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二章
無言という言葉
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「というのが私の認識ですが、訂正は?」
とローゼ様が訊けば、アルベルト様は首を横に振った。
ローゼ様に説明させるとはいい身分だなぁ、アルベルト様よぅ。
まぁ、2人とも良い身分なのだが。
何を言っても相手が傷ついたり怒ったりすれば、何も言えなくなっていく。
それで今のアルベルト様が出来上がったのか。
言葉を飲み込むしかなくなってしまった幼い頃のアルベルト様のことを思うと少し胸は痛む。
しかし、
「それで、本日は何の御用ですか?」
「……」
「用が何かを言うだけで私が怒ったり泣いたりするとでもお思いですか?」
首を横に降るアルベルト様。
そうか。イエスかノーかの問いならやり取りは成立するのか。
って、面倒すぎるわ!
「『無理に喋らなくていいのよ。私、アル様が喋らなくても、アル様の傍にいると落ち着くの』」
「っ!?…記憶が戻ったのですか!?」
おおぅ。
喋った!アル様が、喋った!
てか、すっごいイケボなんだけど。
ここまで無音の不意打ちイケボはやめて欲しい。
不覚にも声にときめいたわ。
「戻っておりません。ただ、いろんな人からミレイの言動を聞いたので、こんなこと言うコかなぁ、という想像できたというか」
それにしても、そんなしっかり当たるとは思わなかったけど。
「……」
少し俯くアルベルト様。
愛しのミレイちゃんの記憶が戻ったわけじゃ無いと分かってテンション下がるのは分かるけどさ。
「アルベルト様にとっては、喋らないことをまるごと受け入れてくれたミレイが突然それを忘れて、やり切れないと思います。
ただ、今の私が、ミレイと同じようにアルベルト様を全肯定して受け入れることは御座いません。
気心の知れた相手となら、言葉がなくても分かり合えたり、互いに無言でも居心地が良かったりするこもあるでしょうけれど、よく知りもしない相手にそれは無理です。
まだよく知らない相手とわかり合うには、言葉を交わすことが大事だと思います。
それに、相手の言葉に対して何の言葉を返さないというのも、ある種の意思表示になってしまうと思います。
無視したと思われたり、言葉を返す必要がないと軽んじられたと思われたり、あるいは相手の都合よく無言の肯定ととられたり…そういったことはありませんでしたか?
アルベルト様が言葉を控えるのは、自分の言葉が人を傷つけるのことに心を痛めてのことなのでしょう。
しかし、アルベルト様が言葉を返さないことに傷ついた人もいらしたのではないですか?」
「……」
アルベルト様は、悲しげに目をそらす。
多分心当たりがあるのだろう。
「自分の言葉が相手を傷つけるよりは、無言のせいで傷ついた方が罪悪感が少ないですか?それも少し分かります。
でも、無言のために起こったことというのもアルベルト様の選択の結果だと思います。
話すも話さぬもアルベルト様が選ぶことで、私が口を出すことではございません。
そして、どんな言葉であっても他人というものは、勝手に傷ついたりするものです。それは仕方ありません。
でも…アルベルト様が紡ぐ言葉で繋がっていくものを、初めから諦めてしまっているのは勿体ない、と私は思うのです」
アル様が何かを言いかけて、でもやはり口を閉じてしまう。
「あ。話すも話さぬも口を出すことではないとは申しましたが、アルベルト様、本日の用件を聞く権利は私にあると思います!折角のローゼ様とのお茶タイムに入ってきたからには、ちゃんと言うべきだと思いません?」
アルベルト様は困った顔をして、それから意を決したように一つ頷いた。
「…用はもう済みました。今のミレイ嬢から見て、私がどう見えているのか、それを訊いてみたかったのです」
そういって微笑むと、アルベルト様は場を辞した。
「アルベルト様があんなに長く話したのを久々に聞きました。ミレイ様は、なんというか…すごいですね」
私のは、すごいと言うか、無遠慮なだけな気はする。
アルベルト様が今後も自分の言葉を伝えることを続けるかどうかはアルベルト様次第だ。
「さ、それよりも、ティータイムを続けましょう、ローゼ様!」
とローゼ様が訊けば、アルベルト様は首を横に振った。
ローゼ様に説明させるとはいい身分だなぁ、アルベルト様よぅ。
まぁ、2人とも良い身分なのだが。
何を言っても相手が傷ついたり怒ったりすれば、何も言えなくなっていく。
それで今のアルベルト様が出来上がったのか。
言葉を飲み込むしかなくなってしまった幼い頃のアルベルト様のことを思うと少し胸は痛む。
しかし、
「それで、本日は何の御用ですか?」
「……」
「用が何かを言うだけで私が怒ったり泣いたりするとでもお思いですか?」
首を横に降るアルベルト様。
そうか。イエスかノーかの問いならやり取りは成立するのか。
って、面倒すぎるわ!
