神様project・異世界もチートも欲しくない！ 欲しいのは女神様だけ！！

土曜神の静寂な愛【５０話～６０話】

押し返しの改札口！！

   ――とんだ出費だ……。

   駅に入ったことを後悔しているかと聞かれたらそうでもない今の翠。
   人ごみから逃れることはできず、安易に入ったが最後……券売機まで押し潰されて流されてきた翠はやむを得なく入場券を購入して列から抜け出す。

 「トホホ……。 どこにいくわけでも無いけど安易に入らない方が良さそうだなぁ。」

   どうせ入場券を購入したのだからここの世界に来た証として電車でも撮影したいなと思い改札をくぐり抜ける。
   駅の東西南北の出口が存在し、今入ってきたのは西口なのだ。

 「地下鉄もあるなぁ、地下は……えーと？ 【愛染】の地下を環状する地下鉄で、地上の路線は他の区域に延びているのか。」

   どうやらこの都会は愛染あいぞめ地方であり他にも、陽光ようこう地方・夜朧やおぼろ地方・燎煉りょうれん地方・時雨しぐれ地方・風見かざみ地方・岩動いするぎ地方の合計七地方が存在するみたいだ。
   ここの世界では日月火水木金土の七つの曜日を冠した地方のようで、愛染地方は金曜日の都市である。

 「なるほどなぁ、曜日の女神に曜日の地方かぁ……。 おっと、SLまで……初めて見たぞ！！」

   感心するや否やで普段見慣れぬSLにまで夢中になり、善行どころではない翠になってしまい、端末のカメラでこれでもかと言うほどにたくさんの電車をフォルダに写したそうだ。



















   ――駅の北口に抜け出すと、なぜか薄暗い……。

   「いやぁ、百五十円の入場券の出費のわりにはいい写真が撮れた。 この電車なんてこの辺がカッコいい、セクシー！！」

   電車のマニアにしかわからないものなのか、電車の車体をなぞってはニヤニヤ笑ってはウンウンと頷く。
   けど、写真の技術は見るからにかなりのものだと言えるくらい写りはいいのだ。
   才能なのか、好きだからなのかはよくわからないが、西口に戻るためにショートカットしながらも路地裏を通る。

 「ここからだと西口に行けるかな？ 方角的には抜けられ……うわっ！？」

   路地裏にたむろっている不良にスッ転ばされては大きく前のめりに倒れる。

 「おーおー、ずいぶんニヤニヤしてるじゃん？ なんかムカつくから三千円で許してもらうか、一発ボコらせろ。」

 「うぐっ、な……なんてことだ……。」

   一方的な取引だし、喧嘩を好まない翠に不良の魔の手が襲い掛かる。
   右手には恋が見せたように橙色の淡い光が漏れており、この不良も魔法で戦うと言うならなおさら勝てるわけがないし、立ち上がるも怖じ気づくことしか今はできなかった。