蓮に守護を、茉莉花に香りを

柊冬音

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1章

3話(後編)

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 村から川に沿って遡ること一日半。道のりは驚く程順調だった。途中の村で一夜を明かし、山に分け行った。途中で1度バケモノに出くわしたが、用心棒達が一斉に矢を射かけ、その隙に振り切った。
「別に、俺達は退治屋じゃねえからな。逃げられるんなら、死人が出る前に逃げるが勝ちって訳よ」
 風太はそう言って、莉凛香の頭を軽く叩いた。風太は何かと莉凛香を気にかけてくれているようだった。
「おおい!お前達!緑芽峠が見えたぞ! 」
「もうか、今回は順調に来たもんだなぁ」
 一行はさんざめいた。風太が、莉凛香の後頭部をとん、と叩いた。
「ほら、嬢ちゃんも見てみな。笑っちまうから」
 莉凛香は河童の手を引いて男達の間に滑り込み、緑芽峠を見下ろした。
「すごい、これがあなたの故郷の景色なの?」
 河童は恥ずかしそうに頬に手をやった。
 見渡すかぎり、まるで平原のようだった。木々の高さが麓に行くにつれ高くなっているから、平らな地面みたいだ。今は秋口だから葉はまばらで、燃えるような赤と濃い黄色ばかりだが、芽吹きの季節になれば、本当に平原に見えかねない。
「ほぇー、奇妙なもんだなぁ。普通、こういう山なら麓の村の連中が切り出すから山頂の木の方が生い茂ってくるとか、よく育ってるとかしてそうなもんなのに。この辺の木は、むしろ若い木やチビばっかだ」
 莉凛香の隣に、狸がひょっこりと顔を出した。物珍しげに緑芽峠を見渡している。
「…………」
 親方と一緒に少し先で立っている守羅が振り返った。淡く七色の光を放つ黒瞳が細められる。内側に寄った眉が、守羅の内心を如実に物語っている。莉凛香の隣で、狸は身震いした。
 視線が狸から逸らされて、莉凛香に移った。射るような視線は緩んで、また親方に戻っていった。
「どうだ、びっくりしたろ?」
 風太はアハハ、と豪快に笑った。
「ええ、とっても。でも、本当に不思議。どうしてこんなふうになったの?」
「それはな、」
 風太は屈んで莉凛香の耳元で囁いた。
「この山の天辺には、ゆうれいが出るんだ」
「えっ」
 莉凛香は驚いて風太を見た。その顔は、子供をおどかしてやろうという企みでニヤついていた。
「……もう、おどかさないでよ」
「いや、鬼がいるのは本当らしい。伝説が残ってる。俺は見たこたぁねえが、向こうの村やこの辺を通る奴らが偶に消える。……連れて行かれてるって噂だ。緑芽峠まで1人で行き来するのはおすすめできねぇな」
 風太は身を起こして、真面目な表情で言った。
「そいつが火の玉を飛ばしやがるから、山の天辺では木が育たねぇんだそうだ。村人達も鬼を怖がって滅多に山の方には近づかねえから麓の木は育つ。だからこうして山頂から眺めると平らな原っぱに見えるって訳だ」
「へぇ……。じゃあ、悪い妖怪なのね? 」
「そうだ、退治するか? それが嬢ちゃんの使命なんだろ? 」
 河童のぬめった手を軽く撫で、莉凛香はちょっと笑った。
「今の私は用心棒見習いだもの。無理に戦って、彼女を危険に晒したりしないわ」
「フッ……いい子だ」
 風太は頷いた。目線の先では、守羅が物言いたげにしていた。
「……さて、そろそろ行くか」
「うん。もしかして、私達にここからの景色を見せるために、気を使わせちゃった?」
 莉凛香がそう問うた時だ。
 視界が朱色に染め上げられた。完全に囲まれてしまった。炎からは離れているものの、肌を熱が嬲る。
