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霧の魔
ヴィニア
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フォートレスに近づくと、パイロットの女の子がこちらに気付いた。
なんだか睨んでいる。
「貴方がスワロさんね。私は近衛隊のヴィニア・レラです。貴方の噂は聞いてます。女王から命令を受け、参上いたしました。よろしくお願いします」
言葉遣いは丁寧だけど、刺々しさを感じた。もしかしたら、田舎に遠征させられたのが嫌だったのかもしれない。
握手を求められたので、彼女の手を握った。
すると、強く握られてしまった。
握手をする時、強く握るのがマナーだと何かの漫画かドラマで見た。
それにしても、彼女は強すぎる気がする。これが近衛隊のマナーなのかな。
郷に入れば郷に従えだ。僕も強く握ろう。
「痛い痛い!」
「あっ!ごめんなさい」
彼女は痛かったようで手をさすり、涙目になっている。
わざとじゃない、事故だ。
「何するんだよぉ……」
「痛かった?強くしすぎちゃったんだ」
「痛くなかったもん!」
さっきまでの威勢はどこへやら、今はただの女の子に見える。
お詫びに飴をあげよう。お祭りの残りはまだある。
「ひぃ!」
デバイスから取り出し、彼女にそれを渡そうとしたら、彼女は短く悲鳴を上げ、全速力で逃げて行った。
なんでだろう?
手元を見ると、その原因が分かった。
「間違えちゃった」
普通の動物の形の飴ではなく、クリーチャー飴の方を出してしまった。
勿論、これもわざとじゃない。
彼女はどこかに行ってしまったので、ゆっくりとシルフフォートレスの鑑賞ができる。怪我の功名だ。
コックピットの中に入りたいが、さすがにそれは止めておいた。
眺めていたら、マカラさんがやってきた。さっきのやり取りを見ていたみたいだ。
「すまないね。気を悪くしないでくれ。いつもはあんな子じゃないんだがな」
「大丈夫ですよ。あんな感じの子、知り合いにいますから」
その知り合いとはパッション君だ。
虚勢を張ったり、ビビったりするところなんかそっくりだと思う。
「ん?それはまさか」
マカラさんの目はクリーチャー飴に釘付けになっていた。
せっかく出したし、これはマカラさんにあげよう。
「ほう!素晴らしい造形だ。彼のデザインだね。貰ってもいいかい?」
「どうぞ」
マカラさんはコネコ信者。以前、エンジ島に来た時、広場に飾られた作品に一目惚れしたらしい。
クリーチャーを含め、多くの作品を購入している。彼のようなコネコの作品のマニアはヴィンディス各地にいる。
マカラさんは舐めずに、自身のデバイスに飴を仕舞った。
融けない様に加工し、コレクションに加えるそうだ。
フォートレスと共にやってきた整備士はライザさんの古い知り合いらしい。
若い頃、強攻型ウェンディーを共に開発したそうだ。
彼にフォートレスについて色々教えてもらえた。
機密に当たる箇所はさすがに駄目だったけど、かなり勉強になった。
フォートレスはこの後、港の守護に回される予定だ。
霧の中へ突撃させるのはリスクが高い。
パイロットの女の子は納得してなかったけど、マカラさんが言いくるめてくれた。
港は町の部分を含め、技術者たちによって対霧の前線基地に変わる。
家の一部は強制接収。様々な機材の設置や援軍の人の宿泊施設になった。緊急事態だからしょうがない。
勝手に家を使われた住人は納得はできないだろうけど。そこは後で補償金を出す予定らしい。
それも国が負担してくれるそうだ。
フォートレスが来てくれたおかげで港の防衛は完全になった。
あとは発生源を特定するだけ。僕も捜索に出る。
霧の中を進むのは危険だがやるしかない。
出発はFA4の通信装置を改良などを済ませてから。
今のままでは通信ができない。
改良しても、通信は大幅に制限されたまま。
港や拠点にある装置よりも小型で劣る物だからしょうがない。
それでも近距離通信なら可能になる。ないよりマシだ。
ちなみに、通信妨害はリンクシステムにも及んでいる。
普通の回線よりはマシだが、かなりの近距離でしか繋がらなかった。
他にもすることがある。
それを実現するための交渉は終わっているから、後は文面を考えるだけ。
早くした方がいいのは分かっているけど、これをするのは初めてだから分かりやすい良い文章ができなかった。
結局、他人が書いた物を参考に書くことにした。
文章を書き始めようとしたら、会議の時間になった。
援軍の人たちも混じる初めての会議。滅茶苦茶荒れそう。
今回の会議で誰がどこを探索するか決める。
僕の担当は島の北部。モンスターの領域だ。
危険な場所だけど、押し付けられたんじゃない。自分から志願した。
NPCの命は有限だが、プレイヤーは復活できる。
これが最もリスクが低い割り当てだと思う。色んな人に反対されたけど。
それに僕のFA4は今動かせる機体の中で、一番機動力がある。
港はエンジ島の南端に位置するため、飛行できないファルシュではあそこまで行くのに時間が掛かる。
そんな時間は残されていない。
僕が北部に行くこと以外に、特に荒れることなく会議は終了した。
どこの組織が主導権を取るかなんてくだらない争いもなかったから、予想以上に早く終わった。
なんだか睨んでいる。
「貴方がスワロさんね。私は近衛隊のヴィニア・レラです。貴方の噂は聞いてます。女王から命令を受け、参上いたしました。よろしくお願いします」
言葉遣いは丁寧だけど、刺々しさを感じた。もしかしたら、田舎に遠征させられたのが嫌だったのかもしれない。
握手を求められたので、彼女の手を握った。
すると、強く握られてしまった。
握手をする時、強く握るのがマナーだと何かの漫画かドラマで見た。
それにしても、彼女は強すぎる気がする。これが近衛隊のマナーなのかな。
郷に入れば郷に従えだ。僕も強く握ろう。
「痛い痛い!」
「あっ!ごめんなさい」
彼女は痛かったようで手をさすり、涙目になっている。
わざとじゃない、事故だ。
「何するんだよぉ……」
「痛かった?強くしすぎちゃったんだ」
「痛くなかったもん!」
さっきまでの威勢はどこへやら、今はただの女の子に見える。
お詫びに飴をあげよう。お祭りの残りはまだある。
「ひぃ!」
デバイスから取り出し、彼女にそれを渡そうとしたら、彼女は短く悲鳴を上げ、全速力で逃げて行った。
なんでだろう?
