西園寺エヴァの憂鬱

西園寺エヴァの憂鬱 その３ じぇじぇじぇ

イーエフ氏は憂鬱だった・・・


退屈な日常にあきあきしていた。

『猿の惑星プロジェクト』に参加して顔が猿になり世間を騒がせた時は何かと楽しかったが、そのブームが去って普通の生活に戻るとすぐに暇になった。
あの時の騒がしかった反動もあり今の生活は以前にも増して暇に感じる。

そんなある日、ドアの郵便受けを見ると婚活省からの封筒が入っていた。


イーエフ氏はそれをゴミ箱に入れようとしたが、思い直して、封筒を開け中の書類に目を通してみた。それにはこう書かれていた。
『電子メールでは、返信が無いのでこうして封書を送らせて頂きました。この度婚活省では婚活パーティーを盛り上げる為にマジシャンや、歌手などのエンターテイナーをお呼びしてパーティーを盛り上げる企画をたてました。退屈な日常から一時離れてみませんか？是非一度ご参加ください』
そんなことが書かれていた。
「ふうん、なるほど・・・」とつぶやき、彼は電子メールで参加を申し込むことにした。


そして、婚活省から指定されたその日、婚活パーティーが開催されるホテルの会場にやや遅れて出向いた。
そのホテルは最後に西園寺エヴァと別れたあのホテルだった。
その会場の真ん中辺りに西園寺エヴァの姿が見えた。
チラッと彼女と視線があったがとりあえず無視した。
西園寺エヴァは富裕層の人達や富裕層に憧れる人々に取り囲まれていた。その美しさは変わっていなかった。

それを横目に見てイーエフ氏はマジックパフォーマンスが行われているらしいコーナーに向かった。

そこでは妙な盛り上がりがあった。
マジシャンがトランプマジックを披露していたが、そのたびに「じぇじぇじぇ」と連発してパフォーマンスを盛り上げている女がいた。
その女は、この会場にはまったくふさわしくない服装をしていた。
いわゆる海女さんの姿そのもので、日焼けした顔で腰には竹細工のかごをぶら下げていた。
変わった女だ、パフォーマンサーなんだろうかとイーエフ氏は思った。
その女はイーエフ氏と目が会うと東北訛りでこう言って自己紹介した。
「おら、東北で先祖代々から海女さんの仕事をしているだ。そしたらある日あの女がやってきて、婚活パーティーに参加しないかと言われただ。それであの女の自家用ジェット機に乗ってここにやって来ただ、よろしくな」
女は西園寺エヴァの方を指差した。
エヴァがちらっとこっちを見て手を振っている。
どうやらこの海女さんの女は西園寺エヴァと仲良くなって気分転換のつもりでこの婚活パーティーに参加したらしい。
「おら、雨宮心美というだ。おらと交際したかったらここにサインしてくれ」と言って心美は竹編みのかごからタブレットを出して見せた。

タブレットは交際省に２人が、婚約を前提に交際することを認定してもらう認証画面になっていた。
交際省にこうして登録しておけば交際する為の資金援助とか、その他色々援助してくれるシステムになっている。

その画面には、すでに、彼女に交際を申し込んだ男の名前が10人登録されていた。
これには驚いた。
彼女がこの会場に来てからたった一時間の間に交際を彼女に交際を申し込んだ男が、10人もいるわけだ。
イーエフ氏は競争心も沸いてきて、自分も彼女に交際を申し込むことにした。