BLACK CONQUEROR ー黒の征服者ー

立居知敏

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邂逅

カモンPMC6

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そういえば、まだ理由を聞いていなかった。。お父さんは従軍経験もないし、格闘家でもない。オマケに飛びっきりの馬鹿者だ。選ばれる理由なんてない。思い出した未悠は質問した。

「もっとその理由を聞かせて下さい。」

「いいよ。我々はPMCだと言ったよね。雑に言ってしまえば戦場の人材派遣会社だ。だから我々は傭兵であると同時に人材を探し出すプロでもあるんだよ。」
「今回の案件が飛び込んで来た時、適任者がいないか同業者のネットワークやデータベースも借りてトコトン探した。世界中の紛争、デモ、テロに関わる人間をくまなくね。犯罪者をについても知りたかったから、警察のデータベースもちょっと」したかな」

 何やら雲行きが怪しい。自分が生まれる前お父さんが何をやっていたかについては
実はそこまで知らない。まさか犯罪歴があるのではないかという不安が未悠の脳裏を掠める。

「199X年。」

万金の眉がピクリと動く。

「ある工務店と反社会勢力との間にちょっとした抗争があった。工務店はショバ代を求められていたが、工務店は断固拒否。そこから発展した抗争だ。」
「反社の連中はゴルフクラブや金属バットを持って殴り込んだ。その程度の武器で十分だと思ったんだろう。だが、そこの工務店にいた奴が強いのなんの。まだ見てくれは若いが、熊みたいに大柄で、目は車のハイビームみたいに光ってる。そいつは反社の人間に突っ込んで行くと、大人を丸めたティッシュみたいに投げ飛ばし、金属バットを握り潰して捩じ切った。」

 ここまで聞いた未悠はなんとなく察した。横目で見えた万金は腕組みをしたまま黙って聞いている。

「敵わないと思った反社の連中は拳銃を持ち出して発砲したが、なんとそいつの腕で防がれた。跳弾したそうだよ。只の腕なのに。」

「反社の連中はどうしても負けたくなかったんだろうね。近くに置いてあった車に乗り、そいつ目掛けて突っ込んだ。正気の沙汰じゃない。普通の人なら轢かれてペチャンコだろう。だがそいつは...バンパーの部分を引っ掴み、そのまま下に潜り込む様にして...。2トン弱もある車にJUDOを仕掛けたんだ。クレイジーだろ?ひっくり返った車の証拠写真があるから、コレはガチだぜ。」

 稀井が例のカバンから写真を取り出そうとしたが、未悠は『十分です』と断った。未悠はもう驚きというよりも呆れた顔をしている。

「なんとなく分かってるとは思うが...それをやった張本人が、君のお父さんという訳だね。他にも調べたらいっぱい出て来たんだぜ。船とぶつかって航行不能にしたり、東京に来た記念で東京タワーに歯型をつけたり...」

「もう結構ですっ!」

未悠は頭を抱え、ちょっと待ってと手で話を遮った。

「お父さん!前からちょっと変わってる馬鹿な人って思ったけど私間違ってたわ!大バカじゃない!超バカファッキンアスホールよ!」

「いやぁ」

万金は頭をかいてニコニコしている。

「褒めてない!」

 未悠は頭を抱えてうずくまった。思えばお父さんの異常性を感じる時は確かにあった。小さい時に両親と2人でお散歩に行った時の事。楽しく3人で歩いていた。
 途中でお父さんがフラフラと車道にはみ出した。昔から、考え事をしていたりスマホ歩きすると真っ直ぐ歩けないお父さんの悪い癖だ。するとお母さんが物凄い剣幕でお父さんの首根っこを掴み、歩道に引き戻すと、

「車が危ないでしょ!!!」

 と叫んだ。あの時はアホなお父さんを心配するお母さん優しいなって思っていたけど、今思えば全然そんなことなかった。をしていたのだ。お父さんは時間が経てばどうにでもなるが、お父さんにぶつかった車がどうなるか分かったもんではない。そういう事だったのか。





 暫く経った後、稀井が未悠に話しかけた。

「未悠ちゃん、ももいいかい?これで分かったろう?お父さんは適任者なんだ。一連のテロ行為を防ぐには、君のお父さんしかいないんだ。もはや世界の命運を担っているとも過言ではない。報酬だって、うんとあげよう。だからちょっと君のお父さんを貸して欲しいんだ。」

「そんな急に言われたって、決めれる訳無いじゃないですか!稀井さんとだって、会ってまだ1時間と経ってないですよ!」

「でも、大事な事なんだ。普通の人にはできない事だって分かってるだろ?」

「でも...」

私の家がお金に困っているのは知ってる。今まで色んな事を諦めた。部活も、塾も、友達と遊びに行くことだって。普通の暮らしがしたい。でも、お父さんは私にとって最後の家族だ。何が起こるか分からない4次元世界になんて行かせられない。



暫く沈黙が続く。
 


2人の様子を伺ってから、万金が沈黙を破る。

「お、おい。行くかどうかを決めるのは俺だろ?」

 2人の反応はない。

「とにかく、今は結論は出せません。今日のところはお引き取り願えますか。」

「分かった。重い決断だからね、考える時間も必要だよね。でも、きっと前向きに考えてくれると信じているよ。」

「お、おい!決めるのは俺だろ?」

 誰も万金には反応しない。

「連絡はここにしてくれ。メールでも電話でもいいから。」

 稀井はさっき渡した名刺を指差す。

「分かりました。」

「ねぇってば!俺が決めることだろ?」

「じゃあ、連絡を楽しみにしてるよ。今日はどうやって4次元世界に行くのかまでは説明できなかったから、知りたかったらこれを読んでくれ。結構重要なことも書いてあるから、1度は目を通しておいてくれよ。」

机に小冊子が置かれた。タイトルは『たのしい 4次元世界』。ふざけるな!
 稀井は荷物をまとめ、連れの男たちと出て行く。

「ありがとうございました。」

未悠も稀井を見送った後、そそくさと自分の部屋に帰って行ってしまった。

リビングには万金が1人残された。ポツンと佇み、窓から遠ざかっていく稀井の車を眺める。稀井の置いて行った名刺を見て、

「俺なんだけどな...」

と呟いた。夕焼けが、虚しかった。







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