54 / 57
俺と夜
51、社長室にて
俺が今後の事を勝手に妄想して青ざめてる間に、記者会見についての話し合いは順調に進んでいた。
「私は記者会見をするのなら、出来るだけ早い方が良いと思っているんだよ」
「って事は明日中には、って感じですか?」
「そうだね……夕方には出来るよう手配したいと考えているのだけれど、君達のスケジュールは大丈夫そうかい?」
3人は顔を見合わせると、すぐに携帯や手帳を見て予定を確認し始めた。
そして間住さんへと、最初に答えを返したのは優だった。
「俺は明日オフなので、いつでもいいです」
「そうか、休みだったのにすまないね……」
「いえ、直の為なら休みなんて必要ありません」
「はは、そうか。優は兄想いの良い弟のようだね」
間住さんは俺達が仲のいい兄弟なのだと思ったのか、嬉しそうに微笑んでいた。
だけど優からそれ以上の感情が見えるような気がした俺は、これ以上深く聞かれない事を祈ってしまう。
そんな俺の思いが通じたのか予定を確認していた光が、2人の話に割って入ったのだ。
「はいはーい! 僕の予定だけど明日は20時に元君とラジオがあるよ?」
「俺も明日の仕事はそれだけだぜ。それにしても今週の担当が俺達って事、優はちゃんと知ってたんだろうな?」
悪びれもせずに首を振る優の姿に、元はため息をつく。
そんな2人を見ていた間住さんは、微笑ましいモノを見るような目をしながらその番組名を言った。
「クロノスの毎回違うメンバーが二人でお届けする番組『Magical Time』。私もたまに聞いているけど、確かそのラジオは生放送だったよね?」
「うん、生放送だよ。でも放送時間は夜だから、会見後でも間に合うとは思うけど……」
「それなら、このビルで収録できるようにすればいいだけの話だよ。私の方から局と話しをつけて機材と人材はこちらで手配しよう」
なんか、俺がいなくてもサクサク話し合いが進んでいくけど……この場所に俺は必要なのかな?
そう思いながらも俺は落ち着いて話し合う3人の姿を見て、こんなにも不安になってるのは俺だけのようだと少しだけホッとしてしまう。
だからこそ後ろ向きな妄想をしてしまった事が申し訳なくて、俺はそれを頭から完全に追いやる為に首を振る。
しかもブンブンと大袈裟に首を動かしたせいで、俺が入り口にいる事を間住さんに気づかれてしまったのだ。
「おや、どうやら直も来てくれたようだね。夜、直を呼んできてくれてありがとう」
「い、いえ……俺にはそれぐらいしかできないですから……」
社長に椅子へ座るように促された俺達は、唯一空いていた社長の横隣に夜と並んで座る。
そんな俺達の向かいには、何故か顔をムッとさせている3人が座っていた。
「それでは全員集まった所で、明日の話をしよう。直には話したと思うのだけど、3人には暫くの間このビルで過ごしてもらう予定だよ。でもね、夜だけは普通に仕事をさせるつもりなんだ。だから直には夜の送り迎えをして欲しい。スキャンダルの事で記者に囲まれるかもしれないが、出来るだけ夜を守ってやってくれないかい?」
「……は、はい。わかりました、夜の事は俺に任せて下さい!」
俺が出来る事は少ない。だから頼まれた事ぐらいはしっかり頑張ろう。
そう思って胸をドンと叩く。
夜はそんな俺の姿に感動したのか、何故か嬉しそうに腕を広げた。
「直……俺のために、ありがとう!」
そして気がつけば、俺は夜に抱きしめられていたのだ。
「ちょ、ちょっと夜!? いや、これぐらいマネージャーとして当たり前の事だし、気にしなくていいから。そ、それよりもそんな強く抱きしめられたら苦しいってば……!」
「ご、ごめん……」
謝る声は弱々しいのに、夜は腕の力を緩めただけで俺を離すつもりはないようだった。
しかし、抱きしめられている俺の姿をよく思ってない3人が、さっきから夜を睨んでいる事に俺は気づいていた。
俺はその視線に、何故か胸がモヤモヤしてしまったのだ。
なんだろ、この感情……。
俺は誰とも付き合ってない。それなのにどうして浮気現場を見られたような、そんな罪悪感が湧くんだろう…………もしかして俺、この中の誰かを意識してるのか───?
