コスモス・リバイブ・オンライン

hirahara

文字の大きさ
183 / 816
霧の魔

ヴィニア

しおりを挟む
 フォートレスに近づくと、パイロットの女の子がこちらに気付いた。
なんだか睨んでいる。

「貴方がスワロさんね。私は近衛隊のヴィニア・レラです。貴方の噂は聞いてます。女王から命令を受け、参上いたしました。よろしくお願いします」

 言葉遣いは丁寧だけど、刺々しさを感じた。もしかしたら、田舎に遠征させられたのが嫌だったのかもしれない。
握手を求められたので、彼女の手を握った。
 すると、強く握られてしまった。


 握手をする時、強く握るのがマナーだと何かの漫画かドラマで見た。
それにしても、彼女は強すぎる気がする。これが近衛隊のマナーなのかな。
郷に入れば郷に従えだ。僕も強く握ろう。


「痛い痛い!」
「あっ!ごめんなさい」

 彼女は痛かったようで手をさすり、涙目になっている。
わざとじゃない、事故だ。

「何するんだよぉ……」
「痛かった?強くしすぎちゃったんだ」
「痛くなかったもん!」

 さっきまでの威勢はどこへやら、今はただの女の子に見える。
お詫びに飴をあげよう。お祭りの残りはまだある。


「ひぃ!」

 デバイスから取り出し、彼女にそれを渡そうとしたら、彼女は短く悲鳴を上げ、全速力で逃げて行った。
なんでだろう?
手元を見ると、その原因が分かった。

「間違えちゃった」

 普通の動物の形の飴ではなく、クリーチャー飴の方を出してしまった。
勿論、これもわざとじゃない。


 彼女はどこかに行ってしまったので、ゆっくりとシルフフォートレスの鑑賞ができる。怪我の功名だ。
コックピットの中に入りたいが、さすがにそれは止めておいた。
 眺めていたら、マカラさんがやってきた。さっきのやり取りを見ていたみたいだ。

「すまないね。気を悪くしないでくれ。いつもはあんな子じゃないんだがな」
「大丈夫ですよ。あんな感じの子、知り合いにいますから」

 その知り合いとはパッション君だ。
虚勢を張ったり、ビビったりするところなんかそっくりだと思う。


「ん?それはまさか」

 マカラさんの目はクリーチャー飴に釘付けになっていた。
せっかく出したし、これはマカラさんにあげよう。


「ほう!素晴らしい造形だ。彼のデザインだね。貰ってもいいかい?」
「どうぞ」

 マカラさんはコネコ信者。以前、エンジ島に来た時、広場に飾られた作品に一目惚れしたらしい。
クリーチャーを含め、多くの作品を購入している。彼のようなコネコの作品のマニアはヴィンディス各地にいる。
 マカラさんは舐めずに、自身のデバイスに飴を仕舞った。
融けない様に加工し、コレクションに加えるそうだ。


 フォートレスと共にやってきた整備士はライザさんの古い知り合いらしい。
若い頃、強攻型ウェンディーを共に開発したそうだ。
 彼にフォートレスについて色々教えてもらえた。
機密に当たる箇所はさすがに駄目だったけど、かなり勉強になった。


 フォートレスはこの後、港の守護に回される予定だ。
霧の中へ突撃させるのはリスクが高い。
パイロットの女の子は納得してなかったけど、マカラさんが言いくるめてくれた。


 港は町の部分を含め、技術者たちによって対霧の前線基地に変わる。
家の一部は強制接収。様々な機材の設置や援軍の人の宿泊施設になった。緊急事態だからしょうがない。
 勝手に家を使われた住人は納得はできないだろうけど。そこは後で補償金を出す予定らしい。
それも国が負担してくれるそうだ。


 フォートレスが来てくれたおかげで港の防衛は完全になった。
あとは発生源を特定するだけ。僕も捜索に出る。
霧の中を進むのは危険だがやるしかない。
 出発はFA4の通信装置を改良などを済ませてから。
今のままでは通信ができない。


 改良しても、通信は大幅に制限されたまま。
港や拠点にある装置よりも小型で劣る物だからしょうがない。
それでも近距離通信なら可能になる。ないよりマシだ。
 ちなみに、通信妨害はリンクシステムにも及んでいる。
普通の回線よりはマシだが、かなりの近距離でしか繋がらなかった。


 他にもすることがある。
それを実現するための交渉は終わっているから、後は文面を考えるだけ。
 早くした方がいいのは分かっているけど、これをするのは初めてだから分かりやすい良い文章ができなかった。
結局、他人が書いた物を参考に書くことにした。


 文章を書き始めようとしたら、会議の時間になった。
援軍の人たちも混じる初めての会議。滅茶苦茶荒れそう。
 今回の会議で誰がどこを探索するか決める。
 僕の担当は島の北部。モンスターの領域だ。
危険な場所だけど、押し付けられたんじゃない。自分から志願した。
 NPCの命は有限だが、プレイヤーは復活できる。
これが最もリスクが低い割り当てだと思う。色んな人に反対されたけど。


 それに僕のFA4は今動かせる機体の中で、一番機動力がある。
港はエンジ島の南端に位置するため、飛行できないファルシュではあそこまで行くのに時間が掛かる。
そんな時間は残されていない。
 僕が北部に行くこと以外に、特に荒れることなく会議は終了した。
どこの組織が主導権を取るかなんてくだらない争いもなかったから、予想以上に早く終わった。
しおりを挟む
感想 354

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

姉妹差別の末路

京佳
ファンタジー
粗末に扱われる姉と蝶よ花よと大切に愛される妹。同じ親から産まれたのにまるで真逆の姉妹。見捨てられた姉はひとり静かに家を出た。妹が不治の病?私がドナーに適応?喜んでお断り致します! 妹嫌悪。ゆるゆる設定 ※初期に書いた物を手直し再投稿&その後も追記済

処理中です...