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5.落とし物を届けにきた女神

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「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」

 妹が呼んでいる。

 リルルちゃんのグッズ点検をやめて、階下に降りていった。

 イライアスとの用事は終わったはずだが、俺に何の用だろうな。

 まぁ行けばわかるかと、声のする方へ向かう。

 客間か?

 何気なく部屋に入ったのに、俺はそこで女神に出会うことになった。

 その子を一目見て、雷で撃たれたかのような衝撃があり、感動で震えていた。

 俺、マジでこの世界に転生してよかった。

「猫耳の女の子とか、尻尾までついて」

「あのー……」

「黒い髪がミルクココア色の肌に映える」

 瞳は紫色で、キラッキラしていて、耳と尻尾以外は普通の女の子と変わらない、

 初めて出会う獣人の女の子に、悩殺されていた。

 本物だ、尻尾が動いている。

 本物だ!!

「いや、俺の心にはリルルちゃんがいるけど、可愛い!可愛いすぎるよ、君!」

「お兄ちゃん!!!!」

 俺の興奮と感動を全力で伝えていると、妹にロッドで思いっきり殴られていた。

 家宝のロッドだ。

 それなりにダメージを受ける。

 多分、頭を殴りたいけど背が届かないから、ロッドを使ったのだろう。

 使い方を間違えている気はする。

「お客さんに失礼でしょ!」

「すまんすまん。あんまり可愛いから、つい。それで、俺に何か用?なのか?」

「これ、先程落としませんでしたか?」

 ちょっと引き気味の子が差し出してくれたのは、リルルちゃんのアクリルキーホルダーだった。

 破れた紙袋に入っていたもののはずだ。

 ということは、

「あれ、じゃあ、さっきの子が君なの?」

「はい」

「さっきもそうだけど、君は、マジで俺の女神様だよ!」

 獣人の女の子の手を握って、ブンブンと振っていた。

「お兄ちゃん!女の子に勝手に触らないで!!」

 また、妹にロッドで殴られていた………

 とうとう女の子が、アタナシアの後ろに下がってしまった。

 興奮のあまりやり過ぎたらしい。

 いや、俺だって簡単に女の子に触ったりしないけど、この黒猫の女の子、どストライクすぎる。

「大切な物をお届けできて良かったです。それでは、私はこれで」

 女の子がさっさと帰ろうとしたので、今後こそはお礼をしたくて引き留めようとした。

 でも、俺が声をかけるよりも、盛大に鳴った音があった。

 女の子が、お腹を押さえて真っ赤になって俯いている。

 これは、アレだ。

 お礼を絶対にしろって、悪魔の導きだ。

「腹がへってるのか?それくらい、お礼として御馳走させてくれ」

 前世の俺は軍資金を稼ぐために、仕事に精を出し、家の家事も全て担った。

 だから、家事スキルは高い。

 今世はただのニートでも、飯くらい作れる。

「お兄ちゃん、こう見えて料理が上手だから、貴女を満足させてあげられると思うよ。食事だけでもどうかな?このまま帰したら、私達とっても悲しいし」

 アタナシアがニコニコしながら誘ってくれたから、無事に彼女を食事に招待することができていた。

 グッジョブだ、妹よ。

 さすが、我らが魔王よ。


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