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光と俺
43、一緒にお風呂(前半)
光が俺を好きだと知ったのは今日の今日だ。
それなのに、光はどんな気持ちで俺と一緒にお風呂に入りたいと言ってきたんだ……?
唖然としてしまい何も言えない俺を見て、光は更に怖い事を笑顔で言ってきたのだ。
「それに僕、前に言ったよね? 約束破ったら何するかわからないって……。だけどさ、矛盾してるって言われるかもしれないけど、僕は直ちゃんの事を大切にしたいと思ってるのも事実なんだよ。だから直ちゃんには僕が何かする前に、ちゃんと約束を守って欲しいんだ~」
光は笑顔なのに、その目は笑っていない気がして俺は固まってしまう。
だってその顔は、やり直す前の光によく似ていたのだから……。
そのせいで怖気付いた俺は、光を怒らせたくなくて変に言い訳をしてしまったのだ。
「……べ、別に俺は光とお風呂に入るのが嫌な訳じゃないんだ。今は告白されたばかりだから少し驚いてるだけで……」
「あー、そっか。確かに好意を寄せてる僕と裸の付き合いをするなんて、直ちゃんが不安になるのは仕方がない事なのにね……。僕ったら、自分勝手で本当にごめん!」
光は先程までのあの怖い表情なんて無かった事のように、今は申し訳なさそうな顔をして瞳をウルウルとさせていた。
その姿を見て、どうやら光を怒らせたわけじゃないようだと、俺はホッとしてしまう。
それに申し訳ないと思ってくれている光なら、今断っても許してくれるかもしれない。そう期待を込めて、俺は光に今日はやめようとハッキリと言おうとした。
「うん、そう言うわけだから今日は……」
それなのに俺の言葉は、素早く光に遮られてしまったのだ。
「でもでも! 僕は絶対直ちゃんに何もしないって誓うから、お願いだから今日は一緒にお風呂に入ってよ~。だめかなぁ~?」
「……っ!」
うぅ……出たな、光の子犬のような瞳。
最近気がついたのだけど、どうやら俺はウルウルした瞳に見つめらるのに凄く弱いらしい。
そして今の俺が断れない事に、きっと光も気がついてるような気がするのだ。
だから惑わされるな……!
「ねぇ……直ちゃん、お願い~!」
惑わされるな、惑わされたら駄目なのに……。
「絶対変な事しないから、ダメぇ~?」
惑わされ……ぐぬぬ。
もう、こんな子犬のような瞳はずるいって!?
そんなわけで、俺の決意は早くも2秒で砕かれたのだった。
「………………はぁ、わかったよ。本当にお風呂に入るだけならいいけど?」
「本当!? 逃げたりしない?」
「光が変な事しないならね」
「……絶対しないって約束する! だから一緒に入ってね!!」
「わかった、わかったから落ち着いて……って、ちょっと!」
光は興奮して俺の手をブンブンと上下に振る。
その力が強すぎるせいでバランスを崩した俺は、気がつけば光の胸の中にダイブしていた。
しかし光はそんな俺の体を簡単に受け止め、空いている方の腕を俺の腰に回すと、嬉しそうにギュと抱き締めてきたのだ。
「直ちゃん、ありがとう! 僕、この時間だけでも直ちゃんを独占できると思うと凄く嬉しい」
「……え、独占?」
「うん、だって他の人に邪魔されない時間って凄く大事な事だからね~。それじゃあ、直ちゃんの気が変わらないうちに早くお風呂に行こう!」
「わ、わかったから手を引っ張るなよ!」
こうして俺は嬉しそうな光に手を握られたまま、風呂場へと足を向けたのだった。
しかも、何故かこういう時に限って俺達は優や元に会う事もなく、まっすぐ目的地へと辿り着いてしまったのだ。
何故だろう、その事に少しだけガッカリしている自分がいた。
別に俺は2人に会いたかったわけじゃない。でも二人なら光の邪魔をしに来てくれるんじゃないかと、俺は少しだけ期待していたのだ。
それなのにアイツらときたら、俺が必要としてる時に限って現れてはくれないらしい。
そんなわけで俺は今、光と一緒にお風呂に入っている。
ここのお風呂はどう見ても一人用だ。確かに光が言っていたように少し大きめかもしれないけど、流石に二人で入るには少し狭いので体をくっつけないと入れない。
