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二章
121、夢で再会(ウル視点)
しおりを挟む───もしかして、ゼントだけが転移した?
あまりにも突然消えたゼントに、俺は少し焦りながら何度も周りを見回していた。
それなのにゼントは何処にも見当たらなくて、俺はゼントがこの夢からデオの夢へと転移した事を確信した。
本当ならゼントと一緒に移動するつもりだったんだけど、そう簡単にはいかないか……。
そう思っていると、流石に挙動不審だったのかダンが声をかけてきたのだ。
『ウル、何かあったのか?』
「いや、それが……どうやらゼントだけ先に行っちゃったみたいなんだよねぇ」
『一人だけで?おかしいですね……僕の予想ではゼントの夢ごと移動出来るかと思ったのですが、中々思い通りにはいきませんね……』
『でもよ、これでデオを救うチャンスが生まれたんだから喜ぶべきじゃねぇか?それに俺はゼントならやってくれると思ってるぜ。だからウルもアイツを信じてやってくれよな』
「……わかっているよ」
確かにダンの言う通り、今はゼントを信じて待つしかない。
それにあんなにも俺と特訓したのだから、ガリア相手でもゼントは奮闘してくれる筈だ。
『一応俺達は、ガリアの魔力を外部から感知できないか試してみるぜ』
「ああ、そっちは頼んだよ。俺はゼントが転移ホールを繋いでくれるのを信じて、ここで待つことにするからね」
『わかりました。ではウルがデオルライド様の夢へ転移できた場合、どうにかこちらへと通信を繋いでくださいませんか?その方が僕たちも魔力を捉えやすくなりますから』
「もちろん、試してみるよ」
そして二人との通信を切った俺は、ゼントを信じてただ待ち続けていた。
だけど思った以上に時間が経っていく事に、俺は少しずつ不安を抱えてしまう。
確か俺の記憶ではガリアは精神攻撃も得意だった筈だし、力で圧されたらゼントは耐えられないかもしれない。
既にゼントが壊されてなければいいんだけど……。
嫌な予感に俺はもう一度ダン達と話し合う為、通信の準備をしようとした。
その瞬間だった。
突然、目の前に亀裂が走ったのだ。
「こ、これは……」
それを見た瞬間、俺はすぐにコレがゼントの手刀だと気がついた。
「そうか、ゼントはやってくれたんだ……!」
そう喜んでいる間にも、その亀裂は少しずつ穴のように広がって転移ホールになっていた。
だから俺はすぐさま穴へと体を滑り込ませる。そして俺はゼントを褒めながら向こう側へと出たのだ。
「よいせっと。流石ゼントだよ、何でも切れる手刀は夢の狭間さえも切ってしまうんだね」
そして辿り着いたそこは、見た事のある薄暗い部屋だった。
もしかしてこの部屋は、実際にある部屋だったりするのかな?
そう思って部屋を見回すと、目の前にいるゼントが俺に頭を下げていた。
「ウルさん、遅くなってすみませんー」
何故か俺に謝罪したゼントの姿はボロボロで、きっと手刀を放つまでにかなり無理をしたのがわかってしまう。
そんなゼントを見ていたら、更に褒める以外の選択肢はなかった。
「いや、充分だよ。よく頑張ってくれたねゼント。それから……」
そして俺は、ゼントの後ろで何故か隠れるように立っているデオを見つけ、久しぶりに会えた事があまりにも嬉しくて、その姿が何よりも愛おしくて、無意識に微笑んでいた。
「待たせたね、デオ。遅くなってごめんよ」
デオは俺を見ると、突然その瞳から涙を溢れさせたのだ。
きっとここで、相当嫌な思いをしたのだろう。
だから俺はすぐにデオに近づき、抱きしめていた。
「デオ、もう大丈夫だから安心してね」
「……う、ウル。本当にお前はウルだよな……?」
何だろう?
