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12.私には返せるものがないから
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ベレトさんが避難した場所は、魔の森の奥ばったところだった。
伯爵邸に行かなかったのは、妹さん達に迷惑をかけてしまうからだろうか。
ベレトさんは私を地面に下ろすと、木に寄りかかって座り、脇腹を抑えて目を閉じている。
顔色は悪く、呼吸は浅い。
鞄から急いで止血用の布を取り出して、傷口を押さえていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ベレトさん」
何が起きたのか分からないけど、無関係なベレトさんを巻き込んで、怪我を負わせてしまった。
「大丈夫だ……休んだら、直に治る」
安心させるように言うけど、こんな深い傷、そんな簡単に……
幸い、血はもう止まっているようだけど、これからどうすればいいのか、分からない。
医者に連れて行くべきなのに、私じゃベレトさんを運べない。
「ライラ、大丈夫だ。ちょっと、膝を貸してくれ」
そう言って、ベレトさんは、私の膝を枕にして、横になってしまった。
額に嫌な汗が滲み、顔は苦悶に歪んで、目は固く閉ざされている。
このまま、ベレトさんが目を覚まさなかったら……
不安に押しつぶされそうになる。
出血による冷えた体を温めようと、上半身だけでも抱きしめようとした時だった。
ベレトさんの体に、その変化が訪れていた。
ぐったりと、力なく横たわるベレトさんの頭に、禍々しい角が、何本も生えていた。
自分の目を疑って、ソレに、そっと触れてみた。
ヒンヤリとして、それでいて硬い感触は、ただの飾り物には思えない。
ベレトさんは……
ベレトさんは、魔族………?
膝の上にいる人を、呆然と見つめていた。
実際にその姿を目にしたのは初めてのことだ。
本当にいたんだと思う気持ちもある。
これがベレトさんじゃなかったら怖くて逃げ出していたかもしれない。
でも、魔族であるかもしれない驚きよりも、今はベレトさんの傷をどうにかする方が先だ。
それに、もしベレトさんが魔族だと言うのなら、人の形に近い魔族は、自らの怪我を癒す時に、男女の情欲を糧にすると聞いたことがある。
ギルドの人達が話しているのを聞いたことがある。
つまり、性行為。
ここまでずっと助けてもらって、挙句に怪我までさせて、私には返せるものが何一つないから、もしそれが本当の情報なら、私でもベレトさんを助けることができる。
けど、実際は、その方法があまりよく分からない。
どうすればいいのか……
「ベレトさん、ベレトさん、聞こえますか?ベレトさんが魔族なら、私が傷を癒す事はできませんか?私の体を使って。聞いたことがあるんです。人の姿をした魔族が怪我を癒す時は、性行為を行うと」
薄らと目を開けたベレトさんは、
「……やっちまった」
そう呟いていた。
「誰にも言いません、でも今は、とにかく怪我を……」
「俺に恩返しのつもりで、そんなことをするのなら、やめてくれ……」
声はとても弱々しいのに。
「でも、怪我が、私の体を使ってください」
「俺にだってプライドくらいある。そんな理由で女の子を、絶対に抱けない。もっと自分を大事にしてくれ」
自分の考えの浅さに、恥ずかしくなった。
彼に嫌な思いをさせてしまった。
「ごめんなさい……」
「あ、いや、ごめん、強く言い過ぎた」
「私、でも、誰でもいいとかじゃなくて、ベレトさんなら、本当に……でも、ごめんなさい、でも、ベレトさんに何かあったら、私……」
目の端に涙を滲ませて、謝るしかなかった。
「いや、泣かないでくれ。本来なら、俺が抱かせてくれって、ライラに泣きついて頼むくらいなんだから。俺達魔族は、自己治癒能力が高いから、これくらいじゃ死なない」
顔を土気色にして言われても、不安は解消されない。
「私に配慮してくれて、ありがとうございます」
「本当だって、何でライラは、そんなに自己評価が低いんだ!?」
「それは、私が、獣人だからで、こんな体を使って欲しいと言うのも、本来なら失礼にあたるのに」
「そんなことないって。ライラが俺の彼女とかになったら、絶対に一生大事にするって」
「そんな、勿体ないです、私は、ベレトさんなら、一夜限りでも、それを一生の思い出に……」
「やめてくれ!そんな鬼畜なことしないから!」
「いいんです、そんな優しいことを言ってくれなくても」
ベレトさんは、私を傷付けないようなしてくれている。
こんな獣人の体じゃなければよかったのに。
「こんな時ですら、ベレトさんの役に立てなくて……」
「いや、助けてください!腹が死ぬほど痛いから、助けてください!俺を助けられるのは、貴女だけです!どうか、貴女の尊い体を俺に委ねてください!」
膝の上から私を見上げるベレトさんの瞳は、切実さを表しているようだった。
「私の方こそ、お願いします。どうか……早く、ベレトさんに楽になって欲しいので」