だから肌が触れ合うのは仕方がないというのは、俺にだってわかっている。だけど流石に今の体勢が理解できない俺は、ついつい口を開いてしまったのだ。
「……あのさ、浴槽が狭いからくっつくのは仕方がないけど、なんで俺は後ろから抱きしめられてるのかな?」
「だって直ちゃんの体を見てたら、僕が何するかわかんないでしょ。だからこの方が直ちゃんも安心できるかなと思ったんだ」
「そ、そっか。確かにそうかもしれないけど……」
ごめんよ、光。そう言われても俺は全然安心できてないんだ。
それでも龍二の時とは違って光と触れ合っても全く嫌悪感がないのだから、まだマシと言えるのかもしれない。
「むー。なんかそれって逆に考えたら、直ちゃんが僕の事全く意識してないって事にならない?」
「え? いや、それは仕方がないよ……光はどちらかといえば弟っぽいし、それに何で俺を好きになったのかも全然検討がつかないんだけど……?」
「もう、弟は優君だけで充分でしょ? だから僕を弟として見るのはヤメテほしいんたけど~。それにさ、僕が直ちゃんを好きになった理由を知りたいって事は……直ちゃんも、僕の事を少しでも気にしてくれてるの?」
「そ、それは───」
光が俺を好きになった理由が気にならないと言えば、それは嘘になる。
でもこれ以上踏み込むのは、きっとダメな気がするんだよね……。
だから俺は、すぐにでも否定しようとした。
「いや、別に聞きたくないけど……」
「ダ~メ。僕にここまで言わせたんだから、ちゃんと最後まで聞いて欲しいんだけど?」
そう言いながら光は、俺を抱きしめる腕に力を込めた。
「ひ、光! く、苦しいんだけど……!?」
「ごめんね直ちゃん。僕どうしても直ちゃんに聞いて欲しくて力が入っちゃった。だからこれは簡単に緩められないかも~」
「こら、流石に苦しいって光っ! わかった、わかったから。光の話をちゃんと聞くから、お願いだから力を緩めてくれよ!?」
苦しくて涙目で訴える俺の言葉に光は納得してくれたのか、腕の力を緩めると凄く楽しそうに話始めたのだ。
「じゃあ、最初から話すけど……実を言うと僕、初めて会ったときから直ちゃんの事がずっと気になってたんだ~。でもね、それは憧れの人が目の前に現れたからだとずっと思ってたんだよ?」
「待った! つまり光は、憧れの人ってだけであんなにもスキンシップが激しかったのか?」
「うん、僕はただ憧れの人と色んな事したいと思っただけだけで、あの時の行動にたいした意味なんてなかった筈なんだ~。でもよくよく考えると抱きしめたりキスしたいと思うのは、流石におかしかったかもね。だけどさ、今の僕ならそれは直ちゃんが相手だったからだってわかるんだ~。もしかしたら僕は直ちゃんに一目惚れしてたのかもしれない……」
確かに出会ったその日にハグしたり、キスしたりするなんて変わってるなとは思っていた。
でもあの時の光は、別に俺を騙そうとしていた訳じゃない筈だ。それに演技の練習とはいえ、光としてしまった事を思い出すと凄く恥ずかしくて、俺はその話を掘り返されたくなかった。
だから俺は、少し話を逸らしてしまったのだ。
「あのさ……もしかして光が俺の事が好きだと気付いたのって、最近だったりする?」
「うん。今日だよ」
「きょ、今日!!?」
光は今日俺を好きだと気がついたのに、今日俺に好きな事をポロっと溢したって事なのか……?
「直ちゃんが驚くのも仕方がないよ~。僕だって今日、言うつもりはなかったんだもん。でも直ちゃんが二人に言い寄られる姿を見たらさ、何んだか耐えられかったんだよねぇ……。なにより今日、あんなふうに直ちゃんと遊園地に行けてなかったら、僕はこの気持ちには気付けなかったと思うんだ。だって一緒に過ごしてわかったけど、直ちゃんって僕の求めていた理想の相手そのものだったんだよ……?」
俺はその発言をなかなか理解できなくて、一瞬固まってしまったのだ。
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