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決意
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数日後、あのラーメン屋の佐藤さんから連絡があった。車の手配がついたので爺ちゃんにラーメンを食べさせてあげたいという。
母親がホームに連絡を取り、翌日の夕方には爺ちゃんを迎えに行く事になった。親父も何とか仕事を切り上げて同行するという。家族全員での食事なんて何年振りだろう。そして、爺ちゃんと佐藤夫妻は二十数年ぶりの再会を果たした。
「懐かしい。あの頃と同じだ。この店でこのラーメンをまた食えるとは夢にも思わなかった。佐藤さん、何とお礼をいったらいいか……」
爺ちゃんは泣いていた。母さんももらい泣きしている。
「柳原先生、先生に受けた御恩はこんなことでは返しきれません」
佐藤さんも泣きながら爺ちゃんの手を握った。
爺ちゃんは美味そうにラーメンをすすった「美味い、美味いよ佐藤さん、あの頃と全く変わらない。やっぱりここのラーメンは日本一だ」
後で聞いた事だが佐藤さんは爺ちゃんの身体を気遣って、母さんに相談の上、爺ちゃん用にレシピを変更したのだという。塩分や脂肪分を控え、それでもほぼ同じ味が出せるように、毎日試作を重ねたという。実際、家族四人共同じラーメンを食べたが、この前に食べたラーメンとほとんど違いは無かった。強いて言えば若干薄味であったくらいだ。母さんによれば、元々爺ちゃんは薄味の病院食に慣れているから、むしろこのくらいの方が美味しく感じるはずだという。新一は知らなかったが、佐藤さんに頼まれて母さんも何度か試食をしたようだ。
そこまでしたのか……佐藤さんの爺ちゃんに対する想い。そしてそのプロ根性に感動した。
新一は先日、松子さんに見せてもらった相良少尉の手紙を思い出した。美代子さんに宛てた手紙。人は一人で生きている訳ではない、助け合い協力しあって生きていかねばならない。正にその通りだ。
爺ちゃんと佐藤夫妻は昔話で盛り上がり、話の途中、佐藤夫妻は何度も何度も爺ちゃんに頭を下げていた。
爺ちゃんをホームに送り届けた後、自宅に着いたのは十九時半だった。この時間に家族三人がそろっている事など滅多にない。今しかない……
「ねえ親父、母さんも、ちょっと話したい事あるんだけど」
「何だ、改まって。母さんビール開けてくれ、グラス二つな。母さんも飲むなら三つ」
前回、親父と食事に行ってから父子の関係はかなり修復された。こうして親子でビールを飲むなど、以前の新一では考えられない事だった。
「俺、医学部受験してみようと思う。バイトもする。来春は無理だけど、二年……期間を決める」
十秒程の沈黙の後、浩一は静かに言った「もう決めたのか?」
「うん」
「新ちゃん。どうしてそう考えたの?」母、幸恵はあえて平常心を保っている様であった。
「説明は難しいけど、大津島に行ったからかも知れない」
正直なところ、何で? と聞かれても上手く答えられない。でも、大津島に行ったから。あの時代を体験したから、考えが変わったのだ。
「急に言われても……新ちゃん本気なの?」
「本気だよ」
今までの行いから信じて貰えるとは思っていない。でも本気だ。
「予備校代ぐらい出してやる。バイトもしなくていい。その代り死ぬ気で頑張れ」
浩一はそう言うと一気にビールを飲み干し、自室に入っていった。
新一は爺ちゃんのベッドの隣に腰を下ろして、参考書を開いた。飽きてきた時は爺ちゃんの時計を眺める。そしてまた参考書を開く。以前のように勉強が苦ではない。目的があるという事は人を強くさせるのだろう。まだ始めたばかりだが頑張れそうな気がする。
親父はすぐに予備校に行ってもいいと言ってくれたが、それは来春からにした。まずは予備校での授業についていく為、最低限度の学力を身につける必要がある。今から約七カ月、まずは中学レベル、そして何とか普通の高校生レベルまでもっていきたい。予備校はそれからだ。黙って金を出してくれる親父の気持ちも無駄にすることはできない。
窓から空を見上げると羽田に向かってゆっくりと降下していく飛行機が目に入った。
「新一。爺ちゃん今、夢を見ていた」
「どんな?」
「潜水艦の中だった。相良少尉が爺ちゃんにその時計を渡している場面だった。夢だったから少尉の言葉がはっきりと聞こえた」
「何て言ってたの?」
「新一によろしく。そう言っていた」
「えっ?」
「その時計をお前に渡したから、そんな夢を見たのかもしれない。新一、がんばれよ」
そう言うと賢一はまた寝てしまった。
「うん。頑張るよ」