 鬼火だ。
 一行に緊張が走った。莉凛香と河童、そして狸を背に庇うように、5人が円の形になった。莉凛香も河童の手を離して、封魔刀を構えた。誰もが息を詰めて、どんな小さな変化も見逃すまいとしている。
オオォォォォ……オオォォォォォォォ……
 どこからともなく恐ろしい声が響いてきた。誰かに手首を掴まれ、そのぬめりで河童だとわかった。少し目線をやって、手首を握るその手を優しく解いた。
 声はどんどん大きくなった。近づいてきているのだ。
『オオオオオ……恨めしや……あな恨めしや……』
 不意に炎の壁を突き破って鬼が現れた。長い白い衣の裾を引きずって、ゆっくりゆっくりと動いている。身の丈は7、8尺はあるだろうと思われた。
『河童の娘め……許すまじ……許すまじ……』
 地の底から湧き上がってきたかのような、どす黒い情念の篭った声。2本の角が天を刺し、炎が蒼白な面を赤く染め上げる。その表情はまさしく般若。
『なるものかよ……私の山で、祝言なぞ挙げさせてなるものかよ……』
 うわ言のように1人呟き続けながら、鬼はゆっくりと莉凛香達の前を横切る。思わず息を止めて見守った。
 鬼はただすらに前を見つめたまま去って行った。後には木々が焼け焦げて無惨な姿となって残っている。莉凛香は鬼の背を見てほっと息をついた。封魔刀を鞘に納める。無意識のうちに懐の膨らみを撫でた。
 守羅を見上げると、剣呑な表情で、鬼が消えた方向を見つめていた。
「守羅……?」
「親方、アレはやっぱり、アレですね」
「そうだな」
 守羅の言葉に、親方は頷いた。親方と目線を合わせた河童の顔は、青色になっていた。
「俺達の仕事はアンタをこの山の泉に帰してやることだが、正直今は無理だ。あの鬼、ありゃ今度祝言を挙げるっつうアンタの姉御が狙いだろう。どうする?」
 河童は葡萄色の瞳を揺らがせた。しかし、強い力で莉凛香の手首を掴み、鬼の消えていった方を見つめた。
「親方、彼女を助けてあげて。お願い……」
 莉凛香は親方の赤茶の瞳をじっと見つめた。
「……わかった。送り届ける先が無くなっちまうってのも、困るしな。何より、助けられるかもしれねぇモンを見捨てるってのも寝覚めが悪い。野郎ども、褌締めてかかれよ! 」
『おうよ! 』
「わかった」
 幾多の修羅場をくぐり抜けてきた男達は威勢よく応えた。
「ひ、ひえぇ、あっしは嫌ですぜ、あんなおっかないのがいる所に行くなんて!」
 逃げようとする狸の首根っこを、親方ががっちり掴んだ。
「お前も来るんだよ。そもそもお前、役に立つからって付いて来たんだろうが? 」
「そっそれは……」
「つべこべ言わずに付いて来い。あと、アンタ、自分の家の場所わかるか? 」
 河童は頷いて、鬼の向かった方向より若干ずれた場所を指した。
「よし……。なら、ここからは案内して貰ってもいいか。俺が先頭を行く。アンタの隣には嬢ちゃんと守羅がつく。風太、山彦、黄色、お前達は殿だ。あの鬼が居るような山に他の三下が居るとは思えんが、念の為警戒しておけ」
「任せてくれ、親方」
 風太にちょいと背中を押され、莉凛香は一行の前に立った。親方の、3日分程の荷物を背負った背は頼もしい。
 河童の指し示した方角へ、峠を下って行く。親方は時々立ち止まって、河童に道を尋ねた。
「 この泉か……! 」
 潅木の道を踏み折って越え、先頭を進んでいた親方が声を上げた。
 それは、生い茂った木と尖った潅木が天然の鎧を果たし、人も妖怪も滅多なことでは近寄らない秘境だった。澄んだ水が蒼く、水底の岩場からは清水が滾々。身体を洞窟の中に隠し、あの「長老」の甲羅程の大きさを露にした泉だ。岩場には所々黒い陰が差していて、水草の揺れ具合からして他の水場に繋がっていそうだ。
