『今日も世界で誰かが嘘をついている』

岩崎史奇(コント文学作家)

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『今日も世界で誰かが嘘をついている』

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『今日も世界で誰かが嘘をついている。人魚編』



「人魚って実在したんですね」


「驚いた?」  


「驚きました。まさか海水浴に来て人魚に遭遇するなんて思わなかった。会えて嬉しいです」


「無理しなくていいよ」


「無理してないです」


「ガッカリしたんじゃない?」


「ガッカリしてません」


「本当に?俺、男だぜ?」


「確かに人魚って女性だけだと思ってました」


「本当は女の人魚の方が良かっただろ?」


「いえ、男性の人魚の方がレアだと思うし、マジでお会いできて嬉しいです。嘘じゃないです」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。映画編』


1300円支払ってレイトショーで映画を観ている。


大した山場も無くて最後はお涙頂戴が見え見えの展開で内容はイマイチ。


そして最後にエンドロールが流れ始める…


1300円でも払って観る値打ちが無い映画だったなぁと落胆しつつ、席を立って帰ろうとした瞬間の出来事だった。


俺以外の客が一斉に立ち上がってスタンディングオベーションを始めたのだ。


え?マジで?


この映画、そんなに良かった???


号泣してる奴までいるじゃん。


俺の感性がズレているのか?
 

席を立とうと中腰になっていた俺は、仕方なくそのまま立ち上がってスタンディングオベーションに参加した。


スタンディングオベーションなんて見るのも、やるのも初めてだった。


周りに合わせて自分の金銭感覚的に50円の映画にスタンディングオベーション。


開き直って心にも無い「ブラボー」と言いながらのスタンディングオベーション。


映画好きの自分に対して嘘をついたスタンディングオベーション。


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。時を止める能力者編』


時を止めて、


大学の後輩の萌ちゃんの、


入浴を覗いたり、


萌ちゃんのブラジャーを着けたり、


萌ちゃんのパンティを頭に被った事なんて、


一度も無いよ。


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。バンクシー編』


バンクシー?


海外の有名なストリートアーティスト?


路上で画を書いてる人なんですか?


路上で画を書いてる有名人と言えば・・・


日本人で言えば、裸の大将の山下清みたいな事でしょ?
もちろん知ってましたよ。


そのバンクシーが、どうかしたんですか?


え?
私が消した落書きがバンクシーが書いたものだった?


・・もちろん知ってましたよ。


知った上で私は市の職員として、他の落書きと同じようにキレイに消して街の景観を守ったんです。
ちょっと有名なアーティストだからって特別扱いはしませんよ。


え?
過去にバンクシーの落書きが1億円以上で落札された事がある?


