよ。
 もっとリラックスしてくれて構わない」

 真二郎さんにそう言われて、確かにそうだと俺は思った。
 俺達人間が思い浮かべる死神像、それは確かに偏った死神像なんだろう。
 現実に死神と生活を共にした者の末路は『死』であるのだから、正しい『死神像』を世に伝える者がいないのだ。

 俺と真二郎さんが話しているのを尻目に、母親の美紀さんがみちるを心配そうに気遣っていた。

「みちる、ちゃんとご飯は食べてる? 小野寺さんにご迷惑はおかけしてない?」

「ちょ……、お母さん! 小学生じゃないんだから、そんなに心配しないでも大丈夫だよー。それに高々1週間、仕事で現世に来てるだけだよ?」

 そんな2人のやり取りを見ていると、唐突に真二郎さんが口を開いた。

「私たち夫婦は中々子供が出来なくてね。もう子供の事は諦めようって、美紀と話していた時に、やっと授かったのがみちるだったんだ。
 幾つになっても親は子供が可愛い。ただ、やっとできた子供だから私たち夫婦にとっては人一倍可愛い子なんだよ」

 そう話す真二郎さんの瞳はとても優しい感じがした。
 母さん……。もし今でも母さんが生きていたら、今の俺を見てどう思うだろうか?
振り込め詐欺に手を染め、自堕落な毎日を送っていた俺を見て、母さんはどう思うだろうか?

「じゃ、小野寺くん、みちる。私たちはこれで霊界に帰るよ」
「みちる、これお弁当。小野寺さんと一緒に食べなさい」

 警察官に扮した死神と奪衣婆だつえばの夫婦はそう言って手を振ると、パトカーに乗り込み走り去っていった。
 後に残された俺とみちるは、そのまま長者原サービスエリアで美紀さんが作ってくれたお弁当を食べる事にした。

 みちるが膝の上に置いた、ひよこのアップリケが付いた赤い弁当ポーチのジッパーを開けると中にはアルミホイルで包まれた2個の大ぶりなおにぎりと
 スヌーピーのイラストがプリントされた白いプラスチックの弁当箱が入っていた。
 みちるがおにぎりを一個、俺に手渡してきた。
 何時にも増して、みちるが大袈裟な笑顔をしているように見えた。

「おう、ありがとうな」

 俺はそう言ってアルミホイルを剥いでおにぎりにかぶりついた。
中には醤油で味付けされたおかかが入っていた。手作りのおにぎりなんて食べるのは一体何年ぶりだろうか?
 ガキの頃、まだ生きていた母さんが遠足の時に俺に持たせてくれたおにぎり……務めて頭の片隅に封印していた記憶が蘇ってくる。
 あの時、クラスの他の子らみたいに色とりどりなおかずが無いって、母さんをなじったっけ……。
 ゴメン、母さん。……涙がポツリと食べかけのおにぎりに落ちた。

「お、小野寺さん。どうしたんですか! 大丈夫ですか?」

 みちるが心配そうに俺の顔を覗き込む。

「な、なんでもねーよ。 ちょっと目にゴミが入っちまってよ……」

 少しして、みちるが一際明るい声で俺に話しかけてきた。

「はい! あーんして」

 彼女は俺の顔の前にタコの形に細工されたウィンナーを箸で挟んで差し出してきた。

「お、おい。バカップルみたいで恥ずかしいだろ!」

 顔が熱くなるのを感じる。

「いいから、あーんして!」

 みちるはなおも俺の顔の前にタコの形のウィンナーを掲げている。
 仕方がないので、俺は渋々タコの形のウィンナーを食べさせてもらった。

 死神とイチャイチャランチ。なんなんだ、このシュールな絵面は。

「食事は楽しく! 生きていればいろんなことがあります。だけど、楽しく食べて嫌な事を忘れちゃいましょう! 食事は正に生きる糧。
 それに、明日がある! ウルフルズもそう歌ってますよ?」

「おいおい、死神がそれを言うかー」

「ウフフ、そこは突っ込んじゃだめですよ」

 こんな日々送っていれば、俺の人生は違ったものになっていたかもしれない。
 みちるが来てからはホントに気づかされることが多い。
 俺はきっとツイているんだろう。自分がいつ死ぬか、きちんと把握できているし、それに女の子の幽霊を探す手がかりも掴めたし……。後は残りの時間をフルに活用して、女の子を探すだけだ。

 美紀さんの手作りの弁当を食べ終えた俺達2人は、どちらからともなく顔を見合わせると、互いにコクリと頷いた。

「よし、じゃあ気を取り直して丸森町に向かうぞ」

「はい!」

 俺はギアをDに入れ、アクセルを踏み込むと長者原サービスエリアを後にした。
 7月の昼下がり、ラジオからは大瀧詠一おおたきえいいちの『君は天然色』が流れていた。
 再び東北自動車道を南に向けて走り続けて30分ほどすると、住み慣れた仙台の街に入った。もうこの街に戻ることもないのか。そう思うと何だか感慨深いものがある。
 生まれ育ったのも、この街。振り込め詐欺の拠点にしたのもこの街。良かった事も、悪かった事も全て含めて『思い出』だ。
 決して人様に自慢できるようなものではないけど。
 俺が物思いにふけっているのをよそに助手席のみちるは、すぅすぅと寝息を立てて寝ている。
 可愛い寝顔を見る限りは、とてもこの子が死神だとは思えない。
 ひょっとすると、この子は死神などではなく俺は長い夢を見ているのではないか……?
 もしこれが夢だとしたら、たまにはこういう夢も悪くはないかもしれないな。
 ……そうだ! この夢から覚めたら、俺は何か人の役に立つことをしよう。『何か』ってなんだ? と聞かれても具体的には答えられないが……。時間と金はたっぷりあるんだ、なにもそう焦ることは無いじゃないか!
 こんな俺でもきっと、出来る事があるはずだ。

 俺は車を運転しながら、そんな妄想をしている自分に少し照れ臭くなった。
 車はいつしか仙台南インターチェンジを過ぎ、もう少しで村田ジャンクションに差し掛かろうとしていた。

 程なくして、助手席のみちるが両手を前に伸ばして「んーっ」と声を出した。どうやらお目覚めらしい。

「みちる。そろそろ高速道路を下りるぞ」

「……はぁーい」

 彼女はまだ寝ぼけているのか、気の抜けた声で返事をすると車窓から外の景色を眺め、自分が今どこに居るのか確かめているように見えた。

 俺たちは白石インターチェンジで高速道路を下りると、そのまま国道4号線に入り、程なくして白石市の市街で 国道113号線を西に、角田かくだ市に進路を取った。

 カーナビの画面を見ると、まもなく角田市に入るようだ。そう思って、ふと気が付くと500mほど先の左の路肩に誰かが立っている。
 俺は妙に気なってアクセルを踏む足を緩め速度を落とした。
 路肩に立っているのは、泥だらけの幼稚園の制服と思われるものを着て、右手には同じく泥で汚れたぬいぐるみのような物を持っている幼児だった。
 幼児は俯いて左手で涙を拭う様な仕草をしている為、顔や性別までは分からないが恐らくこの子が女の子の幽霊に違いない。
 俺はハザードのスイッチを押して路肩に車を停めると、みちるに呼びかけた。

「おい、みちる。あれ、俺たちが探している女の子の幽霊じゃないか?」

 車窓から外の景色を眺めボーっとしていたみちるが、俺の呼びかけで前方の幼児に気付き「あっ!」と短い声を発した。

 俺は後続車が来ない事を確認すると、運転席から降りて500mほど先に立っている幼児に向かって歩き出した。
 俺が近づいているのに気付いていないのか、幼児は先ほどと変わらず俯いたまま左手で涙を拭う様な仕草をしている。
 近づいてハッキリと幼児の姿を見ると、いかにこの子の様子が異常であるかが分かった。
 着ている衣服はもちろん、頭の先からつま先まで全身が泥で汚れているのだ。

 これは……、生きている人間ではないな……。
 そう思った矢先、俺の頭の中にこの子の物と思われる泣き声が響き渡った。

 苦しい……。

 同時に息ができない感覚が伝わってくる。口の中には泥の味と、ジャリジャリとした砂を噛んでいるような感覚までしてきた。

 まったく、霊感なんて持つもんじゃねーな。
 ほんの少しでも気を緩めれば、濁流に飲み込まれて溺れ死んでしまうという錯覚が俺を襲う。

 思わず眉間に力が入ってしまう。今、鏡を見たら自分でも驚くくらい険しい表情をしているに違いない。

 それでも俺は歩みを止めず、一歩一歩覚悟を決めて幼児に向かって近づいて行った。
 やがて俺は幼児の目前にまで近づいた。
 幼児が右手で掴んでいる泥だらけの物体はマイメロディのぬいぐるみであった。
 かつては可愛らしいぬいぐるみであったに違いないそれは、すっかり茶色い泥の色に染まり、所々破けて中身の綿が飛び出している。

 俺は口の中に泥の味と砂の感触を感じながら、幼児に話しかけた。

美咲みさきちゃん……だよね? お母さんとはぐれてしまったの?」

 俺の問いかけに、幼児はしばらく俯いたままであったが、やがて顔を上げた。
 泣いていたせいか、顔の泥は粗方涙で落ちていた。
 可愛らしい女の子だ。年齢もラジオのニュースで言っていたのと同じくらいのようだ。

 女の子は時折、しゃくりあげるような呼吸をしながら俺の目を見つめている。

「あのね……、お母さんが……、お母さんが居ないの」

 そう言って女の子は再び涙ぐんだ。

「えーと、美咲ちゃん……、だよね? キミは永広ながひろ 美咲みさきちゃんだよね?」

 俺の問いかけに、女の子は無言でコクリと頷いた。
 ついに見つけた! この子が吉田のオッサンが言っていた女の子の幽霊に違いない。

「お兄ちゃん達と一緒にお母さんを探そうよ」

 俺の問いかけに女の子は再びコクリと頷いた。

「お姉ちゃんも手伝うよ」

 いつしか俺の後ろまで歩いてきていたみちるが女の子に話しかけた。
 女の子の顔が急に怯えた表情に変わった。

「あ、違うの! あなたを連れては行かないわ!」

 みちるがそう叫び終える前に女の子の姿は霧のように消えてしまった。
 死者特有の感覚なのだろうか? みちるが死神であるのを感じ取って、怯えて消えてしまったようだ。

 みちるの方に振り返ると、彼女はバツの悪そうな顔をしている。

「……違うんです。私はあの子に危害を加えたり、小野寺さんと一緒に霊界に連れて行ったりなんて、しませんから……」

「あぁ、分かってる。みちるはそんな事しないっていうのは、俺が一番分かってるよ」

 俺達2人は無言のままで車の方に戻り、乗り込むとドアを閉めた。
 さて、どうする? 女の子の幽霊を見つけたのはいいが、消えてしまったのでは元も子もない。
 数分間、2人の間に沈黙が流れる。

「母親の方を探そう」

 俺の提案にみちるが少し落ち込んだような感じで答える。

「……どうやってお母さんを探すんです?」

「町の図書館で過去の新聞を見れば、2人が川に流された場所が分かるんじゃないか? きっと母親は流された場所に居るに違いない」

「そうですね……」

 みちるはそう言うと、黙って俯いてしまった。

「なあ、みちる。あんまり気にすんなよ。さっきのはみちるが悪い訳じゃない。
 ……その、……なんつーか、あの子は本能的に、みちるが死神なのを感じ取っちまって、ビビって消えちまったんだろ?」

「……でも、やっぱり傷付きます。死神にだって感情はあるんです」

 そう、彼女は死神とはいえまだ若い。やはり小さい子に怖がられるのは心が傷つくのだろう。

「じゃ、がんばってあの子の母親を探さないとな! そして、母親から死神は怖い存在じゃないって説明してもらわなくちゃな!」

 俺は無理やりテンションを上げてそう言うと、みちるに向けて微笑みかけた。

 みちるは少し微笑んで「はい」と元気よく返事をした。
 俺はカーナビに丸森町の図書館を目的地としてセットすると、ハザードランプを消し車を発進させた。
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