「凄い……。とっても綺麗ね」
「ああ……普段この山で道を外れるなんてしねえからな。俺も見たのは初めてだ、絶景だな」
 莉凛香と風太は言い合った。河童は顔の緑を濃くした。黒っぽくなった肌の中で、白目が三日月形に浮き上がって見える。
 河童は泉の縁に立って、頭を水に浸けた。
 こぽこぽ、と小さな泡が上がってくる。
 こぽこぽ、こぽこぽ、こぽこぽこぽ……
 銀色の泡はどんどん増えていく。水は緑を深めた。
 水が膨れ上がった、ように見えた。泉を埋め尽くす程の河童だった。河童の一族だ。
 その中で最も大きな河童に歩み寄り、親方は膝をついた。
「初めまして、河童。事情はそこのお嬢さんから聞いたと思いますが、俺たちは彼女を護衛してきました。で、今からここに鬼が来るはずです。アレは強い。生前の怨みは相当のものだった。はっきり言って、あなた方じゃ敵わない。今すぐ逃げて欲しい」
 大きな河童は親方の目をじっと見つめ返した。そこから何を読み取ったのか、従えている仲間に向かって、何やら説明しているようだ。
 大河童の指示に従って、甲羅に覆われていない腹に皺のよった女河童達が、小さな河童を数匹ずつ連れて、岩陰へと潜っていく。
 大河童を含めた、緑の明るく鮮やかな連中は、それをただ見送った。
「お前達、戦うつもりか? 無駄な犠牲だ、あの女のことは隠れちまって一時的にやり過ごした方がいいんじゃ……」
「忠告感謝する。だが、決めていた事だ。……一族の者の祝言の度に隠れて過ごすのにも、もう我慢ならない」
 大河童はがらがらに乾いてひび割れた声を発した。その時、莉凛香の背筋を悪寒が駆け上った。守羅が鋭く振り返った。
「親方! 」
「そして、もう遅い……」
 視界が赤橙色に染まる。鬼が来たのだ。
「きゃっ」
「ひえぇぇぇ……」
 突風が巻き起こり、莉凛香はよろめく。泉の傍に座っていた河童が泉に落ちた音が聞こえた。風太が太い腕で背中を支えてくれる。視界の端で、狸が走っている。鬼火は突風に乗り、莉凛香の隣を駆け抜けた。泉の上に炎が躍り、逃げ遅れた河童達が犠牲となった。もし標的となっていたら、莉凛香もただではすまなかっただろう。
「クソっ! 応戦しろ! 守羅、結界を! 」
「任せて! 」
 守羅が両掌を前に向け、突風に対する防壁を創り出した。炎が遮られ、蛇行するような形にまとまっていく。生き残った河童と人間は、炎の壁の間にできた安全地帯に逃げ込んだ。
「やっぱり、妖術の火は軌道を変えて逃すのが精一杯だな……」
 守羅が呟く。額が赤く輝いている。顔も髪も照らされて、真っ赤になっている。
 しかし、炎が防がれた程度で鬼は止まらない。ゆっくりゆっくりと泉に近づき、長い袂からは、長く鋭い、太刀のような爪がのぞいている。
「クソっ! アレを泉に近づけるな! 」
 守羅が叫ぶ。守羅自身は、場を覆い尽くしそうな炎を制御するのに手一杯だ。
 風太が小刀を投擲した。しかしそれは、鬼に届く寸前、長い髪に巻き取られた。おかに居た人間は咄嗟に距離を取った。凄まじい勢いで放たれた短刀が、泉の奥にいた河童の喉に突き刺さる。その河童は短刀の勢いで仰け反り、そのまま沈んで行った。
「クソっ、あん畜生め! 」
 風太が毒づく。鬼の爪に引っ掛けられて、河童達が宙を舞う。青い血が飛び散った。腥い匂いと焼け焦げの匂いが、清浄な空気を穢していく。
 莉凛香は封魔刀を何とか引き抜いた。鞘は地面に落ちるままにして、よろめきながらも走る。
「たあぁっ! 」
 鬼の左手の爪と、刃が衝突した。刃は半ばまで爪を切断しながらも、鬼の髪に莉凛香ごと投げ飛ばされた。
「きゃあっ! 」
「嬢ちゃん、大丈夫か! 」
 跳ね飛ばされた莉凛香を、風太が受け止める。
「いたた……」
「ったく、言ってる場合か! アイツ、俺たちのことなんぞちっとも気にしてねえな! どうするんだ!? 」
 視線の先では、鬼が次々と河童を爪に掛け、炎で炙っている。抵抗しようと爪を掲げる河童もいたが、歯牙にもかけられない。
「アホなこと言うな、風太! 乗りかかった船だ、討ち取るしかねえよッ! 」
 親方も駆け寄り、刀を構える。鋭い刺突は髪の防御の狭い隙間を掻い潜り、鬼の右脇腹を刺した。
 バキッ
 刃先が砕けた。急所でも、これほど固い。
「ちっ。……野郎ども、縄を持ってこい! とにかくコイツを泉から離すぞ!守羅、炎を広げるなよ!  」
 黄色と山彦が縄を投げる。だが、縄は鋭い爪と燃え盛る炎に呆気なく散った。莉凛香は考えた末に、昔習ったまじないを石にかけた。二、三言の短い術だ。
「風太、これを投げてみて」
「任しとけ」
 風太は振りかぶって、石を投げつけた。石はまっすぐ飛び、鬼の左耳にぶつかって砕けた。女の首が折れ曲がって、陸の方を見た。
『忌々しい……』
 首が真逆、背中側に折れたようになって、長い髪が膝裏まで届いている。炎に赤く照らされた白い顔は、恐ろしいまでの怒りに燃えている。
『先に貴様らを殺してやる……術師の娘……許さん……許さんぞ……』
「ひっ……」
 身体が動かない。つり上がった目つきの鋭さに、縫い止められたかのようだ。
 ずり、ずり、と着物の裾を引き摺りながら、死が近づいてくる。
「嬢ちゃん、大丈夫だ! 俺が何とかする! 」
 風太が駆け出した。
「うぉおおおおおお! 」
 短刀の一撃は、爪によって止められたように見えた。が、一呼吸遅れて、爪が折れた。
『何だと……!? 』
 莉凛香の一撃で傷ついていた爪が、衝撃に負けたのだ。
 風太は胴に短刀を振るったが、刃が折れる。
「風太っ! 」
 守羅が叫んだ。額が煌々と光を放ち、守羅は目を瞑った。
 ガキンッ
 重たい金属がぶつかり合ったような音がして、結界がもう片手の爪を弾く。
「しまった! 」
 限界以上の力を出したせいで結界の一部が不安定になり、炎が溢れ出した。
「このままじゃジリ貧だ! 」
「何とか突破口を見つけねえと! 」
 風太が振り返って叫んだ。
「嬢ちゃんの刀だ! アレなら、彼奴を倒せる! 」
 莉凛香ははっと我に返った。そうだ、莉凛香が持っているのは封魔刀だ。あらゆる妖怪を滅する、退魔師一族の誇り。
 柄を強く握り締めて、己を奮い立たせる。
「たああっ! 」
 刀を構えて走る。
『小癪な娘……! その刀……! 』
「きゃっ……! 熱っ……!  」
 鬼の長い髪が天を衝く。吹き荒れる熱風に、近づく事が出来ない。
 封魔刀を地面に突き刺し、何とか踏ん張る。飛んでくる火の粉が、金の髪を焦がす。色素の薄い瞳に、燃え盛る炎はあまりに眩い。
 その時、赤一色だった視界に、色が降り注いだ。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。一瞬遅れて、莉凛香は冷たい水を思い切り被った。
「あなた達は……!」
 炎の壁が無くなり、顕になった水面が、真緑に染まっている。河童たちが両手を掲げ、鬼火を打ち消す程の水流を生みだしていた。
「お前達、今だ、縄を掛けろ! 」
 親方の怒号に、男達が濡れた縄を投げる。鬼の首と手に絡んだ縄が、動きを制限した。
「お嬢さん、少しの間、奴から見えなくしますぜ! 」
 潅木の間から聞こえたのは、あの狸の声だ。莉凛香のことを、無数の木の葉が隠す。
「今なら……! 」
 刀を構えなおした。
『足音が……足音が聞こえるぞ……娘……どこにいる……』