ベレトさんの体は、痛みのせいか震えている。
膝の上に頭を乗せたままの彼から腕を引かれると、自然と顔が近付いていた。
伯爵邸に行かなかったのは、妹さん達に迷惑をかけてしまうからだろうか。
ベレトさんは私を地面に下ろすと、木に寄りかかって座り、脇腹を抑えて目を閉じている。
顔色は悪く、呼吸は浅い。
鞄から急いで止血用の布を取り出して、傷口を押さえていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ベレトさん」
何が起きたのか分からないけど、無関係なベレトさんを巻き込んで、怪我を負わせてしまった。
「大丈夫だ……休んだら、直に治る」
安心させるように言うけど、こんな深い傷、そんな簡単に……
幸い、血はもう止まっているようだけど、これからどうすればいいのか、分からない。
医者に連れて行くべきなのに、私じゃベレトさんを運べない。
「ライラ、大丈夫だ。ちょっと、膝を貸してくれ」
そう言って、ベレトさんは、私の膝を枕にして、横になってしまった。
額に嫌な汗が滲み、顔は苦悶に歪んで、目は固く閉ざされている。
このまま、ベレトさんが目を覚まさなかったら……
不安に押しつぶされそうになる。
出血による冷えた体を温めようと、上半身だけでも抱きしめようとした時だった。
ベレトさんの体に、その変化が訪れていた。
ぐったりと、力なく横たわるベレトさんの頭に、禍々しい角が、何本も生えていた。
自分の目を疑って、ソレに、そっと触れてみた。
ヒンヤリとして、それでいて硬い感触は、ただの飾り物には思えない。
ベレトさんは……
ベレトさんは、魔族………?
膝の上にいる人を、呆然と見つめていた。
実際にその姿を目にしたのは初めてのことだ。
本当にいたんだと思う気持ちもある。
これがベレトさんじゃなかったら怖くて逃げ出していたかもしれない。
でも、魔族であるかもしれない驚きよりも、今はベレトさんの傷をどうにかする方が先だ。
それに、もしベレトさんが魔族だと言うのなら、人の形に近い魔族は、自らの怪我を癒す時に、男女の情欲を糧にすると聞いたことがある。
ギルドの人達が話しているのを聞いたことがある。
つまり、性行為。
ここまでずっと助けてもらって、挙句に怪我までさせて、私には返せるものが何一つないから、もしそれが本当の情報なら、私でもベレトさんを助けることができる。
けど、実際は、その方法があまりよく分からない。
どうすればいいのか……
「ベレトさん、ベレトさん、聞こえますか?ベレトさんが魔族なら、私が傷を癒す事はできませんか?私の体を使って。聞いたことがあるんです。人の姿をした魔族が怪我を癒す時は、性行為を行うと」
薄らと目を開けたベレトさんは、
「……やっちまった」
そう呟いていた。
「誰にも言いません、でも今は、とにかく怪我を……」
「俺に恩返しのつもりで、そんなことをするのなら、やめてくれ……」
声はとても弱々しいのに。
「でも、怪我が、私の体を使ってください」
「俺にだってプライドくらいある。そんな理由で女の子を、絶対に抱けない。もっと自分を大事にしてくれ」
自分の考えの浅さに、恥ずかしくなった。
彼に嫌な思いをさせてしまった。
「ごめんなさい……」
「あ、いや、ごめん、強く言い過ぎた」
「私、でも、誰でもいいとかじゃなくて、ベレトさんなら、本当に……でも、ごめんなさい、でも、ベレトさんに何かあったら、私……」
目の端に涙を滲ませて、謝るしかなかった。
「いや、泣かないでくれ。本来なら、俺が抱かせてくれって、ライラに泣きついて頼むくらいなんだから。俺達魔族は、自己治癒能力が高いから、これくらいじゃ死なない」
顔を土気色にして言われても、不安は解消されない。
「私に配慮してくれて、ありがとうございます」
「本当だって、何でライラは、そんなに自己評価が低いんだ!?」
「それは、私が、獣人だからで、こんな体を使って欲しいと言うのも、本来なら失礼にあたるのに」
「そんなことないって。ライラが俺の彼女とかになったら、絶対に一生大事にするって」
「そんな、勿体ないです、私は、ベレトさんなら、一夜限りでも、それを一生の思い出に……」
「やめてくれ!そんな鬼畜なことしないから!」
「いいんです、そんな優しいことを言ってくれなくても」
ベレトさんは、私を傷付けないようなしてくれている。
こんな獣人の体じゃなければよかったのに。
「こんな時ですら、ベレトさんの役に立てなくて……」
「いや、助けてください!腹が死ぬほど痛いから、助けてください!俺を助けられるのは、貴女だけです!どうか、貴女の尊い体を俺に委ねてください!」
膝の上から私を見上げるベレトさんの瞳は、切実さを表しているようだった。
「私の方こそ、お願いします。どうか……早く、ベレトさんに楽になって欲しいので」
ベレトさんの体は、痛みのせいか震えている。
膝の上に頭を乗せたままの彼から腕を引かれると、自然と顔が近付いていた。
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