日々是成長・HDリマスター(本編の少し前のお話)

青衣

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9月12日

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9月12日。
それは打撃の極み。














   珍しく智美が上機嫌な時がある。
   桃子はそれが不思議でならないと、お得意の影の薄さを利用してはテーブルのスキマから頭を半分だけ乗り出してはじっと見つめる。
   桃子が智美の家に来ているのは、智美には承知の通りなので特にあちら側も気にかける様子はない。

 「……。」

   陽光から購入してきたとされるであろう鰹の塊がデンッと鎮座しており、それを智美は左手で持ち上げる。
   その表情と来たらなんとも女王様のようなもので、キャットマスクに鞭に蝋燭なんかがきっと似合うような妖艶な笑みである。
   現に先程述べた三種の神器は似合うのだが、それはひとまず置いておく。

 「こうかしらね? 初めてだから分からないわぁ。」

   指先からバーナーの如く炎を噴射しては炙ってゆき、鰹の塊の水分を抜いてゆく。
   それこそ焦がした表面の香りはなんとも言えぬ香ばしい香りが充満しては、桃子も無意識的にお腹を押さえて空腹が近いことを悟る。

 「鰹のタタキ……ね。」

   岩動のホテルや旅館にも当然メニューとして存在する鰹のタタキなのだが、強いて疑問をあげるとすれば、その製作過程に【叩く】の要素が全く無いのに【タタキ】なんて名文をつけるのはおかしいのだと、ハイライトの存在しない薄い黄色で虚ろな瞳でじっくりと観察する。
   彼女の製作過程はどうかと。

   しばらくすると、いい具合に焼けた鰹の塊がまな板の上に置かれる。
   元より動かないのだが、まな板の上の鰹というか、動けず抵抗できないものにこれからなにかをしようとしている智美の表情はとても男を魅了する表情であることに間違いはないのだが、桁外れな行動にだけは誰もが驚かされるばかりである。

 「次は……叩く、ねぇ。」

   智美は先程の会話で口から出たのだろうか、鰹のタタキを作るのは初めてなものなのだからとりあえず炙るというのはわかったが、次は直感的に叩くのスパイスを加えるようだ。

 「うーん……? えいっ!」

   軽く拳を突き立てたはずなのに、シンクを伝わって大地が揺れるのはまさに地震。
   震源地の深さはなんとも海抜一メートルと大地よりも上で放たれる神の一撃であるものの、智美も加減は当然わかるのか軽く叩いてゆく。
   軽く叩くだけで震度一から二程度の揺れが続くのだが、もし本気でやるなら震度は二桁はゆくかもしれないし、当然鰹は四散するだろう。

 「か……鰹の、殴り……。」

   想像の斜め上を越える予測の出来事に桃子は震えるも、完成した鰹のタタキの美味しさに酔いしれていたそうである。
   智美もさらに上機嫌になり、新たな料理を覚えたのだが、桃子は製作法についてはツッコみを入れることもなければ、誰にも話すこともなかったそうである。














気合いをいれて作るのが鰹のタタキ。
それは魂の一撃で作られる……かも?(ここまではやりすぎ)
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