・・・もちろん知ってましたよ。


本当にバンクシーを知っていたし、当然バンクシーの落書きが高額で取引される事も知ってて消したんです。
正しい判断だったと思っています。
後悔はしていません。


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。ゾンビ編』


俺達が通う高校にゾンビが現れた。


逃げ遅れたクラスメイトの女子の高田さんがゾンビに噛まれてしまった。


高田さんが少しずつゾンビに変化し始める。


小学校から同じ学校に通っている親友の松永功太郎が高田さんに近付いていく。


「離れろ松永。お前までゾンビになっちまう」


「アレ、もう助からないパターンのやつだよね?
ゾンビになったら、もう人じゃないから何やっても犯罪にならないよね?」


「おい、松永、お前何言ってんだ?」


「完全にゾンビになる前にJKの乳と尻と太もも触りまくってやるぜ」


「ま、待て松永。バ、バカヤローーッ」


松永は高田さんの乳も尻も太ももも触れずに、返り討ちに合って道連れゾンビにされてしまった。


その後、出動した自衛隊の特殊部隊の手によって全てのゾンビが駆逐された。


松永も高田さんも帰らぬ人となってしまった。





後日、息子の最後がどんな様子だったのか知りたいと、松永のお母さんと小学生の弟の慎太郎が俺の家にやって来た。


松永の家は母子家庭だ。


松永が中学に上がる年に両親が離婚して以来、松永のお母さんは女手一つでパートを掛け持ちしながら2人の息子を育てていた。


「どうして功太郎がゾンビに? あの日、一体何が起こったの?」


「松永は・・・えーと・・・
クラスメイトの高田さんを助けようとして、それで松永までゾンビにされてしまって・・・」


松永のお母さんに「実はゾンビ化してる最中の高田さんの乳と尻と太ももを触ろうとしたら、逆に噛まれてゾンビになって最後死んじゃったんスよ」なんて正直に言えなかった。


「もしかして、功太郎はその高田さんって女の子の事が好きだったのかしら?」


「え?・・あ、はい、そうですね、そうでした。
高田さんの事が好きって言ってました」


松永は隣のクラスの木内さんの事が好きだった。
だけど松永のお母さん的には好きな女の子を助ける為に犠牲になった方が納得できると思った。


ついでに完全に意識を失ってゾンビ化する前に松永がゾンビの群れから、俺を逃がして助けてくれた事にしといた。


松永のお母さんも弟の慎太郎も、松永の勇姿を誇らしく感じているようだった。


「フフフッ、あの子らしいわね」


涙ながらに言う松永のお母さんに心の中で《あの子らしいわねじゃねーよ。バカ息子の事、全然分かってねーな》とツッコんだ。


親友の名誉の為なのか、お母さんや慎太郎の悲しみを和らげてあげる為なのか、自分でもよく分からなくなってきた。


だけど、俺には嘘を積み重ねてあげる事しかできなかった。


「慎太郎。お兄ちゃんみたいに大切な人を守る為に行動ができる大人になって、いつか松永の分もお母さんの事を守ってあげてくれ」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。こ、こんなの初めて編』


す、凄い上手♥


お、大っきい♥


は、激しい~っ♥


こ、壊れちゃう~っ♥


こ、こんなの初めて~っ♥


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。カレー編』


共に55歳を迎えて夫婦2人の時間が増えた。


子供達が皆、家を出て独り立ちしたからだ。


妻は以前よりも料理に力を入れるようになった。


特にカレーは手間と時間を掛けて作っている。


市販のルーは一切使わずに何種類ものスパイスやハーブからカレーを作るのだ。


スパイスが効いた深みのある大人のカレーを洋食屋やホテルのレストランに出てくるようなルー専用の銀の入れ物(グレイビーボートもしくはソースポットと呼ばれている)に入れて出してくれる。


お店で出てきても不思議じゃないレベルの本格派カレーを自宅で食べられるのは贅沢な事だと思う。


でもね・・・


本当はね・・・


そこら辺のスーパーで売ってる定番の市販のルーで作った普通の家のカレーが食べたいんだ。


隠し味なんていらない。
お肉とジャガイモ、玉ねぎ、人参をルーの箱に書いてあるレシピ通りに作ったカレー。


何十年と日本中の子供達を喜ばせてきた市販のルーで作った家カレーが最強に美味しくて大好きだ。


ご飯とルーをスプーンでごちゃ混ぜにしてから食べたーい。


大人の上品なカレーなんてクソくらえじゃーい。


え?じゃあ自分で作って食べろだって?


「私が一生懸命作ったカレーよりも市販のルーのカレーの方が良いの?」って妻の機嫌が悪くなりそうじゃーい。





「次はオーガニック野菜を使ったキーマカレーにチャレンジしてみようかしら」


「丁度キーマカレー食べたいって思ってたんだよ。嬉しいな、楽しみにしてる♪」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。中間テストの日の朝編』


「ヤベェ~、全然テスト勉強してねーよ」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。黒いTバック編』


・お嬢様学校と呼ばれる中高一貫の女子高出身。
・現役の音大生。
・一度も染めた事がないロングの黒髪。
・品格があり上品な言葉遣い。
・自分でお弁当を作る庶民性も持ち合わせている。
・クラシック鑑賞と読書が趣味etc...


独断と偏見によるが今まで出会った女性の中で最も理想的な清楚系美人が百合子だ。
 

出会って少しずつ関係を育んで恋人になった百合子と初めて過ごす夜。


だが、おそらく世界で一番最悪な形で恋人に対する気持ちが無くなってしまった。


100年の恋も冷めるってこういう事なのか?


