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一章 リコリス
【4】
しおりを挟む「「おはようございまーす」」
私は無事に志望大学の看護学部に進学し、夕凪も同じ大学の理学療法学部に進学した。
バイト先も変わらず『覇王樹』でしている。
「あれ?よっしー今日早いね」
よっしーは気さくな明るい大学生で県内の国立に通ってるらしい。そんな優良株が放置されてるはずもなくここのバイトに来た時にはもう2年付き合っている彼女がいた。つまり夕凪はアピールする間もなく玉砕したのだ。あの時の夕凪の顔は忘れられない。笑
まさに苦虫を噛み潰したような顔で
[他人の男には興味ないから]と言っていた。
とはいえ、一年も一緒に仕事をしていれば仲良くもなる。今じゃ吉村さんからよっしーに呼び方も変わった。
「今日急遽団体の予約が入ったからどーにか来てくれって店長がさ…」
さすが店長。ちゃんと押しに一番弱いのが誰だかわかってらっしゃる。
「そうだったんだ~まだいるの?」
夕凪が奥の座敷席を少し確認しつつよっしーに尋ねる。
「まだいるよー料理は全部出てるから後は細かい追加とお酒かな~」
よっしーが穏やかに答える。
洗っているお皿を見る限り10.20では無いだろう。それを他のお客さんも対応しながらほぼ一人で回していたのに疲れた態度ひとつ見せないんだから本当に出来た人間なんだと感じる。
私だったらイライラして予約表見ればわかんだろって顔に出してしまうな…気を付けよう。
「そうなんだ~まだ終わってないけどよっしーお疲れだったね?連絡してくれればうちらも早く来たのに!」
夕凪が食洗機を上げて終わった食器を取り出しながら言った。
「えー夕凪ちゃんはわからないけど咲ちゃんは絶対来ないでしょ?」
よっしーは新しく食洗機に食器をつめて上から蓋を引き下ろした。
「え!夕凪は絶対行ったよ!!」
夕凪はすぐに返事をしたが食洗機の大きな音に掻き消されてよっしーには聞こえてないようだ。
ピーっと音ともに静かになった。
「よっしーよくわかってるね?忙しいのが確定してるのに私は行かない」
所詮バイトだからね。
にしても……夕凪本気でよっしーに惚れてるのか?
これは後で要聴取だな。
「すみませーん!!生7つ!!!」
座敷席から声が聞こえる。何で酔っ払いって呼び出しボタン押さないんだろう…
「私作っとくね」
お皿を拭く手を止めてジョッキを取り出しビールを注ぐ。出来たものを横に置いていくとよっしーがすかさず運びに行ってくれた。正直重いからかなり助かる。とりあえずよっしーがいなくなった隙に…
「夕凪よっしーのこと本気で好きでしょ?」
「うぇっ!?」
いや、そんな驚く?わかりやすすぎない?
「好きっていうか…なんか……でも彼女いるじゃん?」
「あぁ…他人の男に興味無いんだもんね?」
「あのときは…!まだ正直顔が良いなとしか思ってなかったから…どんな人か知っていくうちに気になっちゃって」
「確かによっしーは知れば知るほど良さがわかるタイプだよね」
だからこそ彼女も大事にしてそうだし、キツいだろうな…
夕凪の気持ちがわかったところでよっしーが戻ってきた。
「そろそろ団体もお開きになると思うよ」
「何時間くらいいるの?」
「17時から来てるからそろそろ4時間?かな」
「おーマジか…」
準備考えたらよっしーは16時にはきてるよな…
今日は金曜だから忙しくなることは予想してたけど団体入ると大変さが変わるよね…
「咲ちゃんさ、今日終わった後何か予定ある?」
ん?
「予定…特に無いけど…」
「カラオケとかどうかな?ちょっと話聞いてもらいたくて…」
「話しって?夕凪も一緒なら良いよ?」
「もちろん!彼女のことなんだけどさ…」
ゆ
おータイムリーだな…
夕凪は彼女の話題が出た事と一緒にでかけられる喜びで感情がおかしくなってるみたいだな。……顔てる。
「なるほど…わかった!じゃあまた終わったら話そ!」
こうしてよっしーと初めて仕事以外で会うことが決定した。夕凪は一緒に遊べる事を喜んでいるみたいだけど、私としては最初に名指しで誘われた事が少しひっかかる…
「あああああ!終わったー!」
閉めた後カウンターを拭きながら夕凪が両手を上げて叫んだ。あの後満席になって話す余裕もなかった。
「どこのカラオケ行く?」
よっしーがいる方へ声をかける。
「駅前の新しく出来たところでどうかな?」
「おっけー!よしちゃっちゃと閉めちゃおう」
調理の人たちの掃除が終わったのを確認した後レジ閉めをして身支度をして店の鍵を閉める。
店長は私と夕凪がいる時は休むようになった。もう長く任せてるからできるっしょ!と言っていたが多分ずっと店にいるのが年齢的にもしんどくなってきたんだと思う。
3人で店を出て駅前のカラオケに向かった。
部屋に入るなり曲を入れる暇もなくよっしーは内容を話し出した。
「彼女と…別れるか迷っててさ…」
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