爺ちゃんの夢は夢ではなく、案外本当の事だったのかもしれない。
相良君。そうだ相良君が回天で突撃した日はたしか八月四日……明後日か、靖国神社に行ってこよう。
母親がホームに連絡を取り、翌日の夕方には爺ちゃんを迎えに行く事になった。親父も何とか仕事を切り上げて同行するという。家族全員での食事なんて何年振りだろう。そして、爺ちゃんと佐藤夫妻は二十数年ぶりの再会を果たした。
「懐かしい。あの頃と同じだ。この店でこのラーメンをまた食えるとは夢にも思わなかった。佐藤さん、何とお礼をいったらいいか……」
爺ちゃんは泣いていた。母さんももらい泣きしている。
「柳原先生、先生に受けた御恩はこんなことでは返しきれません」
佐藤さんも泣きながら爺ちゃんの手を握った。
爺ちゃんは美味そうにラーメンをすすった「美味い、美味いよ佐藤さん、あの頃と全く変わらない。やっぱりここのラーメンは日本一だ」
後で聞いた事だが佐藤さんは爺ちゃんの身体を気遣って、母さんに相談の上、爺ちゃん用にレシピを変更したのだという。塩分や脂肪分を控え、それでもほぼ同じ味が出せるように、毎日試作を重ねたという。実際、家族四人共同じラーメンを食べたが、この前に食べたラーメンとほとんど違いは無かった。強いて言えば若干薄味であったくらいだ。母さんによれば、元々爺ちゃんは薄味の病院食に慣れているから、むしろこのくらいの方が美味しく感じるはずだという。新一は知らなかったが、佐藤さんに頼まれて母さんも何度か試食をしたようだ。
そこまでしたのか……佐藤さんの爺ちゃんに対する想い。そしてそのプロ根性に感動した。
新一は先日、松子さんに見せてもらった相良少尉の手紙を思い出した。美代子さんに宛てた手紙。人は一人で生きている訳ではない、助け合い協力しあって生きていかねばならない。正にその通りだ。
爺ちゃんと佐藤夫妻は昔話で盛り上がり、話の途中、佐藤夫妻は何度も何度も爺ちゃんに頭を下げていた。
爺ちゃんをホームに送り届けた後、自宅に着いたのは十九時半だった。この時間に家族三人がそろっている事など滅多にない。今しかない……
「ねえ親父、母さんも、ちょっと話したい事あるんだけど」
「何だ、改まって。母さんビール開けてくれ、グラス二つな。母さんも飲むなら三つ」
前回、親父と食事に行ってから父子の関係はかなり修復された。こうして親子でビールを飲むなど、以前の新一では考えられない事だった。
「俺、医学部受験してみようと思う。バイトもする。来春は無理だけど、二年……期間を決める」
十秒程の沈黙の後、浩一は静かに言った「もう決めたのか?」
「うん」
「新ちゃん。どうしてそう考えたの?」母、幸恵はあえて平常心を保っている様であった。
「説明は難しいけど、大津島に行ったからかも知れない」
正直なところ、何で? と聞かれても上手く答えられない。でも、大津島に行ったから。あの時代を体験したから、考えが変わったのだ。
「急に言われても……新ちゃん本気なの?」
「本気だよ」
今までの行いから信じて貰えるとは思っていない。でも本気だ。
「予備校代ぐらい出してやる。バイトもしなくていい。その代り死ぬ気で頑張れ」
浩一はそう言うと一気にビールを飲み干し、自室に入っていった。
新一は爺ちゃんのベッドの隣に腰を下ろして、参考書を開いた。飽きてきた時は爺ちゃんの時計を眺める。そしてまた参考書を開く。以前のように勉強が苦ではない。目的があるという事は人を強くさせるのだろう。まだ始めたばかりだが頑張れそうな気がする。
親父はすぐに予備校に行ってもいいと言ってくれたが、それは来春からにした。まずは予備校での授業についていく為、最低限度の学力を身につける必要がある。今から約七カ月、まずは中学レベル、そして何とか普通の高校生レベルまでもっていきたい。予備校はそれからだ。黙って金を出してくれる親父の気持ちも無駄にすることはできない。
窓から空を見上げると羽田に向かってゆっくりと降下していく飛行機が目に入った。
「新一。爺ちゃん今、夢を見ていた」
「どんな?」
「潜水艦の中だった。相良少尉が爺ちゃんにその時計を渡している場面だった。夢だったから少尉の言葉がはっきりと聞こえた」
「何て言ってたの?」
「新一によろしく。そう言っていた」
「えっ?」
「その時計をお前に渡したから、そんな夢を見たのかもしれない。新一、がんばれよ」
そう言うと賢一はまた寝てしまった。
「うん。頑張るよ」
爺ちゃんの夢は夢ではなく、案外本当の事だったのかもしれない。
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