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元と俺
32、刻を遡る前2(元視点)
やり直す前の世界で、元がどうなったのか。
元視点でお届けします。
─── ─── ─── ───
その日、マネージャーに呼ばれた俺は直が死んだ事を突然知った。
あまりにも信じられない話に、俺は怒りで気が狂いそうだった。
だって、あの風間直が自殺したというのだ。
───そんな話、あってたまるかよ!!
俺が始めて直とあったあの日、俺を見下す瞳を見たその瞬間から直を蹴落とす事だけを考えて生きてきた。
その結果、直がもがき苦しむたびに喜びを感じるようになってしまった俺は、もっと直の歪んでいる顔が見たくて密かに嫌がらせをするようになってしまったのだ。
所詮嫌がらせといっても衣装に着替えた直の私服を隠したり、鞄の中身をぶち撒けたりするような些細な事ばかりしていた。
俺だって、それがすごく子供っぽい事だというのはわかっている。だけどそれを見て驚く直の顔は凄く堪らなくて、何度も見たいと思ってしまったのだ。
それでも嫌がらせをしている事を気づかれたくなかった俺は、直と話す時はこの歪んだ感情を表に出さないように気をつけて過ごしていた。
だから直にとって、俺なんて眼中にない事は初めからわかっていた。
それなのにその純粋な瞳で俺を見て欲しいと、そう思い始めたのはいつ頃だっただろうか……?
確かそれは、直が勝手に没落してからだった気がする。
最初の頃はスクープに悩み苦しむ直が堪らなくて、俺はそれをオカズに自慰をしてしまう程毎日興奮がおさまらなかった。
しかし直の全く折れない心に、俺は次第に目が離せなくなってしまったのだ。
直の心が折れる瞬間を見たい……その絶望した瞳で俺を見て欲しい。
もし俺が最後の人押しを出来たらどれだけ最高なのだろう……。
そう思っていたのに───。
直は俺の知らない所で亡くなってしまった。
まだ俺は、直の心が折れる瞬間を見ていないのに……こんな現実を俺は受け止められるわけがないだろ!
なによりも、あの純粋な瞳が俺を映す事はもう二度となくなってしまったのだ。
そして俺は気がついた。
俺の世界は、全て直で成り立っていたのではないかと───。
そう思った瞬間、俺の胸に大きな穴がポッカリと空いている気がした。
それだけなのに苦しくて、俺は心の中で叫んでいた。
くそっ……!
俺はこんな感情、知らねぇ!
こんな気持ち感じた事がねぇのに……。
直の事を考えるだけで、胸がはち切れそうになるぐらい苦しくなるなんて……これは一体何なんだよ!?
本気でその感情が理解できなかった俺は、数日間悩んでもその答えを出せずにいた。
それに誰かに相談しようにも、俺にはその事を相談する相手もいない。
だから俺は仕方なくそれをネットで調べて見る事にしたのだ。
そして出てきた結果に、俺は唖然とした。
何度調べたり検索方法を変えても、必ずそれは『恋』だと出てくるのだ。
まさか俺は直ばかり見ているうちに、直の事が好きになってしまったとでもいうのだろうか。
───そんな事、絶対にありえねぇだろ!
どうしてもその事を認めたくなかった俺は、次の日から何も考えられなくなる程多くの仕事を入れる事にした。
マネージャーに聞いた話だと光と夜も、俺と同じように一応仕事に復帰をしたようだった。
しかし優だけは精神的ダメージが大きかったのか、葬式が終わった後から部屋に引きこもってしまったのだ。
そんな優の姿に光は凄く心配そうだった。
光は優と一番仲がよかったから、気になるのは仕方がないかもしれない。
その為、優が引きこもってから毎日のように光はリビングで、俺と夜に向けて同じ事を聞いてきたのだ。
「優君、大丈夫かな……?」
「そんなに心配しなくても、アイツならそのうち立ち直ってくれるさ」
「そうなのかな……何だか俺は、光の言う通り嫌な予感がするけど……」
「夜までそんな事言うなって、きっと大丈夫だからさ。もう少し傷が癒えるまで見守ってやろうぜ」
そう言って、この時はどうにか2人を励ました。
それなのに───。
数日後、今度は優が亡くなった。
しかもこの寮の中で……第一発見者は光だった。
そのせいで今度は光が病んでしまった。
もちろん、光は仕事を休む事になったのだ。
テレビではこの奇怪な自殺は精神的な物なのか、風間直の呪いなのでは? というありもしない憶測が飛び交っていた。
そのせいで俺と夜に入ってくる仕事は、亡くなった二人の事について語る感動ドキュメンタリーや、霊障現象の番組が増えていた。
……今はまだ仕事があるからいい。だけど今のままだと、C*Fは完全に忘れ去られてこのまま消えてしまうかもしれない。
そう思った俺は今後について、一度夜と話し合いをする事にした。
それなのに、いつの間にか夜は仕事の話ではなくて優の事について話始めたのだ。
「あの……そういえばさ、元は優が亡くなっていた時の部屋って……確認したかな?」
本当なら話を戻さないといけないのに、俺は何故かその話が凄く気になり食いついてしまう。
「いや、俺は見ていないが……夜は見たのか?」
「俺は泣きじゃくる光に呼び起こされて、優が本当に死んでるのか確認したから……」
「そうだったのか……」
俺は優が亡くなった日も仕事をしていた為、その時の様子を全く知らなかった。
「優が倒れ込むように亡くなっていた所には、祭壇みたいな物が作られていたんだ……。俺はそれを見て気がついた事があるんだけど、優は自分を生贄にして何かをしようとしたんじゃないかな?」
「自分を生贄にして……?」
「いきなりこんな話をしても信じられないよね。だけど元も知っての通り、俺はオカルト的な物が好きだからわかるんだけど……もしかすると優は、直と一緒に時をやり直そうとしたのかもしれない。根拠としては弱いかもしれないけど、あの祭壇の上にはこの写真が飾られていたから……あっ……」
夜は慌てたのか、手帳を取り出そうとして写真ごと床に落としてしまった。
しかもその手帳からは、沢山の写真が飛び出しているのが見えていた。だから俺はそれを拾ってやろうとしたのに、夜は大声で叫んだのだ。
「その手帳に触れないで! あ……ご、ごめん。これは俺が拾うから、元は少し待ってて……」
「え……? お、おう」
必死に写真を拾い集める夜に少し驚きながら、俺はチラリとその写真を見てしまう。
どうやらそれは、直の子役時代の写真のようだった。
そういえば夜は子役時代から直の大ファンだったような……?
それを今でも大事に持ってるのに、直が亡くなった事に一番ショックを受けてないように見えるのはどういう事なのだろうか。
そう不思議に思っていると夜は全て拾い終えたのか、俺に一枚の写真を渡してきたのだ。
「ごめん、お待たせ……これが祭壇に置いてあった写真だよ」
写真を受け取った俺は、それを確認する。
そこには子供の頃の優と直が写っていた。
「もしかしたら優は、子供の頃に戻りたくてこの祭壇を作ったんだと思うのだけど……でも俺が見た感じだけど、あれは失敗していたかもしれない」
「は……?」
自分を犠牲にしてまで時を戻ろうとしたのに、失敗したなんてそんな笑えない話があるかよ。
「だけどさ……もしかしたら成功してる可能性もあるんだ。だって時戻りなんて、実際に戻った人にしか成功したかどうかはわからないからね。だから俺は失敗してると思ったんだけど、実は成功してるかもしれない……」
「いや、待ってくれよ。その前に、本当に時を戻るなんてできるのかよ? 俺には全く信じられねぇんだけど……」
「元の言う通り、それは確実とは言えないよ……でも、実際にそういう経験談の書かれた本もあるから、ありえ無いとも言いきれないんだよね……。だから、一度でいいから試してみたくなる気持ちは俺にもわかるよ」
「確かに、そうかもな……」
いつのまにか俺は時を戻るなんてありえないと思っていた筈なのに、夜の話を聞いているうちに本当にそれが出来るかもしれないと思い初めてしまったのだ。
なにより今の俺は精神的に疲れきってしまい、冷静な判断ができなくなっていた。
きっと俺も優と同じで、直のいない世界に耐えられなくなってるのかもしれねぇな……。
そう思ってしまった俺は、時戻りの事を詳しく夜に聞いてしまったのだ。
「なあ、もし複数人で時戻りを使ったとしたら皆違う世界線へと行くのか?」
「そうかもしれない……でも俺達のいる世界にいた直と一緒の時に戻れるのは、ただ一人だけだと思う。きっとそれは早い者勝ちになるんじゃないかな?」
「早い者勝ち……」
夜の言ってる事が本当なら、俺が一番最初に直と一緒に時をやり直せばいい。
そう思ってしまった俺は直と再び会う為、誰よりも早く時戻しをする事に決めたのだ。
その後、俺はその祭壇がどんな物だったのか覚えている範囲でいいからと、夜に詳しく聞いていた。
そして翌日、夜から聞いた話をもとに優と同じ祭壇を事細かにネットで調べあげた俺は、すぐに準備を整えていた。
───俺は、決して優のようなヘマはしない。
その為に行程が間違っていないか何度も確認したし、絶対に大丈夫だ……。
もうこの時の俺は、C*Fや残されるメンバーの事よりも直の事で頭がいっぱいで、完全に精神状態はおかしくなっていた。
もし本当に時を一緒にやり直せるのなら、今度は素直にこの気持ちを直へと伝えたい。
そして今度こそ、直と一緒にC*Fをこの国1番のアイドルに───。
そう思いながら、俺は祭壇に自分の命を捧げたのだった。
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