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現実5
クマイチローさん
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模擬テストの結果は期待に反してボロボロだった。
合格点には程遠い。ケアレスミスなら分かるが、明らかに勉強不足の部分もある。
「本当に勉強したの?」
「このテキスト通りに勉強したんだけど……」
意気消沈している烈斗君からテキストを受け取った。
【ポール先生が教える誰でも分かる機械コミュ三級】
表紙には外国人の男性が親指を立てて微笑んでいる。
なんだかムカつく表紙だ。烈斗君はなんでこれを選んだんだろう?
でも、協会の認定を受けた印があるから、ちゃんとしたテキストなんだろう。
一応、パラパラを捲って、内容を確かめる。
それを見て、思わず顔を顰めてしまった。
「どうしたんだよ?」
「何でもないから。僕が用意したテキストを読んでおいて」
それにしてもこのテキストは酷い。
よくこんなでたらめを書けるもんだ。
全部が間違いじゃないが、半分ぐらいは間違っており、テキストとして成立していない。
問題なのはこの本は協会の認定を受けていることだ。
巻末を見ると先週発売したばかりだったから、まだ大きな問題は起きていないが、このままだとまずいかもしれない。
とりあえず、青葉さんに連絡して、対応してもらおう。
「……繋がらないなぁ」
そういえば、月に行くってこの前言っていた。
僕の手持ちの端末じゃ、月まで電話できない。
青葉さんは諦めて、協会で信頼できる人に連絡を取ろうとしたが、残念なことに全員不在だった。
僕は一級だから強い権限を与えられているが、所詮は子供。
面識がない職員では、まともに取り合ってくれるか分からない。
職員が駄目なら、来客に誰かいないか探してみよう。
入館名簿にアクセスして、知り合いがいないか探す。
「あっ、クマイチローさんが来てる」
あの人なら、僕の話をちゃんと聞いてくれる。
少し個性的だけど。
「スー君、お腹空いたよ」
「もうお昼だね。ちょっと休憩して、ご飯食べに行こうか」
「さんせ~」
メイリーさんが言うようにもうお昼ごはんの時間だ。
スー君と言うのは、スワロから取った渾名。最初はこそばゆかったけど、もう慣れた。
メイリーさんがそう呼ぶから、クラスメイトとかにもこの渾名が定着してきている。
でも、基本的に名字か名前のどちらかで呼ぶ人の方が圧倒的に多数だ。
「この近くに美味しい店ってあるの?」
「ここの食堂が美味しいよ」
「じゃあ、そこにしましょう。二人ともそこでいいよね」
松葉さんはさらりと弟の烈斗君を除外していた。
相変わらず、松葉さんは弟の扱いが悪い。
食堂は一階ロビーの横。
部外者も食堂だけはパスなしで入館できる。
「燕君のおすすめは何?」
「全部美味しいよ。僕が保証する」
全員のオーダーを聞いていく。
ここでは、個人個人で注文するよりも僕が纏めて注文した方が安くつく。
なぜなら、食堂でも特権があるからだ。
一級は全品半額。ほぼ原価だそうだ。
八雲さんはビーフシチュー、松葉さんは海老天そば、メイリーさんはふわふわオムライス、烈斗君はハンバーガーセット、かもめ君は海鮮丼を、僕は一番のお気に入りのから揚げ定食にした。
ここの食堂は本当に美味しい。
外の店よりもここの食堂の方がよっぽど美味しく、協会自体に用がなかったが、食堂目当てに訪れたこともある。
その味にみんなも満足してくれた。
一足先に食べ終わったので、クマイチローさんを探そう。
あの人も食堂に来ていると思う。
「なにこれかわいい~」
食堂を一回りしていたら、メイリーさんが黄色い声を上げた。
彼女はクマのぬいぐるみを抱き上げていた。
そのクマはテンガロンハットにガンベルトを巻いている。
あれはぬいぐるみじゃなくて、ロボット、僕の探しクマだ。
あんなところにいたのか。
「お嬢ちゃん、俺に近づいたら火傷するぜくま」
「やん♪渋い声もかぁわいい」
メイリーさんがクマを強く抱きしめた。
それを見た一部の職員が悲鳴を上げた。あのクマはそこそこ危険なのだ。
だけど、彼は紳士だから女性には実力行使には出ない。
なすがままにされている。
「クマイチローさん、お久しぶりです」
「おう、燕か。こいつらはお前の連れかくま?」
「学校の友達です」
「そういや、お前はまだ学生だったなくま」
クマイチローさんと会うのは久しぶりになる。
忙しい人だから、最後に会ったのは確か高校入学前。
入学卒業のプレゼントを貰った時だ。
合格点には程遠い。ケアレスミスなら分かるが、明らかに勉強不足の部分もある。
「本当に勉強したの?」
「このテキスト通りに勉強したんだけど……」
意気消沈している烈斗君からテキストを受け取った。
【ポール先生が教える誰でも分かる機械コミュ三級】
表紙には外国人の男性が親指を立てて微笑んでいる。
なんだかムカつく表紙だ。烈斗君はなんでこれを選んだんだろう?
