3 / 38
8月29日
しおりを挟む
8月29日。
これもまた一興。
時雨地方は七刻大陸のどこよりも寒くて平均気温は今ぐらいでも一桁に達する時期である。
そんな民達は三十度の暑さではとてもじゃないが参ってしまい、今年は少し暑くて真夏日を観測することもしばしばある時雨でも、そんな暑さにも打ち克ちホッと一安心をしては今日もヒンヤリと肌寒く感じられる空間でのんびり暮らしている。
「寒いですね。」
時雨と良好な関係を築いてるのは夜朧であり、仮に夜朧の地域内に時雨の人が居ても歓迎的に迎えてくれるが、それ以外の地域の人を邪険に冷たい態度を取るようなほど他所には冷たい。
そんな中、例外はあれどほぼ唯一時雨には良好で温かな関係をお互いしている。
かと言えど風見の民の玄弥は別であり、夜朧の英雄なのだから彼を邪険に思う人も多くはないだろう。
稲作を教えて施し夜朧の農民のサポートを行うほどなのだから。
さて、話は戻るが聖奈は珍しく時雨に赴いては何やら恵麻に用があるらしく歩き回っている。
「滑らないようにしなくてはいけませんね。」
時雨浄水場内の床は薄く凍りついており、そのまま歩いてゆけばしっかり足をつけなくては転んでしまうほどツルツルであるから、聖奈は若干浮遊しながら移動をする。
身も凍るような寒さの館内は和服の着物ですらあまり防寒の役目を果たさないのだから、当たり前のように時雨の民ではない聖奈は多少は寒さに強くても長居はできない。
「さてと、ここですね。」
恵麻の部屋の前についた扉のロックを解除するには恵麻の水曜力を認識する以外は道はないが、実は聖奈と恵麻は揚力の波長は似ている為に多少水曜力を強めに纏うだけで聖奈は恵麻と同じと認識され、ドアロック解除ができるわけである。
恵麻もそれを実際に知っておりこちらから開けなくても勝手に入ってくることは知ってるし、お互い同一の存在なのでいつのタイミングで来るのかなんて以心伝心でわかる。
扉を開くと恵麻はパソコンで書類を作ってる真っ最中である。
「いらっしゃいですー。」
「どうもこんにちは、失礼させていただきますね。」
聖奈は懐から小さな辞書を取り出すと、本棚に返却する。
元々は恵麻のものみたいで、借りていたようだ。
「聖奈さん本当にその辞書好きなんですね。 欲しければあげますよ?」
たまに仮に来るこの辞書なのだが、もう恵麻には不要なものであるから別に貰っていっても構わない代物で、誰かに使ってもらえるなら辞書もそれは本望だろう。
「私は……その、辞書は持ってますから……。 それにこれは恵麻様がお持ちください。」
この言葉に恵麻は引っ掛かりを覚える。
確かによく思えば夜朧城の本棚にも分厚い辞書はあったことがあり、どこで使うのかすらわからない漢字の単語すら載っているほど。
そう考えると、こういう小型の辞典をよみたくなる気持ちもわからなくは無いかもしれないのだが、いまいち恵麻には理解はしづらい。
「今の若者は端末さえあれば辞書など要らない世代、堕ちたものですね。」
恵麻の心にグサッと刺さるその言葉は、別に悪気がなく言った若者嫌いの聖奈の皮肉はダメージを的確に与える。
まぁ、とうの恵麻にとっては精神的なダメージすら心地よく感じるような変態なのだから仕方ないとしても、確かに辞書離れした今のご時世には時代の流れを感じる。
「さて、私は返すものも返しましたし、帰るとしますか。」
「あ……あー、はい……。」
恵麻だってたまに五十音はややこしくて辞書で調べるのには時間がかかると端末を手に取るまでは自力だったものの、利器を手に取るともう戻れないものだと思うも、たまには辞書を眺めては一つ頷くのであった。
新たな発見と出会いと、言葉の意味を知る。
それに隠された宝探しもまた一興である。
これもまた一興。
