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弟と俺
14、初仕事
急いで寮に帰ってきた俺はスーツに着替え、車を出しながら予定を確認していた。
スケジュール通りいけば今日拾う順番は優、光、元、夜の順でいい筈だ。
今は17時だから時間通りに間に合いそうだな。
そう思いながら俺は車を出したのだった。
俺が優を迎えに行った場所は、とても有名なテレビ局だった。
ここは子役時代にも来た事があったけど、俺は道に迷う事なく辿りつけて少しホッとしていた。
確か優はドラマの撮影をしているんだよな……。
着いたのはいいけどまだ時間がある。
だから俺は車から降りて迎えに行くべきか、この場で待つべきなのか迷っていた。
一応急遽作った名刺はもらってるから撮影現場に入る事はできる。
だけど俺が行く事で、優に嫌な顔をされたくなかったのだ。
「……それでも折角ここに来たんだから、優の演じてる姿が見たい!」
そう叫んだ俺は勢いよく車から降りると、優のいるBスタジオへと行く事にしたのだ。
俺だってテレビでは優の演技を何度も見た事はある。
だけどやり直す前の世界でも今の世界でも、俺は優の演技を生で見た事は無かったのだ。
しかし元役者の俺としては、優がどんな気持ちで役を演じているのか凄く興味があった。
俺は撮影が終わる前にと急いでBスタジオに向かい、ゆっくりとその扉を開ける。中には沢山のスタッフがいて、俺はその空気を懐かく思ってしまったのだ。
とりあえず俺は不審者と思われないように近くにいる人に軽く頭を下げながら、すぐに壁際へと移動していた。
そして撮影現場を見ると、そこには今も演技をしている優の姿があった。
確か優の出ているドラマは、『青春中につき鐘はなる』とかいう学生物のラブストーリーだった筈だ。
既にオンエア版ではクライマックス間近になっており、最近だと主人公がメインヒーローともう一人のライバルキャラのどちらを選ぶのか、といったドキドキ展開になっている。
優が演じているのは主人公を狙ってるクールなライバルキャラなのだけど、俺はつい恋愛物だと優のキャラに感情移入して応援してしまう癖があった。
もちろん俺は優の出てる番組を全てチェックして見ているのだけど、今回の役は今まで見てきた中で一番と言えるぐらいハマリ役だったのだ。
なにより目の前で演技をしている優はいつもより凄くカッコよくて、俺はその演技に魅入ってしまい目が離せなくなっていた。
そして気がつけばいつのまに休憩に入ったのか、撮影スタッフがキャッキャッと喋る声が聞こえて来たのだ。
「次のシーン、あの例のシーンでしょ!?」
「そうよ~。風間優といえば高校生に見えないといわれる圧巻のキスシーンが有名だもの!」
「ついに来たかって感じよね! 私達も優君に落とされないように気をつけないと」
「やだ、まだ未成年よ~」
「わかってるわよ!」
楽しそうに話してるその内容から、どうも次は優のキスシーンという事を知ってしまい、俺は心臓がバクバクし始めていた。
どうしよう。弟のキスシーンとか恥ずかしくて直視出来ないから、外で待つ事にしようかな……。
そう思いながら優を見ると、バッチリ目が合ってしまった。
優は俺がここにいる事に少し驚いたようだけど、特に何の感情も見せずにこちらへと近づいてきたのだ。
しかも優は何故か体が触れるほど接近して、俺の腕を掴んでいた。
「優、待ってくれ。近づくにしてもちょっと距離が近過ぎるし、別に逃げないから手を掴まないで欲しいんだけど……?」
「そんな事はどうでもいい。直、どうしてここで待ってるんだ?」
本当は周りからの視線が気になるから早く手を離して欲しかったのだけど、睨みつけてくる優の圧に負けてしまった俺は本音を溢していた。
「俺がここにいるのは、優の演技を目の前で見たかったからなんだけど……ダメだったか?」
「…………」
何も言わず暫く黙っていた優は、更に俺へと顔を近づけてきたのだ。
その事に驚いた俺は、目をつぶってしまう。
「……ゆ、優……近すぎるから」
「直……」
何をされるのかわからなくてドキドキしていると、優は耳元で囁いたのだ。
「もしかしてキスされると思ったか? ……それは後でしてやるよ。だけどその前に俺が役者としてするキスシーンを直に見せてやる。例え相手が女優だろうが、今から俺がキスをする相手は直だと思って挑むから……俺だけを見てろ」
「は? いや、どういう意味だよ?」
全く理解できない俺を置いて、撮影に戻っていく優の姿から俺は目が離せなくなっていた。
そして始まったそのシーンは、メインヒーローの目の前で静かに嫉妬した優のキャラが、突然ヒロインにキスをするというシーンだった。
優は、女優さんの頬に手を置くと本当に一瞬だけ優しく微笑んでその唇を奪ったのだ。
その姿に驚いたのは俺だった。
だって優はさっき、このキスシーンは俺にしてるつもり挑むと言っていたのだ。
つまりあの一瞬の笑みすら、俺に向けている事になってしまう。だけどあの顔は、好きな人に向けてする表情にしか見えなかった。
でも俺は優に嫌われてる筈なのに……これは一体どういう事なんだ?
混乱しながら自分の唇に触れた俺は、そういえば昨日あの唇とキスをしたんだ……と、優の唇の感触を思い出して顔を赤くしてしまったのだ。
そして一体何を考えてるのだと恥ずかしくて耐えられなくなった俺は、スタジオから飛び出していた。
……俺は馬鹿なのか、弟に対して何を変な気持ちになってるんだよ。
そう思った俺は頭を冷やそうと少し散歩をする事にした。
しかし歩き出そうとした俺は、突然誰かに呼び止められたのだ。
「ねえ、君って風間直だよな?」
「へっ?」
振り返ると、そこには金髪の派手な男がいた。
その男に見覚えがあった俺は、誰だっただろうかとじっと見てしまう。
「え、えっと……」
「俺だよ、俺! 覚えてないかなぁ~。ほら、青山龍二だよ。子役時代からよく共演した仲だったけど、もしかして直は俺の事なんて忘れれちゃってるのかなぁ?」
「え、龍二……」
俺はその名前を間違いなく知っていた。
青山龍二といえば昔の子役仲間であり、俺の中でもう2度と会いたくない人物だったのだから……。
「なんだ、覚えてるじゃん! それならさ、少しだけ俺の楽屋で話そうよ~」
「で、でも俺は18時までに優の所に戻らないといけないから……」
「大丈夫、大丈夫。それまでには終わるからさ」
そう言いながら何故か手を腰に回してきた龍二は、俺を楽屋へと無理矢理連れて行ったのだ。
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