4 / 12
第一章
暗中模索
しおりを挟むハリの言葉に何度目かわからない絶望をしてから、やはりどうしよう、と回らない頭に手を添えた。
ざらつく艶のない髪の毛を感じる。
手首から先の、無くなってしまったように見える部分を見つめた。
ハリもつられて苦い顔をしながら見ている。
そのとき。
「「!」」
掲げた手のひらが、二人の目の前で音もなく指先から色を取り戻してゆく。
息を詰めて見守ること数瞬。
元どおりにあらわれた両手に同じく目を瞠っていたハリが呟く。
「……さっきのがマスターから興味を無くしてくれたか……意識を別にもってかれたかしたかな。」
は、ふぅぅと細く息を吐き、指を動かして確かめる。
感触は残っていたものの、見えないということがあんなに恐怖を感じるものだというのは知りたくもなかった。
「認識の問題です。道端の石ころを意識しないでしょう。」
なにか傷つく言い回しであったが恐らく正論なので口を噤んだ。
「第一、さっきのはどうやって喚んだんです。」
「はいっ?私?」
「アンタはそんなデタラメな力もってんですよ。作者なんですからね?」
「えぇ……」
「何しろアンタ……マスターがどうやって力を揮っているのかもわからない。自覚、あります?」
ふるふると左右に頭をふる。
溜息で応じるハリ。
「わかってることだけ整理しましょうや。これは推測なんですが、俺とあの青いのは『登場人物』に入らないんじゃないですかね。これだけ一緒にいたってなにもなかったんだ。」
俺はマスターを助ける為に生まれたようですしと嫌そうな顔のハリ。
「青いのはよくわかりませんが。」
「アレはなんていうか。うっかりだから。うっかり。」
ハリは苦虫顔。あるいは銀歯でうっかりアルミホイルを噛んだような表情である。
経験のある紺は思い出して頰に手を当てる。
渋い顔どうしをつき合わせた為につっこまれた。
「なんでそっちがそんな顔になるんですか。」
「アルミホイル思い出しちゃって……。」
「は?」
「や、気にしないで。」
兎に角ハリとあれは気にしないで良いとしても、先の美少年は自分が呼び寄せたらしい。
「キャラクター作ってないけど、喚んだって?あの人誰だろ?」
「マスター……」
ハリは苦虫を通り越して睨んでいる。
またしても失言沙汰をかましたらしい。怖い。
「何度だっていいますが、ここはアンタが書きかけたアンタが創った世界だ。あいつだって忘れてるだけで、知ってるはずですよ。」
明後日を見つつ、カワイソー生みの親に忘れられてるとか。と恨めしげに嘆く。
前科に覚えがありすぎて、どこの不倫相手の子供だか分からなくなった親の心持ち。
「ほんとすいません」
「謝罪はいいですから。とっとと思い出して下さい。」
そうですね。裏切り者の謝意ほど価値のないものもないですよね。急いで思い出します。
とはいうものの、恐らく忘れるくらいには昔に書いたものであるので難航しそうだ。
「んーなんか、ヒントないかなぁ……。」
榛色の瞳を思い出す。
口調は別段特徴もなし。優美に見えるくせ毛。
「そういやあいつ……」
「え?ヒント?」
「なるかどうかはわかりませんが、あいつマスターと会って喜んでなかったな、と。」
「それ今確認すること……?」
悪口の伝言みたいなことをしなくともいいじゃない……と落ち込む紺をよそにハリが続けた。
「基本的に作者に会えるとキャラクターてのは嬉しいもんなんです。女神も言動はさておいて、笑顔だったんじゃありませんか?」
「そういえば全力で笑顔だったな……。」
「どんな奴だろうと、面会なんか叶わないはずの生みの親と会えるんです。やっぱり嬉しいんじゃないですかね。」
どんな奴というのが良くない意味も含み、かつもしかしたら自分のことかもしれないということに引っかかるものはあったが、もう一つ。
「ハリも嬉しかった?」
「は?」
「その、初対面のとき、笑顔だったから。」
ハリは奇襲でも受けたかのような表情。
「いいい一応生みの親だし?だったらいいなーなんて……」
「……そうですねえ。嬉しかったんじゃないですか。」
「心にくるからスンッて無表情になるのやめて?わかってたから……。」
