4 / 57
プロローグ 時をやり直す
4、時が戻ってから
「直君、今の君ならアイドルも夢じゃないよ!」
その光景は俺が14歳の頃、マネージャーからアイドルをやらないかと言われた時と、全く同じ状況だった。
俺は一応、鏡でその姿を確認する。
坊ちゃんヘアーに愛くるしいまん丸お目目、まだまだ子供らしさの抜けないその顔は間違いなく、当時の俺そのもので ───。
あ、アイドルになる前まで時が戻ってる!!?
「直君、どうしたのかな。アイドルは興味なかった?」
少し眉を寄せるマネージャーに申し訳なく思いながら、俺は混乱する頭をフル回転させて考えた。
もし俺がこのままアイドルになって、今度こそグループのメンバー達と良好な関係を築く事ができたとしたら、未来は変わるかもしれない。
だけどよく考えろ、どれ程グループ関係が良好になったところで、俺を執拗にパパラッチしていたやつの正体がわからない以上、スキャンダル地獄から抜け出す未来はやって来ないだろう。
それならばいっそ、スキャンダルされない立場になるというのはどうだ?
しかしその為には、芸能界をやめる方法しか今の俺には思いつかなかった。
確かに芸能界に未練はある。だけどいずれ来る不幸な世界へ戻るくらいなら、俺は芸能界を引退する事を選んでやる。
もう二度と周りからいらない存在だと思われたくないから───。
そう決心した俺は、マネージャーの手を取り残念そうに言ったのだ。
「マネージャー、俺は子役としては天才だったと思う。だけど子役を卒業する事はできない」
「それってどう言う事かな、直君?」
「俺は子役を卒業せずに、子役のまま引退する事にする」
「な、何を言い出すんだい!? そんなにアイドルになるのが嫌だというのなら、別の道に……」
「違うんだ! 俺は子役としての自分が好きだった。だからそれ以外の自分を認められない」
「な、直君。君にそこまで子役としてのプライドがあったなんて……! そこまで言うのなら仕方がないね。直君の意思はとても固いようだし、私はその意思を尊重するよ!」
こうして俺、風間直は子役のまま電撃引退する事になった。
そのおかげで引退会見や、引退ライブのような盛大なイベントを開催してもらうという、子役としては異例の扱いを受けたまま俺は芸能界を去ったのだ。
しかし俺がいなくなったのに、アイドルグループ『Cronus*Fantazuma』は結成されてしまった。
違うところといえば、センターが俺の代わりに最初から優になっていたところだろう。
どうやらあの伝説の子役、風間直の弟という売り込みをしているようで優はとても忙しそうだった。
その結果、優は忙しさのあまり実家での生活が困難となり、寮へと移る事になったのだ。
その日、荷物を取りに来た優と久しぶりに話せると俺は楽しみにしていた。
それなのに俺の前に現れた優は、まるでやり直す前の世界で見た優のように、俺を睨みつけていたのだ。
「兄貴……どうして俺の前から逃げた?」
「……へ?」
言っている意味が全くわからなくて、俺は瞬きをして聞き返してしまう。
「逃げたってどう言う意味だ?」
「俺は兄貴と一緒のグループになれると聞いていたからアイドルグループに入ったのに……凄く嬉しくて楽しみにしていたのに、なんで突然芸能界を辞めるなんて言い出したんだよ。俺には兄貴が何を考えているのか全くわからない!!」
どうやら優は、この世界でも俺と同じグループになる予定でスカウトされたらしい。
確かに俺が断るなんて社長達も思っていなかっただろうからな……優にはアイドルが嫌で逃げ出したと思われても仕方がない。
それにやり直す前の世界の優は、俺と同じグループになれて嬉しいと言っていたような気がする。だから俺が芸能界を引退した事で、優をとてもガッリさせてしまったのかもしれない。
もしかして俺はまた優を傷つけてしまった……?
罪悪感に苛まれた俺は何か言い訳をしなくてはと思ったのに、何も言葉は出てこなかった。
だって辞めた理由を優に言えるわけがない。
あのまま芸能界にいたら俺の人生はスキャンダル地獄の挙句、死ぬかもしれないなんて……絶対に信じてもらえないよな。
そして優は何も言えない俺を見て、震えながら言ったのだ。
「やっぱり、俺には何も言いえないんだ……そうか、わかった。兄貴は俺の事が嫌いなんだ、だから……!」
「いや、そうじゃない!」
「何が違うんだよ! 辞めるときだって俺には何も言ってくれなかった癖に……俺は絶対に兄貴を許さない。いつかトップアイドルになって兄貴を見返すまで、この家には帰ってこないから!」
そう言って家から飛び出した優に、俺は何も言えなかった。
暫く動けずに落ち込んでいた俺を見た母さんに、「いつかわかってもらえる日が来るわよ」なんて励まされてしまい、俺はつい泣いてしまったのだった。
それから一年が経ち、俺は今年高校に入学した。
芸能界をやめたとはいえ知名度がソコソコある為、周りから遠巻きにされる日々を過ごしていた俺にもついに友達ができたのだ。
そいつの名前は多田野仁。
なんと幼少期の幼馴染みらしいのだけど、俺はあんまり覚えてなくて申し訳ない。
しかも芸能活動をしている間はずっと俺のファンだったらしくて、ちょっと恥ずかしかった。
そんな仁はちょっと変わってるやつで、たまに俺をじっと見て何か考えながら、ずり落ちる眼鏡をよく直す癖があった。
そして俺にしょっちゅう言うのだ。
「直は本当に芸能界に戻りたいとは思ってないんだな?」
「当たり前だ。俺は今の生活が楽しくていい」
「ならよかった……直は絶対にそのままでいてくれよ」
とても安堵するその姿に、俺は何度も首を傾げてしまう。
だって仁のその言い方は、まるで俺が芸能界に戻ったら何か不幸な事がおきるのを知っているような口ぶりだったから。
だけど仁がやり直す前の世界を知ってるわけがないのに───なんで気になるのだろうか?
俺は仁とそんなやりとりを繰り返しながらも、高校3年間を楽しく過ごした。
そして今年、俺は大学へと進学する。
しかも俺達は同じ大学に行く事になったんだけど、それは仁が俺に合わせたように思えたのだ。
そして高校3年間の間、俺はちゃんとC*Fも追いかけていた。
最初は俺がいた頃よりもなかなか芽が出なかったようだけど、やり直す前の世界でトップアイドルに上り詰めただけのカリスマ性は本当にあったようだ。
C*Fは一度ヒット作を出した後から遺憾なくその実力を発揮するようになり、その人気は鰻登りだった。
そして現在、すでにC*Fはトップアイドルとなっていた。
それは俺がいた頃よりもだいぶ早いトップの座で、もしあのとき俺が足を引っ張っていなければ……なんて思った俺は少し落ち込んでしまったのだ。
だって俺のスキャンダルがでるようになったのは、大体この頃だったから……。
しかしそれはやり直す前の世界の話で、今の俺には関係ない。
俺はあの頃と今では全く違う道を進んでいるし、この調子ならスキャンダル地獄になる事もなく普通の人生を送れる筈なんだから───。
この時の俺は、本気でそう思っていた。
それなのに意外な方法で芸能界へと戻る事になるなんて、俺は全く思っていなかったのだ。
あなたにおすすめの小説
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)