日々是成長・HDリマスター(本編の少し前のお話)

青衣

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8月29日

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8月29日。
これもまた一興。














   時雨地方は七刻大陸のどこよりも寒くて平均気温は今ぐらいでも一桁に達する時期である。
   そんな民達は三十度の暑さではとてもじゃないが参ってしまい、今年は少し暑くて真夏日を観測することもしばしばある時雨でも、そんな暑さにも打ち克ちホッと一安心をしては今日もヒンヤリと肌寒く感じられる空間でのんびり暮らしている。

 「寒いですね。」

   時雨と良好な関係を築いてるのは夜朧であり、仮に夜朧の地域内に時雨の人が居ても歓迎的に迎えてくれるが、それ以外の地域の人を邪険に冷たい態度を取るようなほど他所には冷たい。
   そんな中、例外はあれどほぼ唯一時雨には良好で温かな関係をお互いしている。

   かと言えど風見の民の玄弥は別であり、夜朧の英雄なのだから彼を邪険に思う人も多くはないだろう。
   稲作を教えて施し夜朧の農民のサポートを行うほどなのだから。

   さて、話は戻るが聖奈は珍しく時雨に赴いては何やら恵麻に用があるらしく歩き回っている。

 「滑らないようにしなくてはいけませんね。」

   時雨浄水場内の床は薄く凍りついており、そのまま歩いてゆけばしっかり足をつけなくては転んでしまうほどツルツルであるから、聖奈は若干浮遊しながら移動をする。
   身も凍るような寒さの館内は和服の着物ですらあまり防寒の役目を果たさないのだから、当たり前のように時雨の民ではない聖奈は多少は寒さに強くても長居はできない。

 「さてと、ここですね。」

   恵麻の部屋の前についた扉のロックを解除するには恵麻の水曜力を認識する以外は道はないが、実は聖奈と恵麻は揚力の波長は似ている為に多少水曜力を強めに纏うだけで聖奈は恵麻と同じと認識され、ドアロック解除ができるわけである。
   恵麻もそれを実際に知っておりこちらから開けなくても勝手に入ってくることは知ってるし、お互い同一の存在なのでいつのタイミングで来るのかなんて以心伝心でわかる。

   扉を開くと恵麻はパソコンで書類を作ってる真っ最中である。

 「いらっしゃいですー。」

 「どうもこんにちは、失礼させていただきますね。」

   聖奈は懐から小さな辞書を取り出すと、本棚に返却する。
   元々は恵麻のものみたいで、借りていたようだ。

 「聖奈さん本当にその辞書好きなんですね。 欲しければあげますよ?」

   たまに仮に来るこの辞書なのだが、もう恵麻には不要なものであるから別に貰っていっても構わない代物で、誰かに使ってもらえるなら辞書もそれは本望だろう。

 「私は……その、辞書は持ってますから……。 それにこれは恵麻様がお持ちください。」

   この言葉に恵麻は引っ掛かりを覚える。
   確かによく思えば夜朧城の本棚にも分厚い辞書はあったことがあり、どこで使うのかすらわからない漢字の単語すら載っているほど。
   そう考えると、こういう小型の辞典をよみたくなる気持ちもわからなくは無いかもしれないのだが、いまいち恵麻には理解はしづらい。

 「今の若者は端末さえあれば辞書など要らない世代、堕ちたものですね。」

   恵麻の心にグサッと刺さるその言葉は、別に悪気がなく言った若者嫌いの聖奈の皮肉はダメージを的確に与える。
   まぁ、とうの恵麻にとっては精神的なダメージすら心地よく感じるような変態なのだから仕方ないとしても、確かに辞書離れした今のご時世には時代の流れを感じる。

 「さて、私は返すものも返しましたし、帰るとしますか。」

 「あ……あー、はい……。」

   恵麻だってたまに五十音はややこしくて辞書で調べるのには時間がかかると端末を手に取るまでは自力だったものの、利器を手に取るともう戻れないものだと思うも、たまには辞書を眺めては一つ頷くのであった。














新たな発見と出会いと、言葉の意味を知る。
それに隠された宝探しもまた一興である。
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