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弟と俺
18、わからない
優はドラマ撮影が思った以上に長引いていた。
だから車に乗り込んだ時には、次に迎えに行く光の所に早く行かなければならなかったのだ。
「さっき電話があって、光はもう既に終わってるらしいからなるべく急がないと」
「次が光なら待たせてもそんなに文句は言わないと思うから、直は安全運転で行けばいい。それとだいぶマシになったようだけど、その顔を他のメンバーには絶対に見せるなよ」
確かに結構泣いたからまだ少し目が腫れてるかもしれないけど、皆この車に乗るのだから顔を合わせないようにするなんて出来るわけがない。
「そんな事言われても、迎えに来た俺が顔を見せなかったら流石に変だと思われないか……?」
「別に変じゃない。それにメンバーの相手は俺がやるから大丈夫だ。だから絶対にこっちを向くなよ、わかったな?」
俺は運転に集中しているので後ろは見えないが、なんだか優から凄い圧を感じてしまい反論できなかった。
「わかったよ。まあ俺も不細工になってる顔を、誰かに見られたくないしな……」
きっと優が言うのだから凄いのだろうと、俺は赤信号で止まってる間にバックミラーを見た。
確かにそこに写ってる自分の顔は中々酷かった。
目は真っ赤だし瞼も腫れている。こんな姿を誰かに見られたら、恥ずかしくて生きていけない……!
俺がその顔にショックを受けていると、優がボソッと呟く声が聞こえたのだ。
「寧ろ、可愛いから誰にも見せたくないんだけどな……」
「え……今、可愛いって言わなかったか?」
「何でもない、ただの聞き間違いだろ?」
「そ、そうだよな。こんな顔が可愛いわけないもんな……」
俺はどうしてそんな恥ずかしい聞き間違いをしたのだろうと、顔が赤くなるのを誤魔化すように前を向く。
丁度信号が青になるのを確認した俺は、車のアクセルを踏んだのだった。
その後、順調にメンバーを拾った俺だけど今のところ誰にも顔は見られていない。
それは優が積極的にメンバーと話してくれているからなのだけど……その姿は少し違和感があった。
「光、家に帰ったら夜ご飯を食べるんだから今食べ過ぎるなよ」
「わかってるけどさ~、なんか今日の優君凄く変じゃない?」
やっぱり普段の優を知っていたら怪しいってすぐにわかるよな……このままだと俺の酷い顔がバレるのも時間の問題か?
そう思って少し焦っていると、光の話を聞いていた夜が何故か優のフォローに入ってくれたのだ。
「……そうかな? 光の言う通りちょっと変かもしれないけど、優だってたまには喋りたい日もあるんじゃないかな……」
流石夜は優しい男だと俺は感激しそうになっていた。
だけど光はそれだけでは納得してくれなかったのだ。
「え~、夜君はもう少し面白い発想できないの?」
「えっ……面白い?」
「例えば、優君は何か知られたくない事を隠してるとかさ~」
その発言に俺はドキッとしてしまう。
だけど光からの言及が来るより早く、優は二人の会話に割って入ったのだ。
「光、夜が困ってる。それに今の俺は夜の言う通り少し喋りたい気分なだけだ」
「ほ、ほら……やっぱり俺の言った通りだったよ、光……」
「え~、本当に夜君の言う通りだっただけ? そんなのつまんな~い!」
どうやら優の話で光はとりあえず納得してくれたようだ。
そう思ったのに、今度はさっきまで傍観していた元が口を出してきたのだ。
「いーや、俺は優が何かを隠してると見た。なあ、直は何か知らないのか?」
「……え?」
突然話を振られた俺は、心拍数が跳ね上がっていた。
今は運転しているので何とか前を見続けてはいるが、動揺している俺は上手い言い訳が出てきてくれなかったのだ。
「お、俺は特に聞いてないから……知らないぞ」
「ふーん、その反応からして直は何か知ってるんだな?」
「えっ、なになに! やっぱり何かあるの?」
元と光は凄く気になるのか、後部座席から身を乗り出してきたせいで俺はビクッとしてしまう。
角度的には大丈夫だと思うけどバックミラーに写る顔でバレてしまいそうで、もうこれ以上誤魔化すのは無理かもしれない。そう思った時だった。
優は乗り出している二人の肩を掴むと、ドスの効いた声で言ったのだ。
「……おい、直は運転中なんだから誰も話しかけるな」
二人は優に気圧されたのか、そのまま口を閉ざしてしまったのだ。
確かに今は助かったけど、きっと優の態度で更に怪しまれたのは間違いないだろう。
そのせいで恐ろしいほど空気が悪くなった車内は、誰も喋る事なくとても静かだった。
そして俺は運転しながら、また優の事を考えてしまった。だけどそれは、優がおかしいからいけないと思うのだ。
俺の事を嫌いだと言った癖に、俺を迎えに来たとか、誰にも渡したくないとか言ったり……挙げ句の果てにキスまでしてくるし、本当に優は一体どうしてしまったのだろう?
もしかして、俺を喜ばせた後に掌を返すつもりとか……?
だけど例え裏切られたとしても、俺は今回も最後まで弟の事を信じたいと思ってしまったのだ。
だから優が本心で話してくれるのなら、俺はどんな優でも受け止めてみせるのにな……。
そんな事を思ってる間に車は寮へと着いていた。
俺が寮の横にある駐車場に車を止めると、重苦しい空気から早く開放されたかったのか皆すぐに車から出たのだ。
そして全員降りたのを確認した俺は、誰にも酷い顔を見られなかった事にホッとしていた。
それに一応、初仕事も無事に終わらせる事が出来たわけだし今のところ順調だと言えるだろう。
確かに龍二に会った事を考えると、この先マネージャーを続ける事に少し不安はある。
それにスキャンダルとか俺を嵌めた奴の事は気になるけど、俺はまたこうしてC*Fに関われた事が実は少し嬉しかったのだ。
だからこの仕事は途中で投げ出したくない……。
そう思いながら車を降りると、何故か目の前に優が立っていた。
「顔はもう大丈夫そうだが……」
優はじっと俺を見つめると、何故かいきなり俺を持ち上げたのだ。
「な、何でっ!?」
「少しフラついていた。だから俺がリビングまで運んでやる」
「だからって、何でまたこの体勢なんだよ!」
俺を軽々と抱き上げた優は、何故かまたお姫さま抱っこしてきたのだ。
そのせいで他のメンバーが驚いてる姿が見えてしまい、俺は凄く恥ずかしかった。
「俺の趣味だ」
「なら尚更やめてくれよ、俺が恥ずかしいだろ!」
「なら着くまで、顔を隠していろ。他の奴にそんな顔を見せるなよ」
そんな横暴な優の姿に、他のメンバーも流石に文句を言い始めたのだ。
「優君だけずる~い!」
「光の言う通りだ。それと優の態度から直に何かあったという事はわかったからな。それなら俺達にだって直を運ぶ権利がある筈だ」
「え、それなら俺も直を運ぶ事ぐらいなら……」
ついに夜までおかしな事を言い出してしまい、俺は混乱していた。
「運ぶのは俺だけだ。それに直はもう大丈夫そうだから話はリビングでする」
「じゃあ途中で交代してよ~!」
「独り占めはずるいぜ?」
「お、俺もそう思う……」
そしてさっきまでのギスギスは一体何だったのかと思うぐらい賑やかなまま、俺達はリビングに向かったのたのだ。
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