 鬼は髪や爪を闇雲に振り回した。莉凛香は構わず突っ込む。確信があるからだ。
 ガキンッ
 赤く輝く壁が、莉凛香を守る。思い切り刀を振った。
「やあああああっ! 」
 刃は鬼の脇腹辺りから斜めに切り裂いた。帯が緩み、懐からは胸に突き刺さる五寸釘がのぞいたが、それもすぐに塵と化した。
「きゃっ」
 勢いあまって莉凛香はつんのめった。あはは、と笑われて、何よ、と顔を上げる。
 男達は、鬼の抵抗で縄ごと振り回されて、身体を土まみれにしていた。守羅も含めてだ。黒真珠のような瞳は細まって、白い尾は嬉しそうに揺れている。
 そうだ、と莉凛香は潅木の間にちかづいた。
「貴方もありがとう」
 しかし、そっと差し出した手は掴まれなかった。
「ひ、ひぇぇええっ! あっしはまだ殺されたかねぇよ! 」
 そう叫んで、狸は何処かへと走り去ってしまった。別に、莉凛香は無意味に妖怪を滅したりしないのに。
「今日のところは、見逃してあげよう」
「最後の最後まで、小心者だったなぁ」
 守羅と風太が言った。
 ざぶ、ざぶ、と水音がして、泉に注目が集まる。
 河童達が揃って此方を見ていた。彼らは深深と頭を下げ、盃を差し出した。お礼のつもりだろうか。
「こら、いくら今ので男が随分減ったからって、うちの連中は駄目だ。みんなもう買われてるんだから」
 守羅の言葉に、親方は盃を取り落とした。それを見て、守羅はまた楽しそうに笑う。河童達も悪戯っぽく笑った。そして、今度こそ水底の世界へと帰って行った。
 後に残ったのは、莉凛香達とやってきた彼女だけ。
 莉凛香は、泉の縁にぺたりと腰を下ろして、彼女と向かい合った。
「帰れてよかったわね。あと、言い忘れてたけど、お姉さんの結婚、おめでとう。……あなたが頼ってくれて、私嬉しかった」
 河童は水の中から腕を伸ばし、莉凛香の頭に手を回した。
 どぷん。
 莉凛香の頭を水中に引き込んで、河童は、莉凛香の耳元に顔を寄せた。鼓膜を水が震わせる。
『ありがとう』
「……ぷはっ」
 莉凛香は解放されて、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。水面はもう凪いでいる。
 河童。人里離れた川や池、泉に住み、頭の皿から清らかな水を吸収する。その言語は水中でしか意味をなさない。古来から人と共存してきた妖怪。
 きょとんとしたままの莉凛香を、風太が立たせた。
「ほら、嬢ちゃん……。仕事も終わったし、帰るぞ」
「はい! 」
 莉凛香は満面の笑みで頷いた。鞘を拾い、布で軽く拭った封魔刀を収める。
「ほら、莉凛香、しっかりして。仕事は終わったとはいえ、帰りも危ないんだから」
 守羅が荷物を持ってくれる。ありがとう、と言うと、今回だけだから、と返された。帰りは無事に帰れるに違いない、という確信があった。
 直感のとおり、川沿いを通る必要もなくなった一行は人間用の歩きやすい道を通り、1日程で帰りついた。
 なんだか、たった数日のことなのに、何年も村を離れていたような気がする。莉凛香は胸を撫で下ろした。

 その夜。莉凛香は、焦げ臭い匂いで目を覚ました。台所の火を消し忘れてしまったのかしらと起き上がった。
「起きたのか。丁度いい」
 傍らに守羅が立っていた。ほら、と投げ渡されたものを咄嗟に受け止めた。莉凛香の荷物が入った背負いつづらだった。守羅も荷物を抱えている。
「火付けにやられた。火が回る、急いで」
そう言われてようやく気づいた。辺りがえらく明るい。まるで鬼火に囲まれた時のように、家全体が赤赤と燃えていたのだ。
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