45 / 57
光と俺
43、一緒にお風呂(後半)
───理想の相手って、何の?
後ろから抱きしめられたままの俺には光がどんな表情をしてるのか、何を思っているのか全くわからない。
だから思考が完全に止まっていた俺は、つい光に聞き返してしまったのだ。
「えーっと、それは光が恋人にしたい理想の相手ってこと……?」
「うーん、恋人限定って訳でもないかな~。だって直ちゃんの良い所をあげたらキリがないんだもん。例えば、性格が素直だから揶揄うとすぐに照れちゃうのが凄く可愛いし、そばにいると落ち着くからずっと離れたくなくなるんだよね。何より直ちゃんは凄く優しいからさ、僕を否定しなかったし……それに僕自身をちゃんと見てくれてたでしょ? きっと何処を探してもこんな素敵な人、直ちゃん以外は現れないと思うんだよね~」
こ、これは…………本当に俺の話なのか?
だって俺はこの寮に来てから、いつも光の本性に怯えて猫を被っていた訳で……きっと俺の内面は光の理想からかけ離れてる気がするのだ。
「いやいや、俺はそんな出来た人間じゃないし全然当てはまらないと思うんだけど……」
「そんな事ない! だって直ちゃんは僕の好き嫌いをすぐに見破ったんだよ? そんなの僕、初めてだったんだから!」
そう言われても困ってしまう。
だってあれは、やり直す前の光が俺を傷つける為に教えてくれた事であって、俺が知りたくて知ったわけじゃない。
だからその事で俺の評価を上げられても困るだけなんだよね……。
「あのさ……昼の時にも言ったと思うけど、俺が光の好物を知ってるのは他のメンバーに聞いただけで、別に俺が見破ったわけじゃないから……」
「直ちゃん、それは嘘だよね?」
「っえ? い、いや別にこれば嘘なんかじゃ……」
「嘘だよ! 他のメンバーは僕に興味なんてないから、本当に好きな物なんて知らないんだもん。だからさ、直ちゃんがあの3人から僕の好物について教えてもらえる訳がないんだよ?」
「…………え?」
───誰も知らないって、どういう事?
だって二年後の光は、確か他のメンバーなら知ってて当然って…………あれ? でもあの時の光は、他のメンバーがそれを知ってるとは一言も言ってなかった気がする。
それならあの時の光は大嫌いな俺へと嫌味を言う為に、ずっと秘密にしていた事を教えたというのだろうか。
一体なんの為に───?
しかしそれを考えたところで、あの時の光の気持ちを知る術はない。
なにより今の俺は目の前にいる光へ言い訳を考えなくてはいけなくて、その事を気にしてる余裕なんてなかった。
「ご、ごめん光。俺は別にお前を騙そうとした訳じゃなくて……」
「ううん、僕としてはそんな事はどうでもいいんだよ。だって僕は直ちゃんが嘘をついた事を責めてるわけじゃないんだもん。それに直ちゃんの事だからさ、僕が演技をして嫌いな物を無理矢理食べてた事に気が付いてたんでしょ? しかも、その事をそのまま伝えたら僕が傷つくとでも思ったんだよね?」
よくわからないが光が勝手に納得してくれたようなので、俺は全力でそれに乗っかる事にした。
「う、うん……実はそうなんだ」
「ふふ、やっぱりそうだよね!」
凄く嬉しそうな光の声に、俺は少しだけ胸がズキリと痛くなってしまう。
俺はそれを誤魔化したくて、話を逸らしていた。
「で、でもその事が俺を好きになった話に関係するのか……?」
「関係大アリだよ~。だって僕が一番嬉しかったのは、直ちゃんがその事を知っても僕を変だと言わなかった事なんだから! 僕にはそんな直ちゃんが凄く眩しくて、今まで誰にも心を開きたいと思った事なんて無かったのに、直ちゃんには僕の全てを知って欲しいって思ったんだよ。だから僕の心がどれだけ醜くても、直ちゃんは全てを受け止めてくれるよね……?」
そう言うと光は、指と指が絡むようにスルリと俺の手を握ってきたのだ。
