コスモス・リバイブ・オンライン

絆と禁忌

人と機獣の到達点

　瘴気を吸い込んだライシーブラックパンサーはスピードだけでなく、力も桁違いにパワーアップしている。
とりもちで拘束を試みたが、全く効果がなかったのである。
　戦闘不能に追い込んだ個体も戦線に復帰しているから、数も多い。
何か手を打たないと、全滅だ。


　頭をフル回転させると、一つの作戦を思い出した。
以前、ユラさんがゴブリンの集団に使った策だ。もしかしたら、使えるかもしれない。
　ＡＭライフルを構える。狙いはヒヒ。
命中させる必要はないので、銃口がヒヒの方向に向くと、すぐさまトリガーを引いた。


　出鱈目な銃撃だったが、運が良いことに銃弾はヒヒに命中する。
残念ながら、殺せてはいないが、これで奴の危機感を煽ることができた。
　僕の狙い通り、ヒヒは前線にいる数体のパンサーを呼び戻し、自身の傍に置く。

「良かった。上手くいった」

　大将が狙われていると分かれば、護衛に回す戦力が増える。
この作戦はそれを突いたものなのだ。引っ掛かるということはヒヒはゴブリン程度の知能しかないみたいだ。


　狙われたことに腹を立てたのか、ヒヒは僕を指差し、キーキーと喚き始めた。
それは指示だったようで、パンサーたちが僕へ集まってきた。
　完全に囲まれてしまった。
やはりゴブリンレベル。ゴブリンと同じことをやってきた。


　準備しておいた残りの手榴弾を周囲にばら撒く。
ジルコニアも爆発の影響範囲にあるが、自爆を覚悟したものではない。
　起爆の直前にエネルギーシールドを展開し、爆風を遮る。
シールドの外にいるパンサーの内、近くにいた者は退避が間に合わず、爆風に飲まれた。


　エネルギーシールドの中で煙が晴れるのを待つ。

「しぶといな」

　煙が晴れたが、パンサーはまだ生きていた。
ただし、当然無傷ではない。


　至近距離で爆発を浴びたパンサーの目や鼻は焼け爛れている。
もう復活しないように、ハンマーで叩き潰す。
　僕やアローさんが首を斬り落とした個体やスケイルがドリルで大きな風穴を開けた個体、サンが頭を噛み潰した個体は復活していない。
ヒヒが放つ瘴気は死んだ者を蘇らせることはできないみたいだ。


　激突音が聞こえてきた。
音が聞こえてきた方を見ると、アローさんが乗るロボットがゴロゴロと地面を転がっていた。
パンサーの体当たりを受けたみたいだ。


　だけど、アローさんはやられたらやり返す人だ。
転がりながらも、剣を投擲した。
　剣はパンサーの目玉に深く突き刺さる。
おそらく脳にも届いているだろう。


　ロボットは止まったが、立ち上がろうとしない。

『ごめん。もう無理そう。ロボットの足が動かない』
「離脱を！」
『それも無理。私の足も折れているみたい』

動かないロボットにパンサーが集まってくるが、それよりも先にスケイルがアローさんの元に到着した。


　スケイルがロボットを中心にとぐろを巻いた。
アローさんを守るつもりのようだ。
そんなスケイルにパンサーが攻撃を仕掛けるが、スケイルは動こうとはしない。
　スケイルは牙だけでパンサーを相手している。
一方的にやられている。


「くっ！邪魔をするな！」

　アローさんたちの援護に行こうとしたが、パンサーがそれを許してはくれない。
パンサーが目の前に立ち塞がっている。
　ポチさんもそれは同じだった。
このままではアローさんたちがやられてしまう。

◇アロー視点

「スケイル、もういいわ」

　いくら言っても、スケイルは私を守ることをやめようとはしない。


　私がここに居てはスケイルが自由に戦えない。
ならば、やることは一つ。
　デバイスからナイフを取り出し、喉に当てる。
私が自殺すれば、スケイルも自由になる。


「ごめんね。スケイル。私が弱いせいで」

　私を守ろうとするスケイルの想いを踏みにじることになるけど、今はこれしか方法はない。


　仮想と分かっていても、自らの喉を切り裂くのは勇気がいる。
スケイルは今も攻撃を受け続けている。早くしないと。
　意を決し、ナイフを動かそうとした時、ロボットのコンピューターからアラートが鳴った。
モニターに目をやると、何かが起動している。


　メッセージが表示されているが、古代イド文字だった。
教わっておいてよかった。

《同調率一定を突破。システムを起動しますか？》

　何が起こるかは分からない。だけど、今はこれに賭けてみる。
イエスを選択する。


《人、機獣の固有パターン認識》
《新たなる絆の誕生に祝福を！》

　モニターに新たなメッセージが表示される。

【アロー、行きましょう】
　スケイルの声が聞こえてきた。
私たちならどこまでも行ける。

「ええ。今度は一緒に」