その言い方にほんの少しだけ違和感を覚えてしまう。
だけどそれは動揺しているせいだろうと、俺はデオに優しく言った。
「俺は、本物のウルだよ。俺が来たからにはもう大丈夫、早くここから帰ろうね」
「……帰る?」
「そうだよ。デオもそれを望んでいるだろ?」
「そ、そうだよな。俺も、ここから───」
そう言いかけたデオの言葉は、突然笑い出したガリアによって遮られてしまった。
「ははは!お前は何を言ってるんだ?この世界は俺が神なんだ。それなのにお前達は本当にここから帰れるとでも思っているのかな?」
「ああ、もちろん俺達は帰るつもりだよ。それにせっかく感動の再会をしているのに、邪魔しないでくれないかな?」
「邪魔だと?邪魔をしてきたのはお前の方だろう!それに今回、俺は最初から決めていたんだ。お前がもしここに来たら、絶対に精神を壊すとな!」
そう言うとガリアは持っていた鈴を俺達の前へ突き出した。
確かあの鈴は精神系に作用するマジックアイテムだった筈だ……まあ、俺には効かないんだけどね。
「残念だけど、俺に精神攻撃は効かないよ?でもゼントやデオを壊されるのも困るんだよねぇ」
「はははっ!神である俺の願いはここなら全て叶う。だからお前だってすぐに壊れるんだよ!」
そう言ってガリアは鈴を響かせる為に腕を振った。
俺はその鈴の音が鳴り響く前に、ゼントへ確認したのだ。
「ゼント、手刀が使える回数は後何回?」
「後、2回です!!デオさん俺はどうしたら……」
「俺達を囲うように手刀を放つ事は?」
「や、やってみます!!」
既に鈴の音は響き始めている。
後はゼントが間に合うかどうかだ。
「はははは!何をしようとしているか知らないが、もう遅い。既に鈴はお前達を蝕み始めているのだからね!」
ガリアの後ろにはいつのまにか膨大な量の鈴が出現し、その音を響かせていた。
その音圧に流石の俺も耳が痛くなる。だから俺はデオの耳には届かないように、しっかりと抱きしめていた。
でも俺がこんなに苦しいなら、ゼントは───?
「ゼント、大丈夫かい!?」
「ぐっ……まだ、大丈夫です……それに、ようやくいけますよ!それぇいっ!」
ゼントはガリアと俺達を分け隔てるように手刀を放った。
「……ぇっ?」
それだけなのに、何故かその一振りで鈴の音が全く聞こえなくなったのだ。
その事を不思議に思いながら、俺は二人の無事を確認する。
「二人とも大丈夫かな?」
「ウルが守ってくれたから……俺は、大丈夫」
「俺も大丈夫ですけど……周りを見て下さい!俺、一回しか手刀を使ってないのに……」
そう言われて周りを見ると、水色の薄い膜が俺達を囲っていた。
「これは、ゼントの空間魔法……?」
「二人を守る為にどうにか囲わないとって思いながら手刀を打ったからですかねー?」
「……確かに、それはありえるかもしれないね」
ゼントの空間魔法は、最初からゼントの願いを叶えるように発動していた。
だから今回も無意識に出来てしまったのだろうか?
そう首を傾げていると、突然ガリアの怒声が聞こえてきたのだ。
「何故だ!ここは俺の世界だというのに、どうやって干渉した!?」
どうやらこの空間、魔力は通さないけど声は普通に聞こえるらしい。
だから俺は、慌て始めたガリアへと親切に教えてあげる。
「簡単な事だよ。ゼントが作り出したこの空間は、完全にソコとは切り離された別の世界なんだよねぇ。だから君のルールはこの空間内では適用されないんだよ」
「そんな事あるはずが……!」
「そう思うなら試して見るといい……。君の全力がどんなものか俺が見てあげるよ!」
俺はわざとガリアを挑発していた。
だって俺がここにいる理由はガリアの魔力を解析する事だ。だからガリアには早く魔法を使って欲しいんだよねぇ。
そう思いながら俺は、魔法解析魔法と特殊通信魔法の展開準備を裏で始めたのだった。
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