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第2章 入団試験編

ズルはいけません!

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 私の堂々たる名乗りに周りはまだ騒めいていた。

 これだから変に有名人なのは困ってしまう。
 でも今は逆にそこを上手く利用させて貰うわよ。


 そう思いつつ勢いで出てしまったが、私がこうやって前に出たのには理由がある。
 最初にその測定器を見たときから違和感と、何故か確信があったからだ。

 でも一応確認のため、手の中にある男の測定器をもう一度チラリと見る。不思議な事に、私の瞳は迷う事なく一点を捉えていた。
 そしてある物を見つけた私は、その男に和かに微笑んでいた。

「すみません、少しばかり風魔法が得意なもので……」
「そんなこと聞いてない!!俺の測定器は?」

 動揺する男の前に手にしている物を突きつける。

「これの事ですか?」
「そ、それだ!!!お前!俺の測定器に何かしたんじゃないだろうな?」
「いえいえ、私は何もしてません。ただ一つ気になる事がありまして……」

 私は片目を閉じると、男の顔色を疑うようにゆっくり口を開いた。


「これ、ズルしていますよね?」
「な、何を言いがかりを!!!」

 男は驚きの余り私から測定器を奪おうとした。
 軽くバックしてその手から逃れる。私がそんなに素早く動くと思わなかったのか、男はそのまま前のめりに倒れてしまった。

「騎士様や魔術士様は既に気付いておられるかもしれませんが、ご覧下さい。この試薬の中に何か塊があるのに気がつきましたか?」

 そっと差し出した測定器を騎士達は素早く受け取ると二人で顔を見合わせた。


「そ、そそそんなわけないだろ!!」

 動揺を隠せずに目線を逸らす男に対して、とても冷静な声が騎士から落とされた。

「いいえ、その方の言う通りです。色しか見ておらず気づきませんでしたが……この残りカスは魔力増強剤でしょうか?そして通常の魔力増強剤はこの試薬では溶けることはありません。ですからこちらは使用を禁止されている物、ということになります」

 騎士様は信じられない物を見るような目で男を確認すると声を張り上げた。

「すぐにこの男を引っ捕らえなさい!!」
「ひぃ!!」
「他にも不正しているものがいるかもしれません。すぐに今までの結果も再確認して下さい!あと他の試験場にも同様の対応を至急お願いします!!」

 そして男は他の騎士達に連行されて行った。
 余りの素早い対処に流石騎士団だと感心してしまう。



「ありがとうございました。まさか直接血と混ぜてドーピングをする方がいるとは思いませんでした」
「いえいえ、お役に立てたのでしたら良かったです」
「それだけではありません。クレア様が受験者の目を一斉に向けてくれたおかげで、他の不正を働いた者達も一度に捕まえる事ができました」

 騎士の男性は申し訳無さそうに改めて頭を下げる。そして顔を上げるとスッと私に近づき耳元で呟いた。


「正義感に溢れる所も含めて、全くお変わりないようで安心しました。恨み事をこぼすクレア様なんて私達は見たくもありませんからね」

 そう言ってウィンクする男を改めて見つめた。

 その姿は試験官をしているのに思ったよりも若々しく、私と同い年くらいに見える。そして目を引く金の髪に、優しい灰色の瞳。左には涙ボクロが印象的で、何処かでこの男性を見た事がある。

「あっ!ハロルド近衛隊にいた……」
「思い出して頂きましたか?本当にお久しぶりです、ロイ・クルーガーです」


 彼は当時、ハロルド殿下近衛隊の新入りだった。
 慣れずにオロオロしている所を私に見つかり、たまに話すようになったのだ。なにより年齢が一つ年下で親近感が湧いた私は、内緒で一緒に訓練をした仲でもある。

 まさかこんなに立派になっているとは思わなくて、誰だかわからなかったとは言えない……。


「クレア様と会う機会がなくなってすぐの頃に、新人育成係に移動になったんです。まさかこんな所でお会いできるなんて流石クレア様ですね」
「いえ、どうも……」

 何だか褒められている気がしない。
 ロイさんは私の手に測定器を見てニコリと頷いた。

「ああ、クレア様は勿論合格ですね。ではこのまま真っ直ぐ進んでいただいて第二試験に向かって下さい」
「えっ!基礎体力測定は……?」
「魔法量が超えてる方はそれで第一試験合格なんですよ。そう言う試験だったんです」

 そう言われてもピンとこない。一体どう言う試験だったのだろう?

 全く理解できない私はとりあえず首を傾げたのだった。
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