これが蛙化現象ってヤツなのか?


百合子はTバックを履いていた。しかも黒。


パンティ脱がせたら黒のTバックだったと気付いて清楚なイメージとかけ離れ過ぎていて恋が冷めてしまうなんて…


ど、どうしよう?


別れ話をするべきか?


お互い全裸で今から初めて愛し合おうとしていたタイミングで別れ話?


違う気がする…


とりあえず脱がせたTバックは俺が履かせてあげた方が良いのかな?


違う気がする…


Tバックは手渡しにしようか?


いや、百合子からしてみたら突然Tバック返されて「別れよう」は意味不明だろ。


じゃあ、とりあえず百合子を抱いてから後日改めて別れ話をするのが正解か?


いやいや、それはダメだろ。
気持ちが無いのに抱くのは百合子に対して失礼過ぎる。


そもそも百合子は何一つ悪くないのだ。


「今日はちょっと大人っぽい服装にしてみたの」と言って待ち合わせ場所に現れた百合子。


きっと今夜、初めて大人の女性になる覚悟を決めて、その為の勝負下着が黒のランジェリーでTバックだったんだろうと想像した。


そんな百合子に対して「Tバック履いてたから冷めました」って正直に伝えて別れるのが正解か?


「ごめん。ちょっと、お腹痛くなってきた」
俺は正解が分からず一旦トイレに逃げ込んだ。


今から別れ話をするのが良いのか…
日を改めて別れ話した方が良いのか…


俺はトイレの中で百合子のTバックを握りしめながら考えた。


そもそも俺は百合子の事が本当に好きだったのか?


清楚系の美人が好きなだけで百合子が理想のタイプに近いから好きだと思っただけじゃないのか?


結局は自分勝手な理由で好きになった気になって、自分勝手な理由で気持ちが冷めてしまったんだとしたら俺が全て悪いよな…


正解かどうかは分からないけど、なるべく百合子を傷付けないように関係を終わらせるのが最善だと思い、日を改めて別れ話をする事に決めた。


トイレから出た俺は「お腹の調子が良くならないから今日はごめん」と百合子に伝えた。





ベッドの中にそっと戻したTバックを百合子が見つけて履いた。


「Tバック履くんだね、意外だったよ」


「え?…う、うん。ムレにくいし下着のラインが目立たないからいつも履いてるの」


恥ずかしそうに答えて真っ赤になった百合子の顔を見たら胸がドキドキしてきた。


よくよく考えたら清楚系美人なのにTバックってギャップはアリかも…


「ねぇ百合子、お腹痛いの治った♥」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』






『今日も世界で誰かが嘘をついている。先輩、全部嘘ッス編』


クリスマス、今年も1人だけど淋しくないッス


特別な日だって思ってなくて12月25日も感覚的には6月25日と同じッス


好きな女子いないッス


今は恋愛とか興味ないッス


彼女いない方が楽ッス


男友達とバカやってる方が楽しいッス


彼女作ってクリスマスにディズニーランドのシンデレラ城行きたいなんて思った事ないッス


え?薬学部の目黒さん、彼氏できたんスか?


別にどうでもいいッス


自分には関係無いッス


先輩、本当ッス


強がってないッス


いや、泣いてないッス


雪が目に入っただけッス


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。性欲モンスター夫婦編』


「ねえ、最近ダンナとしてる?」


「う~ん…月に1回あるか無いかかなぁ…」


「ウチは週1ペース」


「マジで?めっちゃ愛し合ってんじゃん。ウチなんか下の子ができてから1回もしてないわ。完全にレスよ」





立花陽子36歳。
今日は大学の同期の友人グループの女子会でカフェに来ている。


私とダンナは結婚10年目で小1の娘と5歳の息子がいる。


だけど毎晩のように体を求め合っている性欲モンスター夫婦だ。


とにかく体の相性が良すぎて性欲が異常に強過ぎる2人。


飽くなき性への探究心を持ち、人様には言えないようなプレイにも果敢にトライしている。


心も体も満たし合える男性と出会って夫婦になれるなんて私は本当に幸せだ思う。


でもね、性欲モンスター夫婦で体力モンスター夫婦でもある私達の本性は、恥ずかしいし引かれそうだし、常軌を逸したノロケと受け取られる可能性もあるから友達でもトップシークレットなのだ。