手元を見ると、その原因が分かった。
「間違えちゃった」
普通の動物の形の飴ではなく、クリーチャー飴の方を出してしまった。
勿論、これもわざとじゃない。
彼女はどこかに行ってしまったので、ゆっくりとシルフフォートレスの鑑賞ができる。怪我の功名だ。
コックピットの中に入りたいが、さすがにそれは止めておいた。
眺めていたら、マカラさんがやってきた。さっきのやり取りを見ていたみたいだ。
「すまないね。気を悪くしないでくれ。いつもはあんな子じゃないんだがな」
「大丈夫ですよ。あんな感じの子、知り合いにいますから」
その知り合いとはパッション君だ。
虚勢を張ったり、ビビったりするところなんかそっくりだと思う。
「ん?それはまさか」
マカラさんの目はクリーチャー飴に釘付けになっていた。
せっかく出したし、これはマカラさんにあげよう。
「ほう!素晴らしい造形だ。彼のデザインだね。貰ってもいいかい?」
「どうぞ」
マカラさんはコネコ信者。以前、エンジ島に来た時、広場に飾られた作品に一目惚れしたらしい。
クリーチャーを含め、多くの作品を購入している。彼のようなコネコの作品のマニアはヴィンディス各地にいる。
マカラさんは舐めずに、自身のデバイスに飴を仕舞った。
融けない様に加工し、コレクションに加えるそうだ。
フォートレスと共にやってきた整備士はライザさんの古い知り合いらしい。
若い頃、強攻型ウェンディーを共に開発したそうだ。
彼にフォートレスについて色々教えてもらえた。
機密に当たる箇所はさすがに駄目だったけど、かなり勉強になった。
フォートレスはこの後、港の守護に回される予定だ。
霧の中へ突撃させるのはリスクが高い。
パイロットの女の子は納得してなかったけど、マカラさんが言いくるめてくれた。
港は町の部分を含め、技術者たちによって対霧の前線基地に変わる。
家の一部は強制接収。様々な機材の設置や援軍の人の宿泊施設になった。緊急事態だからしょうがない。
勝手に家を使われた住人は納得はできないだろうけど。そこは後で補償金を出す予定らしい。
それも国が負担してくれるそうだ。
フォートレスが来てくれたおかげで港の防衛は完全になった。
あとは発生源を特定するだけ。僕も捜索に出る。
霧の中を進むのは危険だがやるしかない。
出発はFA4の通信装置を改良などを済ませてから。
今のままでは通信ができない。
改良しても、通信は大幅に制限されたまま。
港や拠点にある装置よりも小型で劣る物だからしょうがない。
それでも近距離通信なら可能になる。ないよりマシだ。
ちなみに、通信妨害はリンクシステムにも及んでいる。
普通の回線よりはマシだが、かなりの近距離でしか繋がらなかった。
他にもすることがある。
それを実現するための交渉は終わっているから、後は文面を考えるだけ。
早くした方がいいのは分かっているけど、これをするのは初めてだから分かりやすい良い文章ができなかった。
結局、他人が書いた物を参考に書くことにした。
文章を書き始めようとしたら、会議の時間になった。
援軍の人たちも混じる初めての会議。滅茶苦茶荒れそう。
今回の会議で誰がどこを探索するか決める。
僕の担当は島の北部。モンスターの領域だ。
危険な場所だけど、押し付けられたんじゃない。自分から志願した。
NPCの命は有限だが、プレイヤーは復活できる。
これが最もリスクが低い割り当てだと思う。色んな人に反対されたけど。
それに僕のFA4は今動かせる機体の中で、一番機動力がある。
港はエンジ島の南端に位置するため、飛行できないファルシュではあそこまで行くのに時間が掛かる。
そんな時間は残されていない。
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どこの組織が主導権を取るかなんてくだらない争いもなかったから、予想以上に早く終わった。
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