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光と俺
44、時を遡る前3(光視点)
やり直す前の世界で、光がどうなったのか。
光視点でお届けします。
─── ─── ─── ───
僕が直君の死を知ったのは、ムシャクシャして一人でやけ食いしているときだった。
最初はあんな奴いなくなってせいせいしたと思っていたのに、気がつけば僕の目からは涙が溢れはじめていた。
「っ、あれ……おかしいな。なんで───?」
僕はこれが現実である事を受け入れたくなくて、嗚咽を零していた。そして何故か直君に出会ってから今までの事を思い出して、涙が止まらなくなってしまったのだ。
だって子供の頃からずっと、直君は僕の憧れだったから……最近はその事すら忘れようとしていたのに、まさかこんなふうに思い出してしまうなんて───。
僕が初めて直君を見たのは、小学生になったばかりの頃だった。
あの頃は直君が出ているドラマのダンスが流行っていて、僕もお母さんと一緒にテレビを見ながら踊っていた事を覚えている。
でも僕はそのダンスよりも、その時に見た直君の眩しいほどの輝く笑顔に、一目で惹かれてしまったのだ。
きっとそれは、僕が生まれて初めて感じた憧れという感情だったのかもしれない……。
こうして直君に衝撃を受けた僕は、すぐに同じ世界へと飛び込む事を決めたのだ。
僕には直君のような才能なんてなかったけど、直君の横に立ちたい。ただその気持ちだけで死に物狂いで努力した。
その結果、僕はついに直君と同じアイドルグループに所属できる事が決まったのだ。
だけどそこで初めて会った直君は、僕の事なんて全く見てくれなかった。
下に見られるのは、直君とキャリアが違うのだから仕方がないと思っていた。だから直君に認められるようにひたすら頑張った。
そして数年かけて僕は、ようやく直君と並ぶぐらいの実力をつけた。それなのに直君は……弟である優君の事ばかり構って、僕の事なんて全くその目には映してくれなかったんだ。
僕はその事が悔しくて、辛くて……直君と同じ空間にいるだけで、自分が惨めに感じるようになっていた。しかしそんな日々に耐えきれなった僕は、こんな気持ちになるのは全て直君のせいだと決めつけたのだ。
こうして僕は直君を恨みはじめ、その性格は当たり前のように少しずつ歪んでいった。
そしてその頃、僕にとって嫉妬の対象だった優君が、何故か直君と距離を置きたがっているのを偶然知ってしまった。
その理由はわからなかったけど、意気投合した僕たちは互いの目的の為に手を組んだのだ。
それからと言うもの、僕は直君に見せつけるように優君と仲良くするようになった。
それでも上辺だけ仲が良かった僕達は、ご飯さえも一緒に食べに行った事なんてない。だけど優君と仲良くしている間だけは、直君がその瞳で僕という存在を認識してくれる。
それだけなのに、僕はゾクゾクとした得体の知れない喜びを感じていた。
どうしてかな……?
僕は直君を憎んでいる筈なのに、直君がいなくなればこんなにも苦しまなくていいとわかっているのに……僕はこの高揚感を手放したくなかった。
しかもこの時の僕は直君に冷たく当たれば当たるほど、直君が僕の事を見てくれる事に気がついてしまったのだ。
そういえば、直君のスクープが週刊誌に載るようになったのも丁度その頃だった。
僕にとってその話は悪い物ではなかった。
だってそれをダシにすれば、直君は簡単に視線を僕に向けてくれる。そして最近は、直君の綺麗な顔が少し悲しげに歪む姿を見る事が、僕にとって一番の幸せになっていたのだ。
だけど、僕は気がついてしまった。
こんな事しても全くなんの意味もない事に……。
だってやっと僕を見てくれたと思った直君は、僕の外面しか見てなかったのだ。
しかもその事に気がついたのは、今日の事があったからだ。
実はここ数年、僕は直君に嫌味を言う為に隣で食事をしている事が多かった。もちろん、好物の辛い物だって目の前でよく食べていた。その筈なのに、今日の直君ときたら僕に向けて嫌いな食べ物を進めてきたのだ……。
確かに、直君がインタビューを読んでいた事は少し嬉しかった。でもこんなに近くにいる僕よりも嘘ばかり書かれている記事を信じるのかと、何故か僕は勝手にショックを受けてしまったのだ。
本当は僕がそう思う事自体、おかしな事なのかもしれない。
だって僕は、今まで本当に好きな食べ物について誰かに話した事なんてない、つまりメンバーにも言ってないのだ。
だから僕が横で食事をとっていたとしても、直君が知らなくて当然な事なのに……。
それなのにこの時の僕は、何故か直君にだけは僕の事を少しでも知っていて欲しい、もっともっと僕の内面を理解して欲しいなんて、そう思ってしまったのだ。
だから僕はメンバー全員が僕の好物を知っていて当然のように煽りながら、さり気なく直君に僕の好きな物を教えていた。
……でも、どうして僕は直君に好きな食べ物を知って欲しいと思ったんだろう?
もしかして本当は直君に辛い物を食べに行こうと誘って欲しいなんて、何処かにそんな願望があったからじゃないの───?
ううん、そんなわけがない!
僕がちょっかいをかけるのは、直君の苦しむ姿を見たいからであって仲良くなりたいわけじゃないんだよ……?
それにあの人がいなくなった今、僕はもう苦しまなくてすむ筈なんだ。だからこれからは、直君の事は忘れて幸せになればいい。
頭ではそう思ってる筈なのに、どうして? 何でこの涙は止まってくれないのかな…………?