「『無理に喋らなくていいのよ。私、アル様が喋らなくても、アル様の傍にいると落ち着くの』」
「っ!?…記憶が戻ったのですか!?」
おおぅ。
喋った!アル様が、喋った!
てか、すっごいイケボなんだけど。
ここまで無音の不意打ちイケボはやめて欲しい。
不覚にも声にときめいたわ。
「戻っておりません。ただ、いろんな人からミレイの言動を聞いたので、こんなこと言うコかなぁ、という想像できたというか」
それにしても、そんなしっかり当たるとは思わなかったけど。
「……」
少し俯くアルベルト様。
愛しのミレイちゃんの記憶が戻ったわけじゃ無いと分かってテンション下がるのは分かるけどさ。
「アルベルト様にとっては、喋らないことをまるごと受け入れてくれたミレイが突然それを忘れて、やり切れないと思います。
ただ、今の私が、ミレイと同じようにアルベルト様を全肯定して受け入れることは御座いません。
気心の知れた相手となら、言葉がなくても分かり合えたり、互いに無言でも居心地が良かったりするこもあるでしょうけれど、よく知りもしない相手にそれは無理です。
まだよく知らない相手とわかり合うには、言葉を交わすことが大事だと思います。
それに、相手の言葉に対して何の言葉を返さないというのも、ある種の意思表示になってしまうと思います。
無視したと思われたり、言葉を返す必要がないと軽んじられたと思われたり、あるいは相手の都合よく無言の肯定ととられたり…そういったことはありませんでしたか?
アルベルト様が言葉を控えるのは、自分の言葉が人を傷つけるのことに心を痛めてのことなのでしょう。
しかし、アルベルト様が言葉を返さないことに傷ついた人もいらしたのではないですか?」
「……」
アルベルト様は、悲しげに目をそらす。
多分心当たりがあるのだろう。
「自分の言葉が相手を傷つけるよりは、無言のせいで傷ついた方が罪悪感が少ないですか?それも少し分かります。
でも、無言のために起こったことというのもアルベルト様の選択の結果だと思います。
話すも話さぬもアルベルト様が選ぶことで、私が口を出すことではございません。
そして、どんな言葉であっても他人というものは、勝手に傷ついたりするものです。それは仕方ありません。
でも…アルベルト様が紡ぐ言葉で繋がっていくものを、初めから諦めてしまっているのは勿体ない、と私は思うのです」
アル様が何かを言いかけて、でもやはり口を閉じてしまう。
「あ。話すも話さぬも口を出すことではないとは申しましたが、アルベルト様、本日の用件を聞く権利は私にあると思います!折角のローゼ様とのお茶タイムに入ってきたからには、ちゃんと言うべきだと思いません?」
アルベルト様は困った顔をして、それから意を決したように一つ頷いた。
「…用はもう済みました。今のミレイ嬢から見て、私がどう見えているのか、それを訊いてみたかったのです」
そういって微笑むと、アルベルト様は場を辞した。
「アルベルト様があんなに長く話したのを久々に聞きました。ミレイ様は、なんというか…すごいですね」
私のは、すごいと言うか、無遠慮なだけな気はする。
アルベルト様が今後も自分の言葉を伝えることを続けるかどうかはアルベルト様次第だ。
「さ、それよりも、ティータイムを続けましょう、ローゼ様!」
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