その事に驚いた俺は光の方へ振り向いて固まってしまう。そこには愛おしそうに俺を見つめる瞳があったのだ。
早く目を逸らさないと……そう思うのに、何故だか俺は甘く溶けしまいそうなその瞳に吸い込まれ、ただ魅入ってしまう。
……光の瞳、凄く綺麗だ。黒目の中に鮮やかな水色が散ってる事なんて、初めて知ったかも。
その瞳に見惚れてしまった俺は、光の事をまた一つ知れた事に少し嬉しく思っていた。
しかし、いつの間にかその顔が徐々に近づいている事に気がついた俺は、驚いて光の名前を呼ぼうとした。
「ひ、ひか……んっ」
しかし俺の言葉は最後まで言えなかった。
俺の唇は光に奪われてしまったのだから……。
「んっ!? んん~~~!」
一応抵抗しようとしたのに気がつけば光の舌に翻弄されてしまった俺は、そういえば光はキスが上手かったなと頭の片隅で思ったのを最後に、何も考えられなくなってしまったのだ。
俺にはそのキスが長かったのか短かったのかわからない。でも気がついたときには、光の唇がゆっくりと離れていくのがわかった。
俺はその事に安堵して光を見つめたのに、俺の顔を見た光は「その顔は卑怯だよ」と、再びキスをしてきたのだった。
その後、何度もキスを繰り返した光はようやく落ち着いたのか、唇を離した後は凄く嬉しそうにニコニコと微笑んでいた。
しかし今起きた事を少しずつ実感しはじめた俺は、光と何度も唇を重ねた事の恥ずかしさに顔が熱くなってしまい、顔を逸らしてしまう。
しかし光はそんな俺を見てクスリと笑うと、改めて俺抱きしめ直し耳元で囁いたのだ。
「ねぇ、直ちゃん。僕、本気で直ちゃんの事が好きだよ。だからこれからは僕の全てを使って直ちゃんを落としにいくから……覚悟しててよね?」
「う、うん…………えっ!?」
「あー、でも今ので直ちゃんに手を出さないって約束破っちゃったよ~。まあ、本当は最初からそんな約束守るつもり無かったし、仕方がないよね?」
「……は?」
「見ての通り、僕って凄く嘘つきでもあるんだよ。だから直ちゃんにはそんな僕も知って欲しくて、今日はこんな強引な方法をとったんだ。ごめんね?」
「え、じゃあ。何もしないってのは嘘なの?」
それならこの状況、凄くまずいのでは……?
危機感を覚えた俺は光の腕から逃げ出そうと力を込めたのに、その腕はびくともしない。
「もう、そんな警戒しないでよ~。確かに僕は嘘つきだけどさ、直ちゃんを大切にしたいって気持ちもあるんだよ。だから本当は、肌がピンク色に染まってる可愛い直ちゃんをもっと見ていたかったんだけど……流石にこれ以上は耐えられそうにないから、残念だけど僕は先に出る事にするね~」
光は唖然とする俺を置いたまま勢いよく浴槽から出ると、背を向けたまま「お休み~」と手を振って風呂場から去っていったのだ。
その姿を見送った俺は、気がつけばポツリと言葉を溢していた。
「いや、俺が好きとか言われても……」
それは光だけの話じゃない。
普通に考えたら、メンバーの4人中3人が俺を好きだなんて絶対におかしいのだ。
ただでさえ男同士という事だけでも信じがたいのに、俺を好いてると言ったのがあの3人だなんて嘘だと思いたい……実は3人で揶揄ってるわけじゃないよな?
俺がこんなに疑心暗鬼になるのも仕方がない事だろう。だってやり直す前の世界で優、元、光の3人は俺の事を間違いなく嫌っていたのだ。
だから俺は前みたいに失敗しないようにと、少しだけでも仲良くなりたかっただけなのに───。
どうしたら、こんな事になるんだよ!??
今の俺は、頭の中がグチャグチャで何も考えたくなかった。
それに誰にも会いたくなかった俺は浴槽から出たくなくて、気がつけばのぼせるまでお湯に浸かってしまったのだった。
あなたにおすすめの小説
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)