その気持ちに整理がつかないまま時間だけが過ぎていき、気がつけば直君の葬式はあっさりと終わっていた。
涙が枯れるまで泣きじゃくっていた僕はメンバーと喋るどころか、皆がどんな顔をしていたのかさえも見る事が出来なかった。
もしかしたら誰か1人ぐらいは話しかけてくれたのかもしれない。でも僕はショックのあまり、その時何をしていたのか全く思い出せなかったのだ。
なんだか胸にポッカリと穴が空いた気分だし、僕はもう何もしたくない───。
葬式が終わってからというもの、僕はベッドの上でぼーっとするだけの日々を過ごしていた。
でも、僕がやる気なくダラダラと過ごすようになってしまったのは、全て直君のせいだった。
だって僕は直君に憧れて芸能界に入り、直君に追いつく為に努力した。直君に僕を見て欲しくてついに直君を追い越した僕は、気がつけばトップアイドルへと上り詰めていたのだ。
そうだ。
僕にとって直君は生きるための道標だった。
直君がいなくなった今、僕は今後の目標を完全に見失ってしまったのだ。
そのせいで精神的に落ち込んでしまった僕は、優君と同じように暫く仕事を休もうか悩んでいた。
でもその前に僕は久しぶりに優君と話がしたかったのだけど……その願いはもう叶う事はない。
何故ならその日、僕は優君が亡くなったという知らせをマネージャーから受けたのだから……。
その事が公式に発表されてすぐ、誰もが優君は直君を追ったのではないかと噂した。
だけど僕にはその話が到底信じられなくて、ただ優君の死に呆然としてしまったのだ。
それからというもの僕は本格的に何も手につけられなくなってしまい、強制的に暫く休むようにとマネージャーから言い渡されたのだった。
こうして部屋にこもる事を余儀なくされた僕は、ただベッドで横になっていた。
本当はもう何も考えたくないのに、僕は胸に空いた心の隙間の正体が気になってしまい、その事ばかり考えてしまう。
しかし不思議な事にその気持ちを考えれば考える程、何故か僕は今すぐに直君に会いたい気持ちを抑えられなくなっていった。
そして僕は、胸の内に隠していた本当の気持ちに気がついてしまったのだ。
……ああ、そっか。
僕はずっと直君に振り向いてほしかった。
僕をあのキラキラ輝く瞳で見てほしかった。
それは僕が直君を憧れの人として見ていたからじゃない。
僕が直君の事を……好きだったからだ。
その気持ちに気がついた僕は、絶望した。
もし自分の気持ちをもっと早く理解していれば、もしかしたらこんな事にはなっていなかったかもしれないのに……。
だけど、もう遅い。
直君はもう、死んでしまったんだ。
それからの僕は、絶望の中で直君の記憶を思い起こしては涙するだけの日々を過ごしていた。
そんなある日の事、僕のところに夜君がやってきて言ったのだ。
「昨日、元が亡くなった……」
その話を聞いた僕はパニックになりそうだった。
「え、何で! どうして!?」
「光、少し落ち着いて……」
「ご、ごめん……でも、どうして元君まで?」
「えっと、それは俺にもよくわからない……。でもね、不思議なことにどうやら二人とも全く同じ亡くなり方をしたみたいで、奇妙な祭壇に体を預けるように倒れてたみたいなんだ……」
「祭壇?」
「俺も少し調べてみたんだけど、どうやらあの祭壇には世界をやり直す奇跡の力があるらしいよ。でもこれはあまりにも突拍子のない話だし……この話を信じるか信じないかは、光が決めたらいいと思う。それにしても、2人はそこまでしてやり直したい事があったのかな……?」
「やり直したい事……?」
普段の僕ならそんな魔法みたいな話、絶対に信じられなかっただろう。だけど今の僕の頭は何もない空っぽで、まともな判断力すら残っていなかった。
何より僕は、優君と元君が僕を差し置いて直君のいる過去へとやり直したんじゃないのかと……その事ばかり気になって仕方がなかったのだ。
それに僕は、今まで二人を近くで見てきてなんとなく気がついていた。優君と元君が直君を嫌いなフリして、本当は特別な感情を持っている事に……。
そらなら僕だって───。
「もしも、やり直せるなら……」
「光?」
「あ、ごめん。少し考え事をしてたみたい。夜君、今日は励ましてくれてありがとう。凄く助かっちゃった」
「う、うん……光が少しでも元気になれたならよかったよ。何かあったら、また連絡してね」
「わかった。それじゃあね……バイバイ、夜君」
そう言って走り出した僕は、すぐにその噂の儀式を調べはじめたのだった。
そして一週間後、僕はその祭壇を完全に再現する事に成功した。
偶然か必然か、何故か祭壇に関するホームページを見つけたりQ&Aが親切だったりと、僕がそれに疑問を持つ時間もないぐらい何もかもが順調に進んでいったのだ。
こうして僕は何かに駆り立てられるように祭壇に祈りを捧げ、自らの命を絶っていた。
だって先に戻っているあの二人よりも早く、直君を僕のモノにしなくてはと焦ってしまったのだから。
でも二人が何をしようが関係ない。
本当にもう一度やり直せられるのなら、今度こそ直君にこの気持ちを伝えたい。
それさえできれば、僕はそれでいいんだ……。
そう思いながら、僕の意識はゆっくりと暗闇の中へと落ちていったのだった。
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