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第五章 兄弟編

45、兄上の部屋(前編)

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俺は気がつくと知らない部屋にいた。
現状を理解できない俺は、ゆっくり記憶を思いおこす。

確かギル兄上の執務室にいて、4人で話をして……そうだ!
ルーディアに俺の正体がバレてしまったんだ……。

その事を思い出したら、心臓がギュッと苦しくなった。
でも、バレてしまったものはどうにもならない。
だからもし再びルーディアに会えるなら、俺は誠意を持って謝りたいと思っていた。

だって俺はこのまま、ルーディアとの関係を終わらせたく無いから。
この気持ちが、恋をしているからそう思うのかはわからないけど、ルーディアには側にいて欲しい。
ルーディアまで離れていったら、俺は、俺は……。

そう思うと涙が溢れて、俺は暫く布団の中で震えていた。


そして、どれぐらい時間が経ったのだろうか。

何とか起き上がった俺は、ようやく冷静になったことでこの部屋を見回していた。
見たところ、どうやらここは執務室に備え付けられた仮眠室のように見えた。

もしかすると倒れたときにいた場所である、ギル兄上の執務室なのだろうか?
そう思っていると、扉が開く音がして俺はそちらを見る。

「なんだ、もう起きてるじゃねぇか。このギル様が来たからにはもう大丈夫だぞ!」

仁王立ちでそう言うギル兄上は、先程と同一人物と思えない喋り方をしたため、俺は驚いてしまう。
そして部屋に入ると、素早く扉に鍵をかけた。

「ぎ、ギル兄上ですよね?」
「そうだ。俺様がさっきと違いすぎて驚いたか?客がいるところでこんな喋りかたはできんからな」

確かに過去のことを思い出しても、かなり俺様だった記憶はある。
だけど久しぶりに話した今も、やはりそのままのようだ。

「どうして俺は、自分の部屋じゃなくてここに居るのでしょうか?」
「そんなの、監禁するために決まってんだろ?」
「か、監禁!!?」

何言ってるのこの人!?
でもさっき、確かに兄上はこの部屋の鍵を閉めていたことを思い出し、俺はゾッとしてしまう。

「昔お前が倒れたときも、俺様の側にいた方が安全だと思って監禁しようと思ったのに、なんでかイルに合いに行くことすら禁止されたんだよな~。あれはまいったまいった!」
「兄上は何を言っているのですか!?」
「何って、俺はイルが兄弟の中で一番好きだからな。好きなら近くに置くのは当たり前じゃないか?」

当たり前なわけがない。
そういえばギルランド兄上はだいぶやばい人だからこそ、俺はデオル兄上に国王になって欲しかったことを改めて思い出してしまった。

「それも、好きは好きでも愛してる方だけどな!」
「愛って、家族愛ですよね?」
「違う違う、性的にって意味だけど?」

その言葉に俺は、体がゾワゾワと震えてしまう。
兄に性的な目で見られていると言われて恐怖しない訳がない。

「で、でもギル兄上は結婚して、子供もいましたよね?」
「当たり前だろ!俺は欲しいものは全て手に入れるタイプだからな。だから欲しいものは、女でも男でも弟でも、何でも手に入れてやる」

そう言いながら口の端を吊り上げて笑う兄上は、どう見ても王子という柄じゃない。
どちらかといえば山賊のようだ。

「でもな、お前を手に入れるには、まずその病気とやらを治さないとダメだと、シルの野郎に言われてな、それでシルを手伝ってたんだが……こんなチャンス出来ちまったら、今すぐに手に入れるしかないよな?」

そう言って、近づいてくるギル兄上に恐怖を感じた俺は、ベットの上で後ずさろうとしたが、すぐ壁にぶつかってしまう。
この状況を打開するために、どうにか時間を稼がなくては……。
そう焦った俺は、とりあえずギル兄上と会話をして引き留める作戦にでた。

「えーっと、それで俺をここに閉じ込めることの許可は得たのですか?」
「いや、俺は少し休ませるって言っただけだからまだたな。でもな、寝てるイルを見てたらやっぱり欲しくなったから仕方がない。それに俺様は周りの許可なんてとらん。俺様がそう決めたからだ!」

いやいや、すっごい俺ルール!?
これじゃあ、そのまま押し切られる可能性が……。
とにかく話を逸らすために、気を引きそうな話をするしかない!

「そ、そうですか。それはそうとギル兄上は、俺があのパーティーにいたことについて、気にならないのですか?」
「あー。気になるけど、俺はお前がいればそれでいいからな。そう考えたらあまり気にならんかな」

全然、興味なさそう!!
もっと興味をそそるものってなんだ……!

そう考えている間に、ギル兄上は俺を壁まで追い詰めていた。
もうこれ以上無理!
と思った瞬間、運は俺に味方したのか執務室のドアが開く音が聞こえてきた。

「チッ、誰だ?今良いとこだったのに、勝手に部屋へ入ってきたのは……」

そう言うと仮眠室から出て行くギル兄上を見て、俺は今だ!と服の間に隠れていたマニに触れる。
こんな体でもほんの少しの距離なら飛べるはずだ。
だから俺は心の中で、転移!!と叫んだ。

そして気がつくと俺は、ギル兄上の執務室の前に立っていた。
とにかく逃げなくてはと、ふらつく足取りでそこからよろよろと移動する。

そしてよくやく部屋が見えなくなるほど離れた頃、「イル!どこ行きやがった!!」と、遠くで声が聞こえてきた。

だから俺はまた必死で前に進む。
でも、もう体力が尽きていた俺は壁に手を当てて、そこに崩れ落ちるように座り込んでしまった。
そしてよく見るとそれは壁ではなくて、扉だった。

「おや、イルではないですか?どうしてここへ?」

ガチャリとその扉が開いたと思ったら、そこからシル兄上が出てきたのだ。
だから必死に「助けて下さい」と懇願した俺は、そのままシル兄上の部屋へと招き入れられたのだった。
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