「ねえ、陽子のトコはどうなの?」


「ウチは・・・月に2回位かなぁ」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。ギタリスト編』


私は大学生で、同い年の伊藤君はフリーター。


私達は同じバイト先で知り合って仲良くなった。


2人でシフトを合わせてバイト終わりにご飯に行く約束をした。 


お互いに好意がある事をお互いが分かっていた。


あとはどちらから気持ちを伝えるのか…


お付き合いするのは時間の問題だった。


そして、その時は今夜だと思っていた。


念の為、ムダ毛処理を済まして、勝負下着を身に着けて、朝まで一緒に過ごす事になっても大丈夫な準備もしてきたわ。





居酒屋で食事を済ませてカラオケに行った。


「ねぇ、伊藤君から先に歌って」


伊藤君は盛り上げる為に私が好きなバンドのアップテンポな曲を入れて歌ってくれた。


だけどこの後、全く予想していなかった展開が訪れた。


伊藤君がカラオケの間奏中にギターを弾き始めたのだ。


勿論本物のギターを持参してきた訳ではない。
エアギターだ。


伊藤君は自ら歌う曲の間奏中にエアギターでギターソロを始めたのだ。
しかも、1曲目から。


大勢でカラオケに行って、お酒も入って2時間以上経って、盛り上がってる時にバカがエアギター弾くのならまだ理解はできる。


しかし今宵は男女2人きりのカラオケで下戸の伊藤君はシラフだ。


エアギターのギターソロでノッてる伊藤君を見て私は思った。


この人、無理。


本物のギターを弾けないクセにデタラメなコードでエアギターなんて、かめはめ波を撃てないのにエアーでかめはめ波を撃つのと同じ事でしょ?
そんな恥ずかしいマネが人前でできる人間は生理的に受け付けないの。


私がドン引きした後も伊藤のギターソロは続いた。


私が歌うバラード曲の間奏中まで伊藤はエアギターをお見舞してきた。
私は愛想笑いしかできなかった。


入店から1時間が過ぎる頃には伊藤のテンションは最高潮に盛り上がり、自ら歌うX JAPANの紅の間奏中にエアーでドラムを叩き出した。


伊藤がエアーYOSHIKIに変貌した時、私は限界が来てしまった。


「あ、ゴメン。実は昨日できた彼氏から連絡来ちゃって…終電無くなる前に帰らなきゃ」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。初めての朝編』


「おはよう・・・すっぴんもカワイイね」


彼と迎えた初めての朝。


初めて私のすっぴんを見た彼。


3秒間の変な間。


おはようから3秒後に絞り出した彼なりの優しさが切なかった。


『今日も世界で誰かが嘘をついている』






『今日も世界で誰かが嘘をついている。高級フレンチ編』


10周年の結婚記念日の為にコツコツとレストラン貯金をして憧れていた高級フレンチの名店に妻とやってきた。


「美味しいね」


「うん、美味しいね」


運ばれてくる料理を食べる度に妻と「美味しいね」と言い合いながら食事を楽しんだ。


でも本音を言うと味は微妙だった。


高級フレンチだからってハードルを上げ過ぎてしまったのか?
それとも庶民の俺の舌の方が高級店の味に付いて行けていないのか?


正直、先月行った食べ放題のチェーン店で食べたしゃぶしゃぶの方が美味しかった。


だけど結婚10周年記念で1人5万円のコース料理を頼んでおいて「あんまり美味しくないね。先月のしゃぶしゃぶの方が美味かったよね」なんて言いたくない。


きっと妻も同じ気持ちなんだと思う。
なんたって10年も連れ添っているから顔見りゃ分かる。


本音では、不味くないけど美味しくもない微妙な味だなと思いながら「美味しいね」と言っている筈だ。


初めての共同作業でウエディングケーキ入刀から10年。


阿吽の呼吸で行われる「美味しいね」と言い合う悲しき共同作業。


5万円かぁ…


5千円のうな重が10回食えたなぁ…





「美味しかったね」


「うん、さすがの味だったね」


「また来たいね」


「うん、今度は結婚20周年の時に来たいね」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。マジックミラー号編』


マジックミラー号?


