捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希

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子供たちを助けました。悪い大人たちは、お仕置きです!

 少女の道案内を頼りに、ヨナリウスたち四人は林の奥へと足を踏み入れた。

 木々の陰に、ぽつりとそれはあった。
 外から中の様子が分からないよう、窓の一つもない馬車。
 その周囲には、屈強そうな男が二人、見張りとして立っている。

 ――まるで、何かを守るかのように。

「あそこか?」

 ドモンが声を潜めて問いかける。

 少女は少し緊張した面持ちで――それでも、はっきりと頷いた。

「よし。じゃあ俺とケイオスで“仕留める”か!」

 そう言い終わるより早く、二人は地面を蹴った。

 次の瞬間。
 男たちは何が起きたのか理解する暇もなく、地面に叩き伏せられていた。
 手足を封じられ、抵抗する余地もない。

 それを確認してから、ヨナリウスとウィリアムは馬車の後方へ回る。

「かぎ、かかってるよ~。」

「あ~、ほんとだ。ウィル、できそう?」

「う~ん……どうかなあ……」

 そう言いながら、ウィリアムは両手をそっと鍵へとかざした。

 ふわり、と。
 優しい風が、ウィリアムの身体を包み込む。

 次の瞬間――

 パキン……

 金属が折れる乾いた音が、林に響いた。

 ウィリアムの父方――つまりヴァレン辺境伯一族は風属性を持つ。
 当然、ウィリアムもその血を受け継いでいる。

「……できてる~?」

「うん。だいじょうぶ~。」

 ヨナリウスは真っ二つに割れた鍵を確認すると、それをぽーん、と林の奥へ蹴り飛ばす。

 そして、ためらいなく馬車の扉に手をかけた。

 ――きい、と軋む音と共に、扉が開く。

 馬車の中は薄暗く、空気は重くよどんでいた。
 鼻をつくのは、湿った木材と、長く閉じ込められていた人の匂い。

 床に横たわっていたのは、先ほど助けた少女と同じくらいの年頃――十歳前後と思しき、男の子が二人、女の子が二人。

 皆、みすぼらしい服を身にまとい、身体は骨ばかりが目立つほどに痩せ細っている。
 そして、その首には――あの首輪。

「……まずは、じゆうにしてあげなくちゃ!」

 ヨナリウスが小さく言った。

「ウィル、やってみる?」

「う~ん……できるかなぁ~?」

 ウィリアムは首をかしげながらも、さきほどヨナリウスがしたことを必死に思い出す。

 ゆっくりと、慎重に。
 床に横たわる少年の首元へ、そっと両手を伸ばした。

 ――ふわり。

 かすかな風が生まれ、

 パキン……

 乾いた音とともに、首輪が割れ、床の上に転がった。

「あ……できたー!」

 思わず声を上げ、ウィリアムはその場でぴょんぴょんと、まるでウサギのように跳ねる。

「じゃあ、ぼくもやるね~。」

 ヨナリウスも加わり、二人で一つずつ、確かめるように。

 パキン。
 パキン。

 次々と首輪は真っ二つになり、鈍い音を立てて床に落ちていった。

 誰も叫ばない。
 誰も騒がない。

 ただ、静かに。
 少しずつ、子供たちは“縛られていたもの”から解放されていった。

 子供たち全員が首輪から解放され、お互いに抱き合って、喜びのあまり泣いている。

 そんな中。

「こいつら、乗っけていいか?」

 突然、ドモンの声が馬車の中に響き、子供たちがびくりと体を跳ね上げた。

「だいじょうぶ。ぼくたちのなかまだよ。」

「うん。外の大人たちはみんな、やっつけてもらったの。」

 ヨナリウスとウィリアムの説明に、体をこわばらせ、一カ所に集まり、まるで団子のように固まっていた子供たちは、安心したのか、ふっと力を抜いたのが見て取れた。

「馬車を動かして全員で、いったん詰め所に向かいましょう。」

 ケイオスは、ぽいぽいと――まるで布団の埃を払うかのように、男たちを鉄製の硬い床へ、バン、バンと投げ込んでいく。
 そのたびに馬車は大きく揺れた。
 子供たちも、そのたびに体をびくびくと跳ね上がらせる。

「ケイオスのお兄ちゃん、怒ってる?」

「うん、かなり怒ってるね~」

 いつも穏やかで温厚なケイオスの、あまりにも乱暴な態度に、子供たち同様、ヨナリウスとウィリアムも驚いた目で見ている。

「ヨナ、ウィル坊ちゃん。この男たちをよ~く見張っていてくださいね。変なことをしたり、言ったりしたら、容赦なくお仕置きをして構いません。」

 ケイオスが、いつもの優しい笑顔で二人にお願いをした。

「でもこいつら、万死に値するよ? 処刑しなくていいの?」

 不穏な言葉を発する人間が一人、ここにはいた。

「? ばんし?ってなんです? ヨナは難しい言葉を知っているのですね?」

 男たちを乗せた途端、ドモンが馬車を走らせたようだ。
 ケイオスは男たちのすぐそばに座り、彼らの行動を監視しながらも、ヨナリウスに尋ねた。

「うーんとねえ。死をもって詫びるべきクズに言い渡す言葉だったかな~?」

 ヨナリウスは、以前、黒髪美人のお姉さんに教えてもらったことを、そのまま伝えた。

「へえ……それは、お母さんに教わったのですか?」

「ちがうよ~。おねえさ……ちがった、えっと、ひみつー!」

 ヨナリウスはかわいく、小さな口の前に人差し指を置いた。

「秘密なんですね?」

「そう。しーなの。」

 二人がそんな会話をしている中、一人だけ体をガタガタと震わせる人間がいた。

「またヨナがへんなことばを言ってる……きっとこわいやつだ。ぜったいそうだ。そうなんだ……」

 意味は分かっていないのに、なぜかヨナの言葉を“怖い言葉”だと解釈してしまうようになっている、ウィリアムなのである。

「そういえばこれ、ぼくたちが使っていいのかなぁ~?」

 さらに、ヨナリウスが意外な言葉を発した。

「え? それってどういう……?」

 予想外の言葉に、ケイオスが反射的に聞き返す。

「こういうことだよ~。」

 ヨナリウスは真っ二つに割れた首輪を持ち、すぐそばに転がっている男の首へ、それを近づけた。
 首輪が白っぽい金色に輝きを放ち――その瞬間。

「え……」

 男の首に、がっちりとはまってしまった。

「子供用の小さな首輪が、このがっしりした大男の太い首に……?」

 ケイオスはあまりのことに目を見開き、首輪を見たまま固まっている。

「ウィル~、こんなんできたけど、できる~?」

 小さな声で「怖いだの、意味わかんないだの」とぶつぶつ呟いているウィリアムに、ヨナリウスが話しかけた。

「え? あ? なぁに?」

 ウィリアムの、呪詛のような独り言がぴたりと止まった。

「これだよ、これ!」

 ヨナリウスはさらに別の男の首にも、同じように首輪をつけてみせた。

「う~ん、できるかなぁ~?」

 ウィリアムは、その場に落ちていた首輪を、ヨナリウスのやったように男の首へ持っていく。
 すると――

「あ、できた~!」

 上手にできたらしく、これまた嬉しさのあまり、ぴょんぴょんとその場で跳ねた。

「ヨ、ヨナ? ウィル坊ちゃん? これは……」

 あまりの驚きように、ケイオスの声が裏返っている。

「うんとね~、わるいことしたら、こうしたらいいらしいの~。おしおきだべ~!」

 ヨナがそう言いながら、一人の男を指さした途端。

「ギャー!」

 男が大声で叫びだし、首輪を両手で引き剥がそうと手足を激しくばたつかせ、必死にもがく。

 口からはだらしなく涎が垂れ、眼からは大量の涙があふれ出ていた。
 よく見れば、きし、きし、と嫌な音を立てながら、首輪が首にぐいぐいと容赦なく食い込んでいっている。

「ヨ、ヨナ~?」

 ケイオスが名を呼んだ途端、首輪の動きが止まり、男は首輪に手を当てながら、ぜーぜーと荒い息を吐いた。
 その状況を見て、青ざめておとなしくなる男たち。

 そして、その状況を理解できない子供たちも――。

「ウィルも、やってみる?」

 しかし、この状況であっても、ヨナリウスは平常運転だった。

「え……こ、怖いよう~母上~!」

 突然のことに放心状態になっていたウィリアムは、突如、激しく泣き出した。
 続けて泣き出す、子供たち。

 馬車の中は、もう誰の声が誰のものか分からない――完全な地獄と化していた。
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