コスモス・リバイブ・オンライン

廃棄星

脱出

「ついに脱出か」

　基地内のメインコンソールを操作しながらそう呟く。
宇宙船ではなくて、ここから発進シークエンスを始めなくてはならなかった。
本当なら宇宙船からできるはずだったんだけど、OSが古いのでその機能が失われているのだ。
　

　まずは発射のために天井を開ける。
虫の侵入は嫌虫機があるので、大丈夫だ。
　次にマスドライバーの起動だ。
レールの展開をして、発進まで３０分に設定した。


　設定完了。すぐにドックに戻る。　
レールの展開も問題はなく、外に続く天井のハッチもちゃんと開いていた。
船に早く乗り込もう。万が一乗り遅れたら台無しだ。


　その時、天井の光源が何かに遮られ、体に影が差した。
確認のため見上げるとそこにはアリがいた。
アリは天井から落下して僕の正面に立ちふさがった。


『緊急事態発生！基地内にアンノウンの侵入を確認！職員は避難を開始してください』

　けたたましいサイレンが鳴り響き、アナウンスが流れる。


　宇宙船は後ろにある。
どうにかこいつを躱して乗り込まないと。
　鉄パイプを取り出して正面に構える。

「どうしよう。勝てる気がまったくしないんだけど」

　ひびが入ってない甲殻は鉄パイプじゃどうにもならない。
覚悟を決めて突撃を敢行しようとしたとき、横から何かが飛んできた。


　それがアリに命中すると爆発を起こし、アリの体を吹き飛ばした。
ロケットランチャー？どこから？
飛んできた方向を見るとそこにいたのはドラム缶の形をした無数のロボットたちだった。

「無人兵器か！」

　攻撃によりアリは攻撃対象を僕から無人兵器群に変えた。
この隙に宇宙船に乗り込もう。


　コクピットに用意しておいた耐Gスーツを着る。
操縦席に座り、ベルトを締めて、デバイスをセットした。
宇宙船の各システムに異常はない。
カメラを起動して外の様子を確認すると、発射口からは続々と虫が基地内に侵入していた。


なんでだよ！？
この基地は嫌虫機で守られていたはずだし、僕の方でも嫌虫機を起動させていた。
見たところレア個体ではない。なんで入れるんだ。


　外にまで伸びたレールの終点に何かがいる。
拡大してみると、そこには羽が生えたアリいた。

「あいつが原因か！」

　あいつが何かしらの能力で普通の虫たちを嫌虫機から守っているだと思う。
ゲームによくある部下の能力を上げる指揮官とかそんな感じの能力だろう。


　残り１５分弱。まだ発射まで時間が掛かる。余裕を持って設定したのが裏目に出てしまった。
無人兵器が虫たちと戦ってくれてるけど、向こうの方が数が多い。
全滅は時間の問題だ。

「どうすれば」

　茫然とタイマーを見ていると、いきなりカウントが短縮され、残り１５分から１０秒になった。

「なんで？」

　あれはメインコンソールからしか操作できないはずだ。
まさかジャンクスターに生き残りがいるのか。
　しかし、そんなはずはない。
基地内を隅から隅まで見て回ったけど誰もいなかった。


　今は考えてる場合じゃない。
発射に備えないと。
耐Gスーツに搭載されているメディカルマシーンを起動する。
そして……

『良い旅を』

モニターにそう表示されると同時にカウントがゼロになった。


　今まで体験したことがないほどのGが体を襲う。
宇宙船の速度は凄まじくレール上に居座っていた羽付きアリを容易く轢き殺した。
僕が意識を保てたのはここまでだった。


　目を覚ましたのはそれから１０分後だ。
正面モニターにはジャンクスターが映ってた。

「綺麗だ」

あんな瓦礫だらけの廃墟の星でもここからだと綺麗に見えた。
ここは宇宙空間。星の海だ。


　よく考えたんだけどあの時、僕を助けてくれたのは基地のメインコンピューターだと思う。
たぶん人工知能が内蔵されていたんだろう。
それが最後に僕を助けてくれたんだと思う。無人兵器の出動から時間の短縮まで彼の仕業だろう。


　本気で反省しないといけないなぁ。
機械コミュ１級が人工知能の存在に気付かないなんて最悪だ。
僕らは彼らと歩む者なのだから。


　もし資格を承認している協会にばれたら怒られる。あの人恐ろしいんだよな。
よしっ！内緒にしとこう。言わなきゃばれないだろう。

そんなことよりも……

「ありがとう」

もし人工知能に届くならそれだけは伝えたいな。

　ジャンクスター脱出完了