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第五章 兄弟編
44、正体(後編)
しおりを挟む絶対にバレた。
だって、俺でもさっきの話から竜の封印を解けば、呪いが解けるかもしれないと思えたのだ。
賢いルーディアならば、もっと先のことまで見通せたはずである。
なによりも、病気の事だけで俺とイコールに結びつけていたのだ……少しのきっかけがあれば俺がイルレインだと気づいてもおかしくない。
どうする、どうにか誤魔化すか?
でも俺がルーディアを騙せるのか……いや、絶対に無理だ。
でもこのままだと、ルーディアは俺のことを嫌いになるに決まってる。
だってルーディアは、貴族のような権力者が嫌いなんだから……。
そう思うだけで、顔が歪んで涙が出そうになる。
そのせいで言い訳も何も口から出てこない俺は、無言のままルーディアと暫く見つめ合っていた。
そんな中、資料を確認していたシル兄上と違い、無言で見つめ合う俺達に違和感を感じたギル兄上が、声をかけてきた。
「おい、2人とも怖い顔をしてどうした?」
それが合図になったのか、その声にピクリと反応したルーディアはギル兄上の問いを無視すると、俺に近づくために体を少し傾けた。
二人がけの椅子に座っているため元から距離が近かったのに、さらに近づいてきたルーディアは俺の顔に手を伸ばしていた。
「ルーディア、やめろ……」
俺はその意図に気がついて、ルーディアの腕を掴もうとしたが、もうすでに遅かった。
ルーディアの手が、俺の仮面とフードに触れたことに気がついてしまったのだ。
そのことに緊張で口を震わせ、何も言うことのできない俺は思った。
やめろ、やめてくれ……ルーディア。
俺はお前と今のままの関係でいたいのに……!
頼むからその仮面を剥がさないでくれ!!
その願いは届くことはなく、ルーディアの冷たい声が耳に響いた。
「無礼を失礼します。セイ……いえ、イルレイン殿下」
そう言ってルーディアは、俺から仮面を剥ぎ取るとフードも外してしまう。
そのため偽りの姿を剥がされた俺は、第5王子イルレインとしてこの場に放り出され、呆然とするしかなかった。
悲しくて、苦しくて、涙を瞼に溜めた俺は、ただルーディアを見つめる。
そして、そのことに驚いたのはもちろん俺だけではなかった。
「い、イル!?」
「イル!!」
横からギル兄上と、シル兄上の驚く声がハッキリ聞こえていた。
そんな二人の反応に、俺がイルレインだと確信したルーディアは、悲しそうに俺を見つめる。
「……やはりそうでしたか。僕のこのもやっとした気持ちは、治してあげたいと感じたこの気持ちは、全てあなたのことだったからなのですね」
今、俺の顔は真っ青になっていた事だろう。
だって全てバレてしまったのだ。
ルーディアとの関係も、このまま終わってしまうに違いない。
そう思った俺は瞼に溜まっていた涙を腕で拭い、開き直るようにルーディアを睨みつけた。
「ルーディア、どうして気がついたんだ?」
「そうですね……イルレイン殿下の話を聞いてからずっと既視感がありました。そしてあまり見ない病気なはずなのに症状の似た2人、そのどちらも竜の封印に関わりがある。そんな稀なことが二度も重なることはほぼありえませんから……」
「……まあ、そうだよな」
そんなわかりきった事に、言い返すこともできない俺にたいして、ルーディアは眉を寄せたままさらに話し続けた。
「それに先程の話で、私は気がついたのです。もし本当に王族が竜の怒りを受けているのなら、あなたの病気にも何かしら関わっている可能性があるはずだと……。それはつまり、守護竜の封印を解くこと自体が、あなたを救うただ一つの方法なのだと、私は思ったのです」
その確信めいた話をするルーディアに、俺は驚いてしまう。
だってルーディアは俺に騙されたと思っているはずで、怒っていても仕方がないのだ。
それなのに俺を助けるようなことを言う理由がわからない。
だから口を開こうとしたのに、横から出た誰かの驚く声に先を越されてしまった。
「なんですって!?それは本当なのですか?」
それは先程まで驚いていたはずのシル兄上だった。
それに対してギル兄上は、まだ固まったままである。
「ええ、そうですね。正直まだ仮説しか立てられませんが……。それに良ければ仮説を補うために、僕に竜の話をもっと詳しく教えて頂けませんか?それとシルリオン殿下の知っている情報も共有したいです」
「ええ、いいでしょう!あなた、ルーディアと言いましたね。あなたがどこまで知っていて、何故イルと一緒にいたのかわかりませんが、弟を救うためです。幾らでも協力致しましょう」
俺は2人が握手するところを黙って見ていた。
正直バレたことで、もうルーディアと今までのように、過ごせないことはわかっていた。
だけど優しいルーディアのことだから、呪いが解けるまでは俺の面倒を見てくれるつもりなのだ。
だから全てが終わったら、ルーディアも俺の元を去るのだろう。
きっとあの告白も、なかったことになるんだ。
そう思うと胸が少しチクリとした俺は、疑問を感じる暇もなく突然くらりと目眩に襲われた。
そして気がついたときには、椅子から崩れるように落ちていた。
「「イル!!」」
「セイ!!」
俺の名を3人が同時に叫んだのが聞こえる。
今日はずっと体調が良くなかったから、前から限界だったのかもしれない。
そんなことをぼんやり思いながら、俺は意識を失ってしまった。
だからそのあと3人が、一体何の話をしたのか俺は全く知らないのだった。
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