日々是成長・HDリマスター(本編の少し前のお話)

青衣

文字の大きさ
15 / 38

9月10日

しおりを挟む
9月10日。
香りに導かれては……。












   松茸の絵が描かれた段ボール箱をバイクの後ろに積んでは、玄弥は指定された料亭へと足を運ばせる。
   小ぢんまりとした寂しい裏路地からでしか入れない店は、知る人ぞ知る隠れた名店となりつつあるなかで、やっとの思いで見つけた玄弥はギリギリ抱えた段ボールが入るか入らないかの路地裏の、さらに裏の厨房の勝手口の扉へと進んでゆく。

 「かぁーっ、ビールの飲みすぎで太った訳じゃないのに通れないものがあるとはな。 ビールデブにだけはなりたくねぇな。」

   冷たくて無骨な金属のドアノブを開ける。

 「失礼しまーす、風見自然開発センターの者ですが、松茸の納品に来ました………ん?」

   厨房はおろか食堂にすら誰もいない薄暗い室内は、朝陽だけの光源で少しは明るくなっているものの、物々しい雰囲気が空間を作り出している。
   こんな悠長に景色を楽しんでるわけにもいかないのだが、不思議と惹き付けられるものがあるのだろうか、仕事の鬼の玄弥でも段ボールを抱えたまま見とれてしまうほど、異質な雰囲気に取り込まれてゆく。

 「なんだろうな……この感覚。」

   なにか懐かしいような感覚が心に景色として流れ込んでくるのがわかる。
   過去にここに来たことがあった……などというデジャヴに似たような物なのかもしれないが、それに似て似つかない他ならぬなにかには変わりはない。
   心が満たされる安心感に例えるのが一番しっくりくる。

 「ん?」

   玄弥の右腕にはめている緑色の髪結い留めに不思議と感じたことのない曜力を感知し、驚愕する。
   基本的な七曜日を冠した曜力ではなく、また別な属性の曜力なのだと直感的に理解した。
   何かの間違いだと思いたいが、明らかに曜力の感覚なため腕に伝わる異様なパワーを曜力そのものと釘付ける決定的な証拠として否定はできないが、どうやらその根源は天井部分から感じ取れるようだ。

 「天井? それとも二階なのか?」

   松茸を納品するためにここまで来たと言うのに、また別な好奇心にそそられていてもたってもいられなくなってしまい、ついついルート変更をしそうになる。
   いけないことをしようとしてるとわかっていても、それが新たな七曜神の発見に繋がるなら大きなものだと。

 「んー……でもな。」

   心当たりは大きくある。
   七曜神は元をたどれば皆、若松結愛なのであり全員が若松結愛なのだから全員の記憶の奥底に曖昧ながらも、いつものメンバー以外の数人の記憶もうっすらと残っている。
   それの記憶は消えかけた蝋燭の炎のようにちっぽけなものでも、不思議と燃え上がるように記憶が大きく膨らんでくる感覚に驚くばかりの玄弥であった。














禁断の領域へと足を踏み入れるのか。
知ってしまったが最後、後には戻れないのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...