上 下
113 / 121
第4章【水曜の湖畔《時雨》】

景色を並べて

しおりを挟む
 とりあえずポスターを作るために毎回恒例主の部屋までやって来たわけだが実に久々、平日の昼間なものだから家内は誰も居るはずもなく……そぉい、私は畳の部屋で思いっきり寝転がってやったさ。
 周りから見たら凄まじく堕落したこの姿、聖奈に見せたら厳重注意されるかもしれない。

 それにしてもこの鼻孔をくすぐるい草の香りはたまらなく、心が落ち着いてこれからポスターを作ると言うのに気力そのものが0になりそう。
 今日じゃなくて明日作ろうかな……たまには丸1日休んだって誰も文句言わないよね?

「……うーん、暇だな。」

【これで冥綾もニートだな!!】

 黙れっ、平日がたまたま休日なだけで年中休日のお前らに言われたかないんだよ。

 本当は言い返したらならば、たとえニートと就労者の違いだとしても言い争いに繋げるとなるとやはりネットの世界に生きるもの同士の同類なんじゃないかって心底ガッカリする。
 けど本気で嫌ってる訳じゃないし、そこは勘違いしないでほしい……そもそもこれはコミュニケーションの一環としての馴れ合いでわざわざ嫌われてまで大切な視聴者を手放すわけ無いだろう?

「やれやれ、気が変わらない内にやるしかないな……主の部屋のパソコンに接続して、センスの欠片の無いポスターを作るとしますかねぇ。」

 やらなきゃいけない使命なのはわかってるし4度目だから大体製作のコツと言うのもたぶんわかったような……いや、主の監修がないとただ切り貼りしただけの中身の無いチラシができてしまうだけ。
 とりわけやるだけ頑張ってみようと主の部屋へ。



 私のノートパソコンと主のパソコンをコードで接続しマウスカーソルが行ったり来たりできるように2画面にする。
 これがあればわざわざタスクを切り替えなくても済むが、いかんせん設定が難しすぎて最初のうちは機械音痴の私は手も足も出なかった……けど今じゃどうだ?
 ご覧のとおりマウスカーソルが主のデスクトップに移動しては画像編集アプリを開いてくれる……いや、開くのは私がクリックしてるおかげだけどさ。
















 時はどんどん進み主が帰ってきた頃にはまた、やはりこの3回の製作で何も学んでなかったみたいな味っ毛の無いチラシのようなポスターモドキが画面上にレイアウトされたまま飽きて居眠りしてたらしく、私が起きたときにはニヤニヤした主が【見てたぞ】って顔してたから恥ずかしくて顔から火が出るほど。

「相変わらず作るのヘタクソだねー。」

「うるさいっ、余計なお世話だ!!」

 無論神器で斬り付けるつもりはないが首元に鎌を突き付けてやる。
 ちなみに主に直接攻撃することはできないが、この嫌味ったらしい言い分は人をイラつかせるのには充分すぎるほど才能があるな。
 デザインセンスもあるからこれに関しては認めざるを得ない……半ば諦めて鎌をしまうとドスっと座り込む。

「ひゃー、さすが時雨の地方だ……雪がきれいだねー。 私も今度行ってみようかな。 と言うか後で行こ。」

 撮ってきた写真を見つめては何か懐かしそうに頷いてくれる。
 特徴的な家の屋根だったり樹氷だったり……雪国独自の文化を写しに写した自慢の1枚達。

「私的にはこの写真とこの写真をここに張り付けて……これはこの位置で角度はこう。 良いねぇ。」

 こうなれば主の独壇場、私が手を出すまでもなく全て終わらせてくれるから何だかんだ言って主だって楽しそうにしてるなら何も言うことはない。
 それに私は労働で頑張りの成果を作ってるからこれに関してはまぁ結愛も許してくれるだろ。

 だって私がやるって言ってるのに主が全部やっちゃうんだからしょうがない。



 ……うん、言い訳は充分に作れるな。



 さて時雨の体質を身に纏ってると普通の温度でもかなり蒸し暑い部屋に感じるからキンキンに冷えたジュースでも持ってくるとしよう。
 あわよくば主のぶんも持ってきてやるから感謝するんだぞ。
しおりを挟む

処理中です...