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第1章 王宮侵入編
バレないように気を付けます!
しおりを挟むハロルド殿下が目の前に現れた事により、私の頭はパニックに陥っていた。
何故、どうしてここにいるの!?ああ、ミラルド殿下の執務室とハロルド殿下の執務室は、それ程遠くない位置にあるのだったわ。
だとしても、こんな出会い方なんてある?
落ち着くのよ、クレア!今はとにかくバレない事が大事なのだから……。
今日の私は髪色が見えないよう帽子に髪を纏め、眼鏡をかけているのだ。簡単にバレるわけがない。さっきミラルド殿下にバレたのだってきっとたまたまに違いないから……。
そう思いつつも、視線は下に向いたままである。
「ああ、ハロルド兄上じゃないですか。実は先程運悪く足を捻りましてね」
「足を捻っただって、あのミラルドが?」
「何です。僕が足を捻ることがおかしいとでも仰るのですか?」
「……いや、ミラルドが?どう考えてもあり得ないことだろ?」
兄弟の会話な筈なのに互いに何処か棘がある。やはりこの二人は仲が良くないのだろうか……。
そう思いつつも、私の心臓はドキドキしたままでいつボロがでるかわからなかった。
だから冷静になるために現状を確認する。
どうやら今のところ、ハロルド殿下は私だと気づいてないみたいだし、このままバレないように隠れたりできないかしら?
それにミラルド殿下は思ったよりも大きいから、頑張れば隠れられるかもしれないわ!
そう思った私は、とりあえずミラルド殿下の身体に隠れるように、なるべく小さくなってみる。
しかし、すぐに自分自身も結構身長がある事を思い出した私は、隠れるのは無理と結論付けていた。
そして他に何か策はないかと再び悩み始めた私の耳に、二人の話が聞こえてきたのだ。
「ミラルドが捻挫した事が事実なのは理解した。でも先程から気になっていたのだが、そこにいるメイドは一体……?」
何故かハロルド殿下の矛先は突然こちらに向いたのだ。
「そこのメイド、先程から俯いてているが大丈夫か……?」
「………………」
こちらを見ている殿下に対して、俯いたままの私は緊張のあまり声が出せないでいた。
このままでは不敬になってしまうため、早く言葉を返さないといけないのに……。
そう思うのに、声が出ない。
私は緊張に冷や汗を流し、すでに立っているのも限界だった。
だって婚約破棄されてから、久しぶりに会ったハロルド殿下なのだ。
それにハロルド殿下が今の私にどんな感情を抱いているのかもわからない。そんな状態で潜入中の私の存在がバレるわけにはいかなかった。
だから緊張するなと言う方が無理な話なのだ。
「そこのメイドは僕の声が聞こえているのか?」
そしてハロルド殿下からの催促に、私は震える指でついミラルド殿下の服を握ってしまっていた。
それに気がついたからなのか、ミラルド殿下は大袈裟に手を広げたのだ。
「ああ、すみせんねぇ~?このメイドさんは今僕を抱えてきたから、息が乱れてて声がすぐに出せないみたいです」
私は答えられない代わりに高速で首を振っていた。とりあえずごまかせるなら、今は何でもよかったのだ。
「そ、そうか。それは急かしてしまってすまなかったな。それにしてもミラルドをここまで抱えてきたなんて、女性なのに大変だったろう?こんな弟がすまなかったな」
その言葉に、私は呼吸をするのを忘れてしまいそうになる。
だってメイドに謝るなんて、普通の貴族はしないのだ。それなのに王子であるハロルド殿下はそんなこと気にせずにやってしまう。
そういうところがハロルド殿下らしくて、婚約者だった頃を思い出して懐かしく感じてしまったのだ。
だからこそ私は知っている。
ハロルド殿下はこんな一人のメイドにさえも等しく接してくれるお方であり、とても優しいお方だったのだ。
だからこそ思ってしまう。
……何故、こんなにもお優しいあなたが婚約破棄をしたのですか?
しかしその言葉を言いたくても、口からは決して出る事はない。
しかし今それを考えても仕方がないと、私はさらに下を向いてしまう。
「僕は何か余計な事を言っただろうか?メイドの顔色がさらに悪くなったんだが……」
「どうやらまだダメみたいですね!それなら僕がメイドを「」紹介しますよ~」
突然のミラルド殿下の発言に、私の頭はスーっと冷静になっていた。
待って、今ミラルド殿下は私のことを代わりに紹介するって言わなかった?一体なんて紹介するつもりなのよ!?
ミラルド殿下は私が極秘で侵入している事を知っている訳もないし……バレたら終わる!!
私は顔を青くしながら、ミラルド殿下の言葉を待った。
「この子は僕の専属メイドですよ。だから兄上には関係ない相手ですからお気になさらずに~」
名前を出さなかったのはまだいいけど、専属メイドっていう説明はどうなのよ?
今日だけのメイドなのに次のときいなかったらおかしくないかしら?
「……お前が専属メイドを雇っただって?」
「そんなにおかしい事ですか?まあどうせまた長続きしないと思うので顔は覚えなくていいですよ」
「いや、本人の前で言うのはだめだろう。えっと名前がわからないな……そこのメイド、こんな男だがこれからもこいつをどうかよろしく頼む」
頭を下げるハロルド殿下に驚きつつも、私は頭を縦に振る。
とにかく早くこの場が終わることを、ひたすら祈っていた。
「ミラルドも、周りの者達にもっと優しく接しろ」
「兄上のお説教は聞きたくありませ~ん」
「はあ、お前は全く仕方のない奴だな。そこのメイド、こんな重たい男を持たせてすまなかった。ここからは僕がミラルドに付き添う。良ければ休憩しながらこいつの執務室に行くといい」
そう言うと、ハロルド殿下はミラルド殿下の腕を肩に回し、軽く私に頭を下げて歩き出す。でもその姿は仲良し兄弟にはとてもじゃないけど見えなかった。
そしてミラルド殿下はこちらをチラリと見ると、反対の手で軽く手を振り『またね』と口パクをした。
ハロルド殿下、そしてミラルド殿下という会いたくない二強に出会ってしまった不運を嘆きながら、私はダッシュでジェッツの元へと向かったのだった。
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