垢BAN転生【最強に飽きたので次は最弱で世界を謳歌します!】

青衣

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第三章・都市部

再出発と福引きチケット

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   ――眩しい朝日に起こされて……。

   ものの四時間しか眠ってないアルマには昨晩の疲れは相当堪えたのか、筋肉痛らしき右手をプラプラさせながらリンゴを左手で持ちながらかじりつく。
   倦怠感こそあれど心と体は満たされて、じんわりと暖かかったため、リンゴを持つ分には苦にもない。

 「はぁ……俺としたことがな、まさかあんなことになるなんて。」

   思い出す分には構わないが、思い出そうとするとボーッとした熱っぽさが込み上げてきては下半身が反応したり、リディアの事が頭から離れなくなったりと複雑な気分に陥ってしまいそうで怖かった。
   それはアルマさん以上にリディアのことを好きになってしまったら、どうすればいいのかわからなくなってしまうためだ。

   それでもやはりリディアの事が頭から離れないのは明確で、寝起き早々の気だるさと同時に放心状態はしばらくは続いた。



 「さてと、もうそろそろなはずだよな。」

   アルマは宿屋の目の前でソワソワしながら待つこと数分、荷馬車がやって来る。
   この荷馬車で一気に都市部まで移動しては本来チュートリアルは終了であり、一旦は戦闘においてのイロハを学んだことからゲームの本当の始まりだと言える。

 「よっと……都市部までお願いできるかな?」

 「あぁ、良いぜ……乗りな。」

   小柄なおじさんは馬を指揮すると荷馬車はゆっくりと走り出すもその数秒後、不思議な寂しさが湧いては後ろを振り向く。
   その不思議な寂しさの原因はイベントのねじ曲げに存在していることにはすぐに気がつくも、アルマが意図しないときに発動することもあるようなのだから仕方ないとはいえ、本来は村の皆が見送りをしてくれるはずなのだ。

 「……はぁ。」

   一日しか滞在していなくても村の人の事は愛着があるし、前回のアカウントの時よりずっと特別な存在になったボム爺やリディアとの別れは辛いものだが、今はストーリーを進めてまたあとでサブクエストの時に会いに来ればいいと妥協する。

   荷馬車の揺れはとても心地よいもので、舗装されてない地面だけの道を力強く走る車輪の揺れは、バスのような感覚に似てはいないものの自然と睡眠に落ちることができる良き体験であった。












 「着いたぞ、さぁ……起きた起きた。」

 「ん? ん……。」

   おじさんの声で起こされたのは太陽が少し傾いた頃の出来事であり、大体昼の二時と言えるような時間帯だが無事に都市部まで到着したことに安堵し胸を撫で下ろすアルマ。

 「おじさん、ありがとう。」

 「なんのなんの、人間助け合いが一番だ。 それに目的地が都市部までなら利害の一致ってヤツだよ。」

   野菜を積んだ荷馬車はアルマを下ろすとそのまま都市部の内部の方へと走り出すと、心地のよい馬蹄の足音と共に瞬く間の間に小さくなっては見えなくなってゆく。
   アルマも道草は食えないであろうからさっさと都市部に入っては、やるべきことをやって急ごうとする。

   しかし、ここまで来ればさすがのオンラインの人をようやく発見できたのか、サーバーの繋がりがあることに少しだけホッとしては完璧な孤独じゃないことに安心する。

 「さてと……、あ……あ、あぁああああぁぁっ!?」

   都市部の人の多さと賑やかさに浮かれていた直後である、とても大切なものを思い出しては頭を抱えて青ざめるアルマ。
   いったい何があったと言うのだろう?

   本来のルートではスライムの襲撃から町を救った主人公は村長から御礼の印として、都市部の武器屋で使える福引きチケットを貰えるはずなのだが、そのイベントすらねじ曲げられているため大抵のゲームの醍醐味、通称【リセマラ】と呼ばれる試練が存在しないのだ。

   リセマラと言うのはリセットマラソンの略称であり、ゲームをスタートさせてはチュートリアル等をクリアすると冒険の始まりとして大抵はガチャを無償で引かせてくれる。
   そこから冒険がスタートするのだが、いかんせんガチャなのだからレア度の低いものを引き当てたり気に入らないものが当たったりするとデーターをリセットしては、お目当ての武器などが当たるまでリセットし、それを繰り返すマラソンが始まるのだ。
 
 「あ……あぁ……、福引きチケット。」

   武器屋には常に行列が絶え間なく見えており、強い武器やお目当ての武器をゲットできたユーザーは歓喜し、気に入らない……もしくは弱い武器を当てたものはその場でログアウトしてはアカウントを一からやり直す作業がここでは良くみられる。



 「おおっと、【命刈鎌・ライフハーヴェスト】が大当たりぃいいっ!!」



   武器屋のお姉さんはカランカランと軽快にベルを鳴らすとカッコいい大きな鎌が当選したユーザーに贈られ、早速装備してはどこかへと駆け足で走ってゆく。

   もちろん、オンラインなのだから頭上の電工掲示板にはとてもレア度の高い武器や装備などの当選者は発表される仕組みであり、一時的に注目の対象とされる。

 「うわぁ、俺の狙いの武器が目の前で当てられてる……こりゃ、乱数の調整が失敗かな。」

 「俺はカルヴァドス当てるまで諦めんよ! まぁ……リセマラ百十四週目なのだがな。」

 「はー……ぶっ壊れとか、マジ人権だわ。」

   色々なユーザーのチャットは駄々漏れであるが、デジタル抽選のガチャは残酷ながらもお金を搾り取るのだから、初めは無償で引かせてくれることに誰も文句は言わないだろう。
   まぁ、排出率についてはたいていは甘くないようだが。

   先程の【命刈鎌・ライフハーヴェスト】と言うのもやはり相当なレア度を誇る武器であり、植物系統のモンスターに追加ダメージの【キラー】という特性を持ち、さらには体力を吸収する【ドレイン】の効果も自動で付与されるみんなの憧れの武器である。
   一番の見所は名前の通り、命を刈り取る鎌、命の収穫などの意味合いが込められた武器なのであるために、会心の一撃が出やすい特性も魅力なのだ。

   この武器欲しさに、ピックアップ時に搾り取られ爆死したユーザーも数知れず、まさに命を刈り取る鎌の名前は伊達じゃない。

 「俺だけ木の剣と言うのも恥ずかしいな。」

   辺りを見渡すと当然の事ながらガチャを引き終わった人達が集う場所なので、レアでも妥協して進めている人や普通に強い武器の人、ぶっ壊れの武器を持つラッキーな初心者マークのユーザーがたくさんいる。
   その中で木の剣を持っているのはアルマ一人だけなのだから、逃げたくなるのは当たり前だろう。

 「と、とりあえずイベントの地点まで逃げるしかない。」

   トボトボとガチャを引けない恨みのオーラを出しながら、イベントの地点の路地裏まで行くことに。














   路地裏にもたくさんの人が居ており、初めてのクエストをしようとみんな必死である。

 「あっ……と、そこの君にも頼もうかな?」

   これまたオッサンがアルマに話しかけてくるも、本来はこちらから話しかけなきゃ何も始まらないはずなのだが、相手はエヌ・ピー・シーであろうがアルマにだけは心を持つ存在。
   他のユーザーの画面には普通に写ってるかもしれないが、アルマのユーザーからはきっと変に思えてるのかもしれない。

   とはいえ、アルマのユーザー自体がアルマとしてここにいるのだから別に深くは気にしなくても良いと、心に言い聞かせる。

 「あー、薬草三つだよね? 了解。」

 「なっ、なぜ言わなくても解ったんだ!?」

   オッサンは不思議そうな表情をしているも、アルマにとっては二週目と言っても過言じゃないし大抵のストーリーはわかる。
   ねじ曲がった予期しないストーリー以外なら魔王までの道のりは暗記しているはずだから、あっさりと了解を得ると薬草を採取するために一旦は都市部の外に行こうとするのだった。
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