時雨地方は七刻大陸のどこよりも寒くて平均気温は今ぐらいでも一桁に達する時期である。
そんな民達は三十度の暑さではとてもじゃないが参ってしまい、今年は少し暑くて真夏日を観測することもしばしばある時雨でも、そんな暑さにも打ち克ちホッと一安心をしては今日もヒンヤリと肌寒く感じられる空間でのんびり暮らしている。
「寒いですね。」
時雨と良好な関係を築いてるのは夜朧であり、仮に夜朧の地域内に時雨の人が居ても歓迎的に迎えてくれるが、それ以外の地域の人を邪険に冷たい態度を取るようなほど他所には冷たい。
そんな中、例外はあれどほぼ唯一時雨には良好で温かな関係をお互いしている。
かと言えど風見の民の玄弥は別であり、夜朧の英雄なのだから彼を邪険に思う人も多くはないだろう。
稲作を教えて施し夜朧の農民のサポートを行うほどなのだから。
さて、話は戻るが聖奈は珍しく時雨に赴いては何やら恵麻に用があるらしく歩き回っている。
「滑らないようにしなくてはいけませんね。」
時雨浄水場内の床は薄く凍りついており、そのまま歩いてゆけばしっかり足をつけなくては転んでしまうほどツルツルであるから、聖奈は若干浮遊しながら移動をする。
身も凍るような寒さの館内は和服の着物ですらあまり防寒の役目を果たさないのだから、当たり前のように時雨の民ではない聖奈は多少は寒さに強くても長居はできない。
「さてと、ここですね。」
恵麻の部屋の前についた扉のロックを解除するには恵麻の水曜力を認識する以外は道はないが、実は聖奈と恵麻は揚力の波長は似ている為に多少水曜力を強めに纏うだけで聖奈は恵麻と同じと認識され、ドアロック解除ができるわけである。
恵麻もそれを実際に知っておりこちらから開けなくても勝手に入ってくることは知ってるし、お互い同一の存在なのでいつのタイミングで来るのかなんて以心伝心でわかる。
扉を開くと恵麻はパソコンで書類を作ってる真っ最中である。
「いらっしゃいですー。」
「どうもこんにちは、失礼させていただきますね。」
聖奈は懐から小さな辞書を取り出すと、本棚に返却する。
元々は恵麻のものみたいで、借りていたようだ。
「聖奈さん本当にその辞書好きなんですね。 欲しければあげますよ?」
たまに仮に来るこの辞書なのだが、もう恵麻には不要なものであるから別に貰っていっても構わない代物で、誰かに使ってもらえるなら辞書もそれは本望だろう。
「私は……その、辞書は持ってますから……。 それにこれは恵麻様がお持ちください。」
この言葉に恵麻は引っ掛かりを覚える。
確かによく思えば夜朧城の本棚にも分厚い辞書はあったことがあり、どこで使うのかすらわからない漢字の単語すら載っているほど。
そう考えると、こういう小型の辞典をよみたくなる気持ちもわからなくは無いかもしれないのだが、いまいち恵麻には理解はしづらい。
「今の若者は端末さえあれば辞書など要らない世代、堕ちたものですね。」
恵麻の心にグサッと刺さるその言葉は、別に悪気がなく言った若者嫌いの聖奈の皮肉はダメージを的確に与える。
まぁ、とうの恵麻にとっては精神的なダメージすら心地よく感じるような変態なのだから仕方ないとしても、確かに辞書離れした今のご時世には時代の流れを感じる。
「さて、私は返すものも返しましたし、帰るとしますか。」
「あ……あー、はい……。」
恵麻だってたまに五十音はややこしくて辞書で調べるのには時間がかかると端末を手に取るまでは自力だったものの、利器を手に取るともう戻れないものだと思うも、たまには辞書を眺めては一つ頷くのであった。
新たな発見と出会いと、言葉の意味を知る。
それに隠された宝探しもまた一興である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる