「こんばんは、死神です」そう言って俺の元にやって来たのはリクルートスーツを着た小柄な女の子でした

阿藤Q助

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【エピローグ】

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 今日も一日疲れた。まったくあのセクハラ部長はいつになったら死ぬんだろうか?
 太田ちゃーん! そう猫なで声で呼ばれるたびに鳥肌が立つ。

 仙台市若林区六丁の目中町にあるこのアパート。地下鉄の駅やスーパー銭湯などに近く、なんとコンビニに至っては歩いて数分の徒歩圏内にローソン、セブンイレブン、ミニストップとコンビニが揃っていて、特にセブンイレブンはほぼ同じ距離で2軒もあるという利便性の高い場所にある。

 こんな好立地のアパートの一室を何故か格安で借りることが出来、ウキウキの気分で引っ越してきたばかりだというのに、その気分に水を差すあのセクハラ部長は断じて許す事が出来ない。

 もしも私が『死神』であったならヤツを地獄に連れて行ってやるところだ。

 昼間の嫌な事を思い出すと何だか料理を作る気にもなれない。そうだ! こんな時にはお手軽な宅配ピザを頼んじゃおう!
 キッチンの椅子に腰かけ、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出す。ブラウザのブックマークから宅配ピザ屋のサイトを選んでっと――。

 ピンポーン。

 不意に壁に据え付けられたインターホンが来客を告げた。

「まったく誰なのよ……」

 思わず愚痴りながら、インターホンのモニターを覗き込むとそこには金髪に顎鬚を蓄えたチンピラ風の男と、その横にリクルートスーツを着た小柄な女の子が立っていた。 

「はい、どちら様ですか?」

「チーッス、死神でーす。開けてくださーい」

「ちょっと! 小野寺さん、不躾ぶしつけすぎますよ!」

「っるせーな、どうせ死神だっつったって信じやしないんだからいいだろ!」

 なんだコイツらは?
 
 私は事態が飲み込めず、その場でフリーズしてしまった。

 ピンポーン、ピンポーン。

 男がインターホンのボタンを連打している。

「居るんでしょー? 太田さーん!」

 怖くなった私はインターホンの通話ボタンを押して大声でまくし立てた。

「な、何だか知りませんけど帰ってください!! これ以上ふざけるようなら警察を呼びますよ!」

 慌ててテーブルに駆け寄り、スマホを手に取った。

「え、えーと、け、警察! 110番……」

 慌ててダイヤルをしようとしてスマホを床に落としてしまった。

 スマホを拾って顔を上げると、目の前にはつい今しがたモニター画面の中に居た2人が立っていた。
 金髪のチンピラが、だるそうに私を見つめ口を開く。

「だからさー、死神だって言ってんじゃん。
 警察呼んだって信じてもらえないよ? なんて言うの? 死神が来ました! って言うの?」

「ちょっと! 小野寺さん! 死神のモットーは親切、丁寧、分かりやすくですよ!」

「なんだよ、これ以上分かりやすい説明はねえだろ。自ら死神だって名乗ってんだからさ」

 リクルートスーツを着た小柄な女の子がふくれっ面をして、金髪のチンピラに説教を始めた。

「小野寺さんは死神の何たるかを分かっているんですか? それにそんなだらしない格好をして、おまけに金髪、顎鬚って、まるでチンピラじゃないですか!」

「チンピラとはなんだ! 大体な、死神になったら地獄行きを免除してやるって言うから、仕方無く死神になったんだぞ! お前と違ってなりたくてなってんじゃねーんだよ!」

「ちょっと! あたしは『おまえ』なんて名前じゃありません! 月夜みちるっていう立派な名前があるんです!」


「今そういう話をしてんじゃねぇだろ――」

「ちょっと!! 人ん家に勝手に入ってきて、いきなり痴話ちわげんかを始めて、あんたたちは一体何なの!?」

 喧嘩をしているチンピラとリクルートスーツ姿の小さい女の子が一斉にこちらを向いた。

「死神だよ!!」
「死神です!!」


 完
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