遠空に駈ける女神の浮浪録・神様project２

第零章・浅葱と魂の浮浪録(プロローグ)

こういう始まりはお決まりだもの

   ――時間がとてもゆっくりに感じる……。

   宙を舞いながら一人の少女はいろいろな過去の出来事が昨日のように、果てまたは今のように感じながら遠くに身体が吸い寄せられる感覚が襲う。
   襲うと言っても今の彼女には、その感覚が伝わっているのかすらわかってはいないだろう。

   五秒後、激しい音とともに身体は線路内に激しく叩き付けられ少女、色取 浅葱いろとり あさぎは血溜まりに横たわりながら静かに散った。














   ――誰かが泣いてる……？

   浅葱は気が付くと真っ白な部屋に漂っているのがわかり、そこが病院の一室だと認識するのには時間はかからなかっただろう。

   お父さんもお母さんも、包帯に包まれた浅葱の遺体の手を取りながら泣いている。
   その表情は哀しくて、哭ないている。

 「あぁああっ、どうしてこんなことに。」

   お父さんは遺体に抱きつきながらその涙で包帯を少しずつ濡らしていく。
   お母さんもハンカチでその涙を拭き取ってはまた涙を流し、もう戻ってこない愛娘の死を受け入れずにただ泣くばかり。

 「娘さんは車イスから転落したお婆さんを助けようと路線内に立ち入って救出しましたが……、我々も手を尽くしましたが、ほぼ即死状態でした。」

   医師もそう告げる。
   そう部屋に響いたのだ。

   ――私はここにいる、生きている！ と、主張したいのに声は出ず、皆には届かない。

   ぼやけた自分の霊体の手を見つめては、死んだと認めざるを得なかったが、それでもこれは悪い夢だと浅葱は遺体が寝せられているベッドの目の前に立つ。
   見るのが怖かった……、包帯だらけで仮にも自分の体ときているのだからじっくりと見ていると心が壊れそうでならなかった。
   しかし浅葱はもしやと思いその魂なき体に突撃をぶちかます。

   ……。

   浅葱の霊体は遺体をすり抜けるどころかベッドをすり抜けてしまう。
   何度やっても結果は同じだった。

   ――自分は死んだ……、という受け入れたくない思いを強制的に認識させられようと心に重くのし掛かってくる浅葱は、声無き声で慟哭してはうなだれてしまう。

   自分の正義感のために家族に迷惑をかけてしまうなんて思ってもよらなかったし、闇より深い後悔が次々と脳裏に過っては成仏するにもできない。
   部屋はお世辞にも綺麗とは言えないし、パソコンの中身や端末の中身だって。

   全てにおいて絶望していた浅葱は頭の頂点から引っ張られるような感覚とともに、また意識を手放した。