福来博士の憂鬱

九条秋来

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福来博士の憂鬱 その6 星村風光

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福来博士は散歩しながらこうつぶやいた・・・

あの謎の人物、または時代遅れの火星人かも知れない人物は本が好きらしい。それなら彼専用の書斎を作ってみようと・・・

そして、それが何となくうまくいきそうな気がしてきた・・・


書斎作りは白ひげマスターに手伝ってもらうことにした。
「いいとも、最近はわしの大工の腕がなまっていたんじゃ」とマスターは心よく引き受けてくれた。

応接室の隣に書庫があったのでそこをきれいに改良して、落ち着ける書斎が3日で完成した。
書棚には、謎の人物が好きそうな物理関係、宇宙関係、進化論関係の本を思い付く限り古本屋で買い集めて並べた。
書斎には机と椅子のセットを置き、1人用のソファーとテーブル、も置いた。
ついでにテーブルの上にはスケッチブックとノートと筆記用具を並べた。
壁の一面にはB全のホワイトボードを取り付けた。

そして、ホワイトボードにはこう書いた。
「ようこそ、時代遅れの火星人さん。何か言いたい事があるなら、ここに書いてください。スケッチブックとノートもあります」

そして、次の日の朝、ホワイトボードをなんとメッセージが書かれていた。
それはこう書かれていた。
「私は火星人では無い。日本人の男だ」
これは意外なメッセージだった。
火星人の姿はいったい何だったのかと疑問がわくがとりあえずボード会話第一回は成功したのだから彼が博士との会話に挑戦しているということだ。
彼が何故火星人の姿をしているかということだが、それもそのうちわかるかも知れないと期待せずにまつしかない。

博士は「私は福来知吉博士といいます。あなたの名前は何といいますか?」とボードに書いた。
名前がわかればもっとリアルに会話状況は進行して行く。
猿の惑星を探せの意味も知りたいが、そのうちわかるかも知れない・・・

次の日の朝ボードを見たが何も書かれていない。
自分の名前を、まだ言いたく無い事情があるのだろう。
福来博士はボードに、「あなたの名前を教えてください」と書き直してまた様子を見ることにした。


彼の名前がわかったのは、実に1週間後だった。
よほど言いたくなかったかも知れない。
ボードにこう書かれていた。
「私の名は、星村風光(ほしむらかぜみつ)、零戦の特効隊員だった」

(※零戦とは第二次世界大戦に使われた零式戦闘機のことで、特攻隊とは戦闘機に爆弾を積んで敵の空母に命懸けで突入する部隊のことです)

あまりに意外なそのメッセージに福来博士は言葉を失った。
火星人と零戦隊員と猿の惑星のイメージがまったく結びつかないが、また次のメッセージを待つしかない。


リルが用意してくれたモーニングコーヒーを飲んでいるとリルから聞かれた。
「あの火星人の正体はわかりましたか?」
「どうやら日本人らしいんだ。名前は星村風光で第二次世界大戦の、零戦特攻隊員だったらしい」
「えっ!意外過ぎる展開になって来ましたね、大丈夫ですかこの話し・・・」
「そうなんだよ、これから何かと研究設備とか欲しいんだが、今の生活保護では何も買えないしな」

「博士の発明したシートベルト自動装着装着で特許を取ってそれをお金に変えたらどうですか?」
「それはいいかも知れないな。しかしそれがうまく金になるとは限らない」
「私に任せてください。パソコンで特許申請してあちこちの企業に売り込みます」
「パソコンでそんなことが出来るのか、知らなかったな」

リルは特許申請に集中し、その間博士は家事に集中した。
猫のエサやりも完璧にやった。

こうしてリルがパソコンで特許を取りあちこちの企業に売り込んだ、おかげですぐに博士の口座には大金が振り込まれた。
その金額には驚くばかりだったが、とにかくこれで研究設備はすべて揃えられるわけだ。
世の中金さえあれば買えないものはない。

幸福と平和と友達以外は・・・
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