でも、協会の認定を受けた印があるから、ちゃんとしたテキストなんだろう。
一応、パラパラを捲って、内容を確かめる。
それを見て、思わず顔を顰めてしまった。
「どうしたんだよ?」
「何でもないから。僕が用意したテキストを読んでおいて」
それにしてもこのテキストは酷い。
よくこんなでたらめを書けるもんだ。
全部が間違いじゃないが、半分ぐらいは間違っており、テキストとして成立していない。
問題なのはこの本は協会の認定を受けていることだ。
巻末を見ると先週発売したばかりだったから、まだ大きな問題は起きていないが、このままだとまずいかもしれない。
とりあえず、青葉さんに連絡して、対応してもらおう。
「……繋がらないなぁ」
そういえば、月に行くってこの前言っていた。
僕の手持ちの端末じゃ、月まで電話できない。
青葉さんは諦めて、協会で信頼できる人に連絡を取ろうとしたが、残念なことに全員不在だった。
僕は一級だから強い権限を与えられているが、所詮は子供。
面識がない職員では、まともに取り合ってくれるか分からない。
職員が駄目なら、来客に誰かいないか探してみよう。
入館名簿にアクセスして、知り合いがいないか探す。
「あっ、クマイチローさんが来てる」
あの人なら、僕の話をちゃんと聞いてくれる。
少し個性的だけど。
「スー君、お腹空いたよ」
「もうお昼だね。ちょっと休憩して、ご飯食べに行こうか」
「さんせ~」
メイリーさんが言うようにもうお昼ごはんの時間だ。
スー君と言うのは、スワロから取った渾名。最初はこそばゆかったけど、もう慣れた。
メイリーさんがそう呼ぶから、クラスメイトとかにもこの渾名が定着してきている。
でも、基本的に名字か名前のどちらかで呼ぶ人の方が圧倒的に多数だ。
「この近くに美味しい店ってあるの?」
「ここの食堂が美味しいよ」
「じゃあ、そこにしましょう。二人ともそこでいいよね」
松葉さんはさらりと弟の烈斗君を除外していた。
相変わらず、松葉さんは弟の扱いが悪い。
食堂は一階ロビーの横。
部外者も食堂だけはパスなしで入館できる。
「燕君のおすすめは何?」
「全部美味しいよ。僕が保証する」
全員のオーダーを聞いていく。
ここでは、個人個人で注文するよりも僕が纏めて注文した方が安くつく。
なぜなら、食堂でも特権があるからだ。
一級は全品半額。ほぼ原価だそうだ。
八雲さんはビーフシチュー、松葉さんは海老天そば、メイリーさんはふわふわオムライス、烈斗君はハンバーガーセット、かもめ君は海鮮丼を、僕は一番のお気に入りのから揚げ定食にした。
ここの食堂は本当に美味しい。
外の店よりもここの食堂の方がよっぽど美味しく、協会自体に用がなかったが、食堂目当てに訪れたこともある。
その味にみんなも満足してくれた。
一足先に食べ終わったので、クマイチローさんを探そう。
あの人も食堂に来ていると思う。
「なにこれかわいい~」
食堂を一回りしていたら、メイリーさんが黄色い声を上げた。
彼女はクマのぬいぐるみを抱き上げていた。
そのクマはテンガロンハットにガンベルトを巻いている。
あれはぬいぐるみじゃなくて、ロボット、僕の探しクマだ。
あんなところにいたのか。
「お嬢ちゃん、俺に近づいたら火傷するぜくま」
「やん♪渋い声もかぁわいい」
メイリーさんがクマを強く抱きしめた。
それを見た一部の職員が悲鳴を上げた。あのクマはそこそこ危険なのだ。
だけど、彼は紳士だから女性には実力行使には出ない。
なすがままにされている。
「クマイチローさん、お久しぶりです」
「おう、燕か。こいつらはお前の連れかくま?」
「学校の友達です」
「そういや、お前はまだ学生だったなくま」
クマイチローさんと会うのは久しぶりになる。
忙しい人だから、最後に会ったのは確か高校入学前。
入学卒業のプレゼントを貰った時だ。
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