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市原サービスエリア
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三枝京子は千葉県警察本部からの帰り道、川島浩一の車の中でずっとふくれていた。
「あたしには話せないってどういう事。その為に行ったのに」
先程、山城という刑事が三枝さんには見せられない。と言った内容について京子は何度も浩一に、教えてくれと催促していた。
「君がショックを受ける。トラウマにでもなったら困る」
浩一の車は千葉東インターから京葉道路に乗り、木更津方面に向かった。せっかくなので、帰りはアクアライン利用する事にしたのだ。アクセルを踏み込むとC63AMGのエンジンが水を得た魚のように軽やかに回っていく。蘇我インターを超えると、辺りはいきなり田園風景に変貌した。都心から一時間程の距離だが、この辺りまで来ると旅行でもした気分になってくる。
市原サービスエリアに車を停め、二人は少し遅い昼食をとる事にした。都会のパーキングエリアと違って、周りは緑に囲まれ、秋の空気がすがすがしい。
「せっかく千葉まで来たのだから、何か地の物でも食べようか」
「うん」京子は子猫のように川島のシャツを弄びながら「あたし海鮮丼」と言って目を輝かした。
「海鮮丼で君の機嫌が直るなら安いもんだ」
「ううん。それとこれとは別。あたし絶対聞くから」
まだ京子は諦めていないようである。
「今話したら、間違いなく君はその海鮮丼を食べる事が出来なくなる」
浩一の険しい表情を見た京子は何か言おうとしたが、黙ってフードコートに向かって行った。
食事の後、二人は缶珈琲を買って喫煙コーナーに行った。寒い屋外で飲む甘くて暖かい缶珈琲に勝るものが、果たしてこの世にあるだろうか? 残念ながら今日はとても暖かい。
浩一が初めて缶珈琲を飲んだのは中学二年生の時だった。冬のある夜、施設の庭で夜空を眺めていた。一人で星を眺めていたら、涙が溢れて止まらなくなった。何が悲しいのか分からなかったが涙が止まらなかった。その時、園長が何も言わずに暖かい缶珈琲を浩一の手に握らせた。苦いのに甘くて、暖かくて、何故か分からなかったが、とても幸せな気分になった。
「何考えてるの? あたし先生の論文読んだのよ。それで、犯罪心理学にとても興味があるの。香苗はかわいそうだけど、入谷は掲示板にも書かれている通りの最低な奴。彼、拷問されたんでしょ? 香苗が言ってたわ。あたし誰にも言わないって約束するから教えて」
京子の目は好奇心に溢れていた。浩一と一緒にいることで恐怖より好奇心の方が勝っているのだろう。
「昨夜はガタガタと震えていたじゃないか」浩一は甘い缶珈琲を飲みながら、少し冷たく言い放った。
「いじわる!」京子は煙草を消して、一人で先に車に戻っていった。
「あたしには話せないってどういう事。その為に行ったのに」
先程、山城という刑事が三枝さんには見せられない。と言った内容について京子は何度も浩一に、教えてくれと催促していた。
「君がショックを受ける。トラウマにでもなったら困る」
浩一の車は千葉東インターから京葉道路に乗り、木更津方面に向かった。せっかくなので、帰りはアクアライン利用する事にしたのだ。アクセルを踏み込むとC63AMGのエンジンが水を得た魚のように軽やかに回っていく。蘇我インターを超えると、辺りはいきなり田園風景に変貌した。都心から一時間程の距離だが、この辺りまで来ると旅行でもした気分になってくる。
市原サービスエリアに車を停め、二人は少し遅い昼食をとる事にした。都会のパーキングエリアと違って、周りは緑に囲まれ、秋の空気がすがすがしい。
「せっかく千葉まで来たのだから、何か地の物でも食べようか」
「うん」京子は子猫のように川島のシャツを弄びながら「あたし海鮮丼」と言って目を輝かした。
「海鮮丼で君の機嫌が直るなら安いもんだ」
「ううん。それとこれとは別。あたし絶対聞くから」
まだ京子は諦めていないようである。
「今話したら、間違いなく君はその海鮮丼を食べる事が出来なくなる」
浩一の険しい表情を見た京子は何か言おうとしたが、黙ってフードコートに向かって行った。
食事の後、二人は缶珈琲を買って喫煙コーナーに行った。寒い屋外で飲む甘くて暖かい缶珈琲に勝るものが、果たしてこの世にあるだろうか? 残念ながら今日はとても暖かい。
浩一が初めて缶珈琲を飲んだのは中学二年生の時だった。冬のある夜、施設の庭で夜空を眺めていた。一人で星を眺めていたら、涙が溢れて止まらなくなった。何が悲しいのか分からなかったが涙が止まらなかった。その時、園長が何も言わずに暖かい缶珈琲を浩一の手に握らせた。苦いのに甘くて、暖かくて、何故か分からなかったが、とても幸せな気分になった。
「何考えてるの? あたし先生の論文読んだのよ。それで、犯罪心理学にとても興味があるの。香苗はかわいそうだけど、入谷は掲示板にも書かれている通りの最低な奴。彼、拷問されたんでしょ? 香苗が言ってたわ。あたし誰にも言わないって約束するから教えて」
京子の目は好奇心に溢れていた。浩一と一緒にいることで恐怖より好奇心の方が勝っているのだろう。
「昨夜はガタガタと震えていたじゃないか」浩一は甘い缶珈琲を飲みながら、少し冷たく言い放った。
「いじわる!」京子は煙草を消して、一人で先に車に戻っていった。
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