そう思った途端、俺の胸がドクンと跳ねた。
え? 嘘だよね……俺が、この3人の誰かを好きなんて……。
ありえないと思いつつも、その視線に耐えられなくなった俺は夜を無理矢理引き剥がしてしまう。
「夜、ごめん……これだと話し合いが出来ないから、今は離れてほしい!」
「あっ…………俺、皆がいるのに……。直、ごめんね……」
シュンとしてしまった夜を見てハッと冷静になった俺は、きっとモヤモヤしたのも3人に告白されて変に意識したのが原因に違いないと結論付けて、頭の片隅へと追いやってしまう。
そして夜を引き剥がしたせいでなんだか気まずい空気になってしまったので、俺は話題を変えようとずっと気になっていた事を聞いてみる事にしたのだ。
「コホンっ……。あのー、さっきチラリと聞こえたんですけど 記者会見をするってのはどういう事ですか……?」
「ああ、今回の記事は3人一緒に抜かれたうえに、直を女性に見えるよう修正までするという、ある種とても悪質なモノと言えるだろう。だから記者会見を開いて今回の記事は作られたデマだと、内容を全面的に否定するんだよ。そしてそのついでに、1ヶ月後に開催されるライブの宣伝も兼ねてしまおうかと思っている訳さ」
つまり間住さんは、記者会見で集めた人達を盛大に騙して宣伝の場として使うつもりなのだろう……相変わらず使える物は何でも使うところは昔から変わっていないようだ。
それよりも今、俺の耳に重大な話が聞こえた気がした。
そう、それはライブの事だ。
なんと俺は、C*Fのライブがある事を今の今まですっかり忘れていたのだ。
マネージャーになる前、俺はC*Fの1ファンとしてなんとかチケットをゲットしていたのに、最近の怒涛の展開でライブの事なんて記憶の彼方へと消えていたようだ。
よく考えれば、今まで4人の仕事が思ったりよも少なかったのも、ライブに備えて仕事量を調整していたからという事だろう。
チケットは既に売り切れているのだけど、更に席を増やすつもりなのかネット配信するのかはわからないが、この記者会見はいい宣伝になる筈だ。
記者会見に向けて対策もしてるし、これならきっと大事にはならないよね……?
そう思うのに、どうしてこんなにも不安が拭えないのだろう。
もしかすると、今回は乗り切れたとしてもスキャンダルが今後続かないとは限らない。俺がそう思っているからかもしれない。
俺の時だって、1回目は嘘だと信じてもらえた。
だけど……2回、3回と続くうちに、まわりの人達は話が嘘なのか本当なのか疑い初め、一度疑いを持ってしまえば心が離れるまでに時間はかからなかったのだから……。
「直、顔色が悪いようだが大丈夫かい?」
「いや、別にそんな事は……」
「直、辛いなら俺の膝に頭を乗せろ」
「え?」
向かいの椅子に座っているのに突然よくわからない事を言い出した優に、俺はドン引きしてしまう。
「えー、優君ずるーい! それなら僕の膝の方がきっと柔らかいよ?」
「いや、それなら鍛えてる俺のがもっと柔らかいに決まってるぜ」
「ちょっと、待って! 皆して突然何を言いだすんだよ!? 膝枕なんて恥ずかしいし、何よりお前らとは物理的に距離があるから無理だって。それに俺は隣にいる夜の肩を貸してもらうから大丈夫だよ」
そんな俺の言葉に一番驚いていたのは夜だった。
「え、え!? 直は、俺なんかの肩でも大丈夫、なの……?」
「全然大丈夫だし、俺は夜の肩がいい……もしかして、夜は俺がもたれかかるの嫌だった?」
「そ、そんな事ない。直の役に立てるなら凄く嬉しいよ……」
少し照れ臭そうに笑う夜を見て安心した俺は、ゆっくりとその肩にもたれかかる。
3人が何か文句を言いたそうにこっちを見ているのに気づいていた俺は、再び謎の罪悪感を感じてしまい目を逸らしてしまう。
そして、そんな俺達の様子を見ていた間住さんが、何故か突然笑い出したのだ。
「はははっ……! そうか、そうか。直はメンバーと、もうこんなにも仲良くなっていたんだね。どうやら天然タラシの直は健在のようで安心したよ」
「ちょっと、間住さん!? 子供の時代の変な作り話はやめて下さいよ。それに今はそんな話より、記者会見の話の方が重要ですからね?」
「いや、すまないね。決して揶揄うつもりじゃなかったんだよ。それに直に言われてしまったからね、ここからはこの6人で記者会見の事を真面目に話し合う事にしようか」
こうして俺達は記者会見の話を詰め始めたのだ。
しかし話し合いの最中に、本格的に気分が悪くなってしまった俺はすぐ社長室を退出するはめになり、そのせいで記者会見についての話を殆ど聞く事が出来なかった。
そして、その日の深夜0時───。
C*Fのスキャンダルは、俺達の予想通りニュースサイトに上がった。
それはあっという間にネットに拡散され、翌朝にはSNSのトレンドをほぼ埋めつくしたのだった。
あなたにおすすめの小説
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ある日、人気俳優の弟になりました。2
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。
平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)