マジックミラー号って何だい?


え?アダルトビデオの企画物?


僕はそういう下品な類のものは観た事が無いから知らないよ。


本当だよ、アダルトビデオなんか観たこと無い。


進学校から現役で東大に入って勉強漬けで忙しかったからね、観るヒマも興味も無かったよ。


それに僕は卒業したら官僚、いずれは事務次官になって日本を動かす側の人間になる男だぞ。
アダルトビデオなんて下らないものを観ている訳がないだろ。


え?出演?


顔にモザイクかかってるけど僕に雰囲気が似ている奴が出てる?


いい加減にしろよ。
僕がマジックミラー号素人逆ナンパシリーズの童貞筆下ろし企画に出演している訳ないだろっ!


じゃあ今から図書館に行って勉強するから失敬させてもらうよ。


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。菜子ちゃんからの質問編』


「どうしてママはパパと結婚したの?」


5才になる娘の菜子からの質問だ。


6年前、私は付き合っていた彼氏に二股を掛けられていた事が発覚する。


加えて仕事でも大きなミスをして私の心はボロボロになっていた。


そんな時に飲み屋で声を掛けてきた男に甘えて癒やしてもらって…


「弱ってる時に優しくしてくれた男との間に、あなたができたからよ」なんて言えねー。


「優しいパパにママが一目惚れして結婚したの」


「そうだったんだぁ」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。僕達の幸せ編』


僕達から争いを失くす為に必要な事って何だろう?

僕達が幸せになる為には何が必要だろう?

僕が導き出した答えは『嘘』だった…


「今日も綺麗だね」


「いつも美味しい料理を作ってくれてありがとう」


「最近、痩せた?」


「ロングからボブに髪型を変えると元々小顔なのに、もっと小顔に見えるね」


「やっぱり服のセンス良いよね」


「いよっ。収納名人!」


「マジで20代の時より今の方が若く見えるよ」


「君のおかげで毎日幸せだよ」


「君と結婚して本当に良かった」


「生まれ変わっても、また君と結婚したいな」…


僕達から争いは無くなった。

これで正しいと、これが幸せなんだと、毎日毎日、何度も何度も、自分に言い聞かせて生きている。


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。童貞編』


「いや、俺、童貞じゃねぇーし」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。押忍編』


渾身の力を込めて木製バットの根本を蹴った。


空手の試し割りだ。


パキンッと乾いた音が鳴り響いた。


だが、バットは折れなかった。


「足の方が折れたんじゃない?」


「大丈夫です、押忍。
全く痛くありません、押忍。
足折れてません、押忍」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』





『今日も世界で誰かが嘘をついている。ゴム編』


「一人暮らしの男の部屋に女が上がるって、そういう事だって分かって来たんだろ?」


「違うもん、そんなつもりで来たんじゃないもん」


『今日も世界で誰かが嘘をついている』


「え?ゴム無いの?でも大丈夫♪
こんな事もあろうかと私、持ってきてるから♥」





『今日も世界で誰かが嘘をついている。プライド編』


彼氏いなくて、仕事が行き詰まってて、なんか淋しくて、そんな時にマッチングアプリで知り合った。


優しくて清潔感あるし、話が面白いし、全部奢ってくれる。
運転と女性の扱い方とセックスが上手い年上の男の人。


『明日、空いてる?』

『今夜、空いてる?』


誘われる時はいつも前日か当日。


私は完全に都合の良い女だった。


私が彼を好きな事は言葉にしなくても伝わっていると思う。


でも彼は私と付き合う気が無い事は分かっていた。


だから一度も好きって言わなかった。


言ったら負けだって思ってた。


それにきっと、私以外にも女がいる。


もし彼女か奥さんがいたら申し訳ないし、確認する勇気が無いから何も聞かなかった。


都合の良い関係は2年続いた。


いい加減終わらせて次に進まなきゃって思った。


『明日、空いてる?』


『彼氏できたからもう会わない。バイバイ』


私から終わらせたのが私のプライド。


『今日も世界で誰かが嘘をついている』



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