調子に乗ってごめんなさいと謝る紺に、あーはいはいとおざなりに返事をするハリ。
「まーつまり、やつは普通じゃないってことです。主役級の特徴かなと。」
「たしかに只のモブには付けない属性ぽいね。まるで記憶喪失でもなったような……記憶喪失?」
「どうしました?」
「思い出した……!ストーリーも!あの子の名前も!」
「上出来です。赤っ恥かいただけはある。」
「赤っ恥?」
「いいえ何でも。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あるところに一人の貴族がいた。
放蕩息子なれど家は裕福で、金に困ることはなかった。
ある日妻子ある悪友が不倫の自慢をした。
放蕩息子はこれをひどく羨み、翌日とんでもないことを言い出した。
いわく、不倫がしたいと。
したいもなにも放蕩息子には妻がなかった。
なので周囲は真に受けず、止めなかった。
しかし驚いた事に放蕩息子は即日妻を娶ってきた。
なんと不倫がしたいが為に娶った妻なのだという。
さらに放蕩息子は悪友に、子がある方が背徳感が増して不倫が刺激的になると吹き込まれ、翌年子供をもうけてしまった。
まず一つ目の悲劇は、妻がなにも知らされない市井出身の娘であったことだろう。
二つ目の悲劇は、残念なことに放蕩息子には有り余る魅力があった。つまり子供ができたと知ってすぐに計画を実行し、晴れて不倫に走ったのである。
三つ目の悲劇、それは出産の時に起こった。
嵐の夜に生まれたその子は息をしていなかった。
放蕩息子の妻は悲しみに沈んだが葬儀は正しく行われ、嬰児は丁重に埋葬された。放蕩息子はついに帰ってこなかった。
さらに悲劇は四つを数えてしまう。
墓を暴くものがあった。月のない夜のこと。
遺体を持ち去ったのは錬金術師であった。
目的は副葬品の金品、そして嬰児。
かたや研究費に、かたや実験の材料に成り果てた。
それは悲劇か、はたまた喜劇か。
フラスコが爆散し、錬金術師は致命傷を負う。
拡散する煙の中から錬金術師を見るものがあった。
美しい生き物と目があう。
恐らく己の命は幾ばくも持たないことを知っていたが、万感の思いを込めて口を動かした。
「…………でぃ……とぉ…………」
ありがとう、生まれてくれて。人生を賭けた実験の成功に、今際の際に綺麗なものをみせてくれたことに。
「それが、僕の名前?」
美しい生き物の体内には赤い粉末があり、知性があった。しかし誤解した。
末期の言葉は名付けになった。
それ以上語らない亡骸の服を拝借し、自らの存在理由を探しに世に迷い出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「て言う導入です。」
「ふーん。」
「ふーん?!」
「他にどう言えと?」
「ええーっ……た、たしかにコレだけだと面白くも何ともないかもしれないけどさあ……もっとなんか感想みたいなのは……」
「……美少年が趣味なんで?」
「綺麗な子は男女問わず好きだけどぉ……もっと尖ってる魅力のあるほうが……いやいや私の好みはどうでも良いじゃない~」
「……他にどう言えと?」
「もういいません……。」
なんかたまに冷たくなるんだよな、と脳内でだけ呟く。
「そうなるとあいつはこれからどこに行くかわからないんですね。」
「そうだね……一応大体の流れは思い付いてたんだけど、書く前に飽きちゃったから。」
「じゃあ何とかして追いつきましょう。」
「はい?」
「どこにいるかわからないんじゃ避けようもないでしょ。見つかったら今度こそ認識されちまうかもだ。なら先手打って相手から付かず離れずで場所知っといたほうがよっぽどいい。」
「えっえっえ」
「マスター。次の行動が決まりましたねぇ。早いとこ相手に見つかる前に見つけて下さい。」
「………………」
全能なる神様が、何でもかんでも人間の願いを叶えない理由を、今しみじみと実感しているかも。
そしてやはりこのサポートキャラクターは、味